「保険の提案は3年後です」──TOTたちが実践する“売り込まない営業”の正体
杉山 晃浩
「今月も数字が足りない……」
営業職の方なら、一度はそんなプレッシャーを感じたことがあるのではないでしょうか。
特に生命保険営業の世界は厳しい世界です。
毎月の目標。
毎週の活動件数。
毎日のアポイント。
数字に追われ続けることで、心が疲れてしまう人も少なくありません。
実際に、営業成績が伸びず、自信を失い、メンタルを病んでしまう方もいます。
しかし、生命保険業界には、そのようなプレッシャーの中でも長年にわたり圧倒的な成果を出し続けている人たちがいます。
それがTOT(Top of the Table)と呼ばれる方々です。
今回は、私が実際にお会いしたTOTやCOTの方々との会話から学んだ、「売り込まない営業」についてお伝えしたいと思います。
「保険の提案はいつしますか?」
以前、弊所主催のセミナーで、TOTである梅澤三央さんにこんな質問をしました。
「見込み客と出会って、初めて保険提案をするのはいつですか?」
営業経験の浅い人なら、
「2回目」
「3回目」
くらいを想像するかもしれません。
ところが梅澤さんは即答されました。
「3年後です」
私は耳を疑いました。
聞き間違えたかと思い、思わず聞き返しました。
すると梅澤さんは、
「それまでは人間関係づくりです」
とおっしゃいました。
そしてさらに、
「保険を売ろうと思って会っていません」
と続けられました。
営業職の多くは、
「どうやって商品を売るか」
を考えます。
しかし、TOTの方々は、
「どうやって信頼を築くか」
を考えているのです。
保険の話は10回に1回
別の勉強会では、元MDRT日本会会長の長田泉さんのお話を聞く機会がありました。
そこで印象的だったのが次の言葉です。
「保険の話をするのは10回に1回くらい。」
さらに、
「保険は経営者にとってせいぜい1割の関心事。」
「残り9割の話ができなければ関係性なんて築けない。」
と話されていました。
確かにそうです。
経営者の悩みは保険だけではありません。
採用
定着
資金繰り
組織づくり
人間関係
事業承継
相続
DX化
毎日のように様々な課題に直面しています。
その中で、
「保険入りませんか?」
だけを繰り返していても、本当の信頼関係は生まれません。
TOTの方々は、保険の専門家である前に、経営者の相談相手なのです。
活動量が未来をつくる
もう一人、私と企業型DCの普及活動を行っているTOT・COTの砂田全士さんや元ジブラルタ生命チャンピオンの及川さんからも興味深い話を聞きました。
及川さんは言います。
「何度も会える関係性をつくることが仕事。」
「活動量を確保することが大切。」
そして驚いたのが、
「3か月に1回は定期訪問する。」
という言葉でした。
しかも、その訪問の目的は販売ではありません。
「困りごとはありませんか?」
「最近どうですか?」
と話を聞くことです。
また、砂田さんは、選択制企業型DCの案内や金融教育のサポートを通じて経営者と関係性を深めています。
企業型DCは、保険営業からすると収入になりにくい分野です。
しかし、経営者にとってメリットの大きい制度です。
だからこそ、
「この人は自分の利益ではなく、私の会社のことを考えてくれている」
と感じてもらえるのです。
その結果、
「実は保険の相談もしたいんだけど」
という話になるそうです。
まさに信頼の積み重ねです。
売ろうとするほど売れなくなる
営業成績に悩む人ほど、
商品説明を頑張ります。
提案書を作り込みます。
クロージングを勉強します。
もちろん、それも大切です。
しかし、その前に考えたいことがあります。
お客様は商品を買いたいのでしょうか。
そうではありません。
課題を解決したいのです。
安心したいのです。
失敗したくないのです。
未来を良くしたいのです。
つまり、お客様が求めているのは商品ではなく信頼なのです。
だから売ろうとするほど売れなくなる。
逆に、
役に立とうとすると売れる。
TOTの方々の話を聞いていると、そんな共通点が見えてきます。
営業はマラソンであって短距離走ではない
営業職になると、
今月
今週
今日
の数字ばかり見てしまいます。
しかし、TOTの方々は違います。
3年後を見ています。
5年後を見ています。
10年後を見ています。
だから焦りません。
目の前の契約に一喜一憂しません。
種まきを続けます。
信頼残高を積み上げ続けます。
その結果として、大きな成果につながっているのです。
私自身も社会保険労務士として25年以上活動してきました。
振り返ると、長くお付き合いが続いているお客様ほど、最初から仕事の話をしていません。
困りごとを聞き、
一緒に考え、
紹介をいただき、
信頼を積み重ねてきた結果として現在があります。
TOTの方々のお話を聞くたびに、
「営業の本質は変わらない」
と感じます。
最後に
もし今、営業成績が伸びずに苦しんでいる方がいたら、一度立ち止まって考えてみてください。
お客様は商品を待っているでしょうか。
それとも相談相手を求めているでしょうか。
梅澤さんの
「保険の提案は3年後です」
という言葉。
長田さんの
「保険の話は10回に1回」
という言葉。
砂田さんの
「選択制企業型DCが経営者にとって最重要な提案」
という言葉。
どれも共通しているのは、
「信頼が先、契約は後」
という考え方です。
営業とは契約を取る仕事ではありません。
信頼残高を積み上げる仕事です。
そして、その信頼残高こそが、長く安定して成果を出し続ける営業人生を支えてくれるのだと思います。