昼休みなのに電話が鳴ったら出る――その60分、本当に「休憩時間」ですか?
杉山 晃浩
「うちの会社は、昼休みを12時から13時までの60分にしています」
経営者の方に聞くと、多くの会社でこのような答えが返ってきます。
就業規則にも、
「休憩時間 12時00分から13時00分まで」
と書いてある。
勤怠システムでも、その60分を自動的に休憩時間として差し引いている。
そのため、会社としては、
「社員には毎日きちんと60分の休憩を与えています」
という認識です。
ところが、実際の職場を見てみるとどうでしょうか。
昼休み中に会社の電話が鳴る。
社員が箸を置いて、
「はい、○○株式会社です」
と電話に出る。
取引先が突然訪ねてきて、受付の社員が対応する。
宅配便が届いて、誰かが荷物を受け取る。
社用携帯に連絡が入り、担当者が対応する。
メールやチャットが届けば、つい確認して返信する。
そんな職場は決して珍しくありません。
経営者からすれば、
「電話なんて数分でしょう」
「毎日鳴るわけではありません」
「みんなで交替しているから大丈夫です」
と思うかもしれません。
しかし、ここで一度考えていただきたいのです。
その社員は、本当に60分間、仕事から離れて自由に休めているでしょうか。
今回は、中小企業で意外と見落とされやすい「昼休み」と「労働時間」の境界線について考えてみたいと思います。
「就業規則に休憩60分」と書いてあれば大丈夫?
まず知っておきたいのは、休憩時間には法律上のルールがあるということです。
労働基準法第34条では、1日の労働時間が6時間を超える場合には少なくとも45分、8時間を超える場合には少なくとも1時間の休憩を、労働時間の途中に与えることを会社に求めています。
そして、同じ第34条では、休憩時間を労働者に自由に利用させなければならないと定めています。
ここが非常に重要です。
「就業規則に60分と書いてある」
「給与計算で60分差し引いている」
というだけでは、必ずしも十分ではありません。
大切なのは、
その60分間、社員が本当に仕事から離れて自由に過ごせる状態になっているか
ということです。
厚生労働省も、休憩とは労働者が権利として労働から離れることが保障された時間であり、待機して必要があれば仕事をする「手待時間」は休憩には含まれないと説明しています。
つまり、会社が「休憩時間」と呼んでいるかどうかではなく、実際の過ごし方が問われるのです。
昼休みの電話当番は「休憩」ではありません
今回のテーマで最もわかりやすいのが、昼休みの電話当番です。
厚生労働省のQ&Aには、まさに、
「昼休みに電話や来客対応をする昼当番がある場合、勤務時間に含まれるのでしょうか」
という質問が掲載されています。
厚生労働省の回答は明確です。
昼休み中の電話や来客対応は業務であり、勤務時間に含まれます。そして、昼当番によって休憩が取れなかった場合には、会社は別途休憩を与える必要があるとしています。
ここで注意したいのは、
「電話に出ていた時間だけが問題なのか」
という点です。
たとえば、12時から13時まで電話当番をしていた社員がいるとします。
その間、実際に電話が鳴ったのは2回。
対応時間は合計5分でした。
会社側からすると、
「それなら5分だけ仕事をしたということでしょう」
と思うかもしれません。
しかし、その社員が、
「電話が鳴ったら必ず出てください」
と言われていたらどうでしょうか。
外へ食事に行けない。
会社から離れられない。
昼寝をしていても電話を気にしなければならない。
イヤホンをして音楽を聴くこともためらう。
つまり、60分間ずっと「いつでも仕事ができる状態」で待っているわけです。
この場合は、単純に電話対応をした5分だけを見るのではなく、待機していた時間そのものが労働時間に当たらないかを考える必要があります。
「電話が鳴らなかったから休憩」は本当に正しい?
