現場への移動時間は仕事ですか?建設会社が勘違いしやすい「移動・集合・片付け」の労働時間
杉山 晃浩
「現場で仕事をしている時間だけが労働時間ですよね?」
建設会社の経営者の方とお話ししていると、このような認識を持たれているケースがあります。
たとえば、朝7時に会社へ集合する。
みんなで資材や工具を社用車に積み込む。
7時30分に会社を出発する。
8時30分に現場へ到着して作業開始。
17時に現場作業を終了する。
そこから社用車で会社へ戻る。
18時に会社へ到着。
工具を降ろし、車両を片付け、翌日の準備をして18時30分に退社する。
ところが勤怠記録を見ると、
「8時30分から17時まで」
となっている。
会社側は、
「現場で作業していた時間だけを労働時間にしています」
と考えている。
しかし、本当にそれでよいのでしょうか。
建設業では、
現場に着いてからが仕事
とは限りません。
会社に集合する時間。
資材を積み込む時間。
現場へ移動する時間。
現場で待機する時間。
会社へ戻る時間。
帰社後に工具を片付ける時間。
こうした時間も、会社の指示や実際の働き方によっては労働時間になる可能性があります。
今回は、建設会社で特に勘違いされやすい「移動時間」と労働時間の関係について考えてみたいと思います。
建設業でも「会社の指示のもとにある時間」が労働時間
まず、労働時間の基本的な考え方は、建設業でも他の業種と同じです。
厚生労働省は、労働時間について、
使用者の指揮命令下に置かれている時間
としています。
そして、会社から明確に「やりなさい」と言われた場合だけでなく、会社が実質的にその行動を求めている「黙示の指示」により業務を行っている時間も、労働時間に当たるとしています。
建設業については、厚生労働省の建設業向け長時間労働改善の案内でも、
- 現場への移動
- 待機
- 作業着への着替え
- 作業後の片付け
などについて、会社の明示または黙示の指示がある場合には、労働時間に該当し得るという考え方が示されています。
つまり建設会社が最初に確認すべきなのは、
「社員が現場で何時間作業したか」
だけではありません。
社員が何時から会社の指示のもとで動き始め、何時にその指示から解放されたのか
という一日の流れ全体です。
「会社に集合して現場へ行く」は通勤時間でしょうか?
建設会社で最も判断が難しいのが、現場への移動時間です。
たとえば社員が自宅から直接現場へ行き、仕事が終わったらそのまま自宅へ帰る。
いわゆる直行直帰です。
この場合、自宅から現場までの時間は、一般的には通常の通勤と同じように考えられるケースがあります。
では、次のような場合はどうでしょう。
朝7時に会社へ集合。
会社から、
「今日はこのメンバーで、この社用車に乗って現場へ行ってください」
と指示される。
全員で社用車に乗り、1時間かけて現場へ移動する。
このように、社用車への乗合いや移動手段が会社から指定されている場合は、その移動時間が労働時間と判断される可能性があります。
一方で、
直行直帰が自由に認められている。
社員同士が、
「一緒に行った方が楽だから」
と自分たちで相談して集合場所や運転者を決めている。
このような場合には、通常の通勤に近いと判断されるケースもあります。
つまり、
社用車で移動したら全部労働時間
でも、
現場への移動は全部通勤時間
でもありません。
ポイントは、
誰が移動方法を決めたのか
です。
会社が決めているのか。
社員が自由に選んでいるのか。
ここで判断が分かれます。
資材を積み込んでから現場へ行くなら話は変わる
建設会社では、現場へ向かう前にさまざまな準備があります。
工具を積む。
資材を積む。
機材を積む。
図面を確認する。
今日の作業内容を打ち合わせる。
こうした作業を会社で行ってから現場へ出発するケースは多いでしょう。
このように、会社の指示で資材や工具を積み込んでから、そのまま現場へ移動する場合には、
積込みから移動までを一連の業務として見る必要がある
ことがあります。
考えてみれば当然かもしれません。
会社へ来て、
資材を積み、
工具を準備し、
会社の指示で社用車に乗り、
現場へ向かう。
この一連の流れの中で、
「資材を積んでいる時間は仕事ですが、車が動き出した瞬間から通勤になります」
と区切ることには違和感があります。
特に、
「朝は会社に集合してください」
「資材を積んでから現場へ行ってください」
「社用車に全員で乗ってください」
という会社は、自社の勤怠記録が実態と合っているか確認した方がよいでしょう。
運転していない社員は「休憩」になるのでしょうか?
ここでよく出る質問があります。
「運転手は仕事かもしれないけれど、助手席や後部座席に乗っている社員は仕事ではないですよね?」
これも一律には判断できません。
会社が社用車での乗合いを指示している。
社員には移動手段を選ぶ自由がない。
現場へ向かうために、その車に乗っていなければならない。
このような場合には、単に運転していないからといって、その社員だけ移動時間が労働時間ではないとは限りません。
さらに、移動中に上司から、
「今日の現場はこういう段取りでやる」
「Aさんはこっち、Bさんはこちらを担当」
と打ち合わせが行われている場合は、なおさら業務性が高くなります。
重要なのは、
「座っているから休んでいる」
という見た目ではありません。
会社の業務から自由になっているかどうかです。
現場で何もしていない「待ち時間」はどうなる?