ここは、経営者が勘違いしやすいところです。
ある日の昼休み。
電話当番をしていたけれど、結果的に電話は一本も鳴らなかった。
すると、
「今日は何も仕事をしていないから、普通に休憩ですよね」
と思うかもしれません。
しかし、休憩時間かどうかを考えるうえで重要なのは、
実際に仕事をしたかどうか
だけではありません。
仕事をしなくてもよい状態だったか
という点も重要です。
電話が鳴れば必ず対応しなければならない。
来客があればすぐ受付をしなければならない。
指示があればすぐ仕事に戻らなければならない。
こうした状態では、完全に仕事から解放されているとは言いにくくなります。
厚生労働省も、電話や来客対応をするよう指示されている時間は休憩ではなく労働時間とみなされると説明しています。
「何も起きなかったから休憩だった」
ではなく、
何か起きたら対応しなければならない状態だったのか
を見る必要があるのです。
「当番制だから大丈夫」でもありません
「うちは特定の社員だけに負担をかけていません。みんなで交替しています」
という会社もあります。
たとえば5人の社員がいて、
月曜日はAさん。
火曜日はBさん。
水曜日はCさん。
という形で昼休みの電話当番を回しているケースです。
交替制にすること自体が悪いわけではありません。
問題は、
当番になった社員に、別の時間帯できちんと休憩を与えているか
です。
たとえば、Aさんが12時から13時まで電話当番を担当するのであれば、
「Aさんは13時から14時まで休憩してください」
というように、別の時間帯で仕事から離れる時間を確保する方法があります。
ところが、
「月に数回だから」
「電話が鳴らない日もあるから」
「お弁当は食べられるから」
という理由で、電話当番をした60分をそのまま休憩扱いしているのであれば、運用を一度確認した方がよいでしょう。
厚生労働省も、昼休み中の電話や来客対応は勤務時間に含まれ、昼当番によって休憩が費やされた場合には別途休憩を与える必要があるとしています。
大切なのは、
「公平に当番を回しているか」ではなく、「当番者にも法律上必要な休憩が確保されているか」
なのです。
一人事務所や小さな会社ほど起こりやすい
この問題は、特に中小企業や小規模事業所で起こりやすいと感じます。
たとえば、事務員が一人しかいない会社。
昼休みになっても会社の代表電話は鳴る。
社長は外出中。
営業社員も外回り。
事務所には、その社員しかいない。
本人は机でお弁当を食べています。
経営者からすれば、
「ちゃんと食事をしているから休憩でしょう」
と思うかもしれません。
しかし、その社員が、
電話が鳴ったら出る。
来客があれば対応する。
宅配便が来れば受け取る。
という状態であれば、本当に仕事から離れていると言えるでしょうか。
社員本人が、
「私は気にしていません」
「電話番くらい大丈夫ですよ」
と言っていたとしても、それだけで法律上の休憩になるわけではありません。
重要なのは、会社が社員を実際に業務から解放しているかです。
店舗、クリニック、介護施設でも同じです
この問題は、一般企業の事務職だけに起こるものではありません。
たとえば店舗で、
「休憩中だけど、お客様が来たら呼ぶね」
クリニックで、
「昼休みだけど、電話が鳴ったら受付してください」
介護施設で、
「何かあったらすぐ呼びます」
ホテルや旅館で、
「お客様から呼ばれたら対応してください」
こうしたケースがあります。
もちろん、業種や職場の事情によっては、社員全員が12時から13時まで一斉に休むことが難しい場合もあります。
法律上、一斉休憩の原則には一定の業種に例外があり、それ以外の事業でも労使協定によって交替で休憩を与えることができます。
しかし、ここで間違えてはいけないのは、
「一斉に休ませなくてもよい」ことと、「休憩を与えなくてもよい」ことは全く違う
ということです。
交替で休ませるのであれば、それぞれの社員が業務から離れられる休憩時間を確保する必要があります。
昼休み中のメールやチャットはどうでしょう?
最近は電話だけではありません。
メール。
社内チャット。
LINE WORKS。
Slack。
Chatwork。
Teams。
さまざまな連絡手段があります。
休憩中にスマートフォンが鳴り、
「至急確認してください」
とメッセージが入る。
社員が返信する。
それが当たり前になっていないでしょうか。
社員が自分の判断でメールを見ているだけなのか。
それとも、
「連絡が来たら休憩中でも対応してください」
という会社のルールになっているのか。
ここは分けて考える必要があります。
休憩時間中も業務連絡への即時対応を求めているのであれば、社員が本当に業務から解放されているのか、改めて確認する必要があります。
働き方がデジタル化しても、休憩時間の基本的な考え方は変わりません。
むしろ、スマートフォン一台でどこでも仕事ができる時代だからこそ、「仕事をしない時間」を会社が意識してつくることが重要になっています。
「細かく休ませれば合計60分」は大丈夫?
忙しい職場では、
「まとまって60分休ませるのは難しいから、休めるときに少しずつ休んでもらおう」
という会社もあります。
休憩を分割すること自体が、直ちに認められないわけではありません。
ただし、厚生労働省は、分割された休憩がごく短い場合には自由利用が事実上制限され、労働から完全に解放された休憩と評価されない場合があると注意しています。
たとえば、
「電話が鳴らなかった5分を休憩」
「仕事の合間の3分を積み上げる」
という形で帳簿上60分になっていたとしても、それで社員が十分に仕事から離れられたと言えるでしょうか。
休憩の目的は、
計算上60分をつくることではありません。
社員が仕事から離れて休息できる時間を確保することです。
ここを忘れてはいけません。
「社員にちゃんと休憩を取るよう言っています」だけでは解決しない
経営者が、
「ちゃんと休憩を取ってくださいね」
と社員に伝えている会社もあります。
しかし、それだけで解決しない場合があります。
なぜなら、社員が休めない原因そのものが、会社の仕組みにあるからです。
電話を取る人が一人しかいない。
受付を空けられない。
店舗を一人で任せている。
昼休みでも代表電話を止められない。
社用携帯を持っていなければならない。
チャットにはすぐ返信しなければならない。
この状態で、
「自由に休んでください」
と言われても、社員は困ってしまいます。
経営者が考えるべきなのは、
「社員が休もうとしているか」
ではありません。
社員が本当に休める仕組みになっているか
です。
たとえば、
昼休みは留守番電話に切り替える。
昼休みの時間をホームページや取引先に案内する。
電話当番を置く場合は、その社員の休憩時間をずらす。
複数の社員で交替する。
社用携帯を休憩中は別の社員に引き継ぐ。
メールやチャットは休憩後の返信でよいというルールにする。
少し仕組みを変えるだけで改善できる会社も多いはずです。
問題は「電話に出た5分」だけではありません
今回、経営者の方に一番お伝えしたいのはここです。
昼休みに電話が1本鳴った。
対応した時間は5分だった。
だから、
「その5分だけ労働時間として処理すればいい」
という問題ではない場合があります。
その社員が60分間、
「電話が鳴ったら出なければならない」
「来客があれば対応しなければならない」
という状態であれば、見るべきなのは5分だけではありません。
その60分間、本当に仕事から解放されていたのか。
ここを確認する必要があります。
経営者が見るべきなのは、
「何分仕事をしたか」
だけではなく、
社員が自由に休める状態を会社がつくっていたか
なのです。
あなたの会社の昼休み、本当に休めていますか?
ここまで読んで、
「そういえば、うちも事務員が昼休みに電話を取っているな」
「店舗スタッフは休憩中でも呼ばれることがある」
「一人事務所だから、完全に休ませるのは難しい」
と思われた方もいるのではないでしょうか。
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休憩時間は「会社が与えたつもり」では決まりません
就業規則には60分と書いてある。
勤怠システムでも60分を差し引いている。
給与計算上も休憩60分。
それでも、現場では社員が電話を取り、来客に対応し、メールを確認しているかもしれません。
大切なのは、
会社が休憩を与えたつもりかどうかではありません。
社員が実際に仕事から離れられているかどうかです。
ぜひ一度、昼12時になったときの職場を見てみてください。
誰が電話を取っていますか。
誰が受付に残っていますか。
社用携帯は誰が持っていますか。
社員は自由に食事へ出かけられていますか。
「何かあったら呼ぶから」と言われている社員はいませんか。
そこには、就業規則だけを見ていてもわからない、会社の本当の姿があります。
社員の休憩時間を見直すことは、単に法律を守るためだけの話ではありません。
きちんと休む。
そして、働くときには集中して働く。
そんなメリハリのある職場をつくることは、社員の健康や生産性、そして会社への信頼にもつながっていきます。
あなたの会社では、
「昼休みは60分あります」
と、
「社員が60分間きちんと休めています」
は、本当に同じ意味になっているでしょうか。
この機会に、一度現場を確認してみてはいかがでしょうか。