建設現場では、予定どおり作業が進まないことがあります。
資材が届かない。
前工程が終わっていない。
他業者の作業が終わるのを待つ。
重機が空くのを待つ。
現場監督の指示を待つ。
社員は現場にいるけれど、実際には何も作業していない。
経営者としては、
「仕事をしていないんだから、労働時間ではないのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、ここでも重要なのは、
その時間を社員が自由に使えるか
です。
会社から、
「ここで待っていてください」
「合図があればすぐ作業を始めてください」
と指示されている。
現場を離れることはできない。
買い物や食事に自由に行くこともできない。
このような状態は、いわゆる「手待時間」として労働時間になる可能性があります。
逆に、待機中に完全に自由に行動できる。
会社から即時対応を求められていない。
こうした場合には、労働時間に当たらない可能性もあります。
つまり、
何もしていない時間=休憩
ではありません。
何もしていなくても、会社の指示で待たされているなら、労働時間になる可能性があります。
現場が終わったら仕事も終わり、ではありません
夕方17時。
現場での作業が終わる。
社員は社用車に乗って会社へ戻る。
会社に戻ったら、
工具を降ろす。
車内を清掃する。
資材を整理する。
廃材を所定の場所へ片付ける。
翌日の工具を準備する。
そして18時30分に退社。
この会社が、
「現場は17時に終わっているから、勤務時間は17時まで」
としていたらどうでしょう。
会社の指示によって行う業務終了後の清掃や片付けは、労働時間に該当する可能性があります。
また、
現場から会社へ戻ることが会社から求められている
帰社後に片付けや翌日準備が必要
という場合には、帰りの移動時間も含めて一連の業務として確認する必要があります。
つまり、
現場終了
↓
会社へ移動
↓
工具を降ろす
↓
車を片付ける
↓
翌日の準備
↓
退社
という流れが会社の指示のもとで行われているのであれば、
「現場作業が終わった17時」がそのまま終業時刻とは限らない
ということです。
タイムカードを現場到着時から付けていませんか?
建設会社の勤怠管理で注意したいのが、タイムカードや勤怠アプリを押すタイミングです。
たとえば、
朝7時に会社集合。
7時10分から資材積込み。
7時30分に出発。
8時30分に現場到着。
そこでスマートフォンの勤怠アプリを「出勤」にする。
この場合、記録上は8時30分始業です。
しかし、7時から8時30分までの間に、
集合。
積込み。
会社指定の社用車で移動。
という業務が行われている可能性があります。
建設業は現場が毎日変わることもあります。
だからこそ、
「タイムカードをどこで押すか」
だけではなく、
実際に何時から会社の指示のもとで動いているのか
を確認する必要があります。
2024年から建設業にも残業の上限規制が適用されています
この問題は、未払い残業代だけの話ではありません。
建設業には、2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されています。
会社が、
「現場作業は1日8時間だから大丈夫」
と思っていても、
その前後に、
集合。
積込み。
現場移動。
待機。
帰社。
片付け。
があれば、実際の労働時間はもっと長いかもしれません。
つまり、移動時間を正しく把握していない会社では、
未払い賃金の問題だけでなく、
会社が認識している残業時間と、本当の残業時間が違う
可能性があります。
残業の上限を守るためにも、まず正しい労働時間を把握しなければなりません。
「全部労働時間にすればいい」という話でもありません
ここまで読むと、
「じゃあ、自宅を出てから帰るまで全部労働時間にしないといけないのか」
と思われるかもしれません。
そうではありません。
直行直帰が自由に認められている。
社員が自分で移動手段を選べる。
社員同士が任意で乗り合わせている。
こうした場合には、通常の通勤と同じように労働時間に該当しないケースもあります。
大切なのは、
移動時間は労働時間か、通勤時間か
と二択で一律に決めることではありません。
会社の指示があるか。
移動方法を自由に選べるか。
移動前後に業務があるか。
移動中に仕事をしているか。
帰社が義務づけられているか。
こうした実態を一つずつ確認することです。
一日の流れを「時間軸」で書いてみてください
私は建設会社の経営者の方に、ぜひ一度やっていただきたいことがあります。
ある社員の一日を、時間順に書き出してみてください。
たとえば、
6時50分 会社到着
7時00分 集合
7時10分 資材積込み
7時30分 現場へ出発
8時30分 現場到着
9時00分 作業開始
12時00分 昼休み
13時00分 作業再開
17時00分 現場作業終了
17時10分 会社へ出発
18時10分 帰社
18時20分 工具・車両片付け
18時30分 退社
と書き出します。
そのうえで、それぞれの時間について、
「会社の指示はあるか」
「社員は自由に行動できるか」
「業務上必要な行為か」
を確認してみるのです。
すると、
会社が「8時30分から17時まで働いている」と思っていた社員が、実際にはもっと長い時間、会社の指示のもとで動いていたことに気づくかもしれません。
労働時間管理で大切なのは、
現場作業時間だけを見ることではなく、一日の仕事の流れ全体を見ること
です。
あなたの会社の「移動時間」は大丈夫ですか?
ここまで読んで、
「うちも会社集合だな」
「朝、工具を積んでから現場へ行っている」
「現場が終わったあと会社に戻って片付けをしている」
と思われた経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
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問題は「移動時間に残業代を払うか」だけではありません
最後に、一番お伝えしたいことがあります。
今回の問題は、
「現場への移動時間に残業代を払うかどうか」
だけではありません。
もっと大きな問題は、
会社が社員の本当の労働時間を把握できているか
ということです。
現場で作業している時間しか見ていない。
会社への集合を見ていない。
積込みを見ていない。
移動を見ていない。
待機を見ていない。
帰社後の片付けを見ていない。
その状態では、正しい残業時間を把握することはできません。
2024年から建設業にも時間外労働の上限規制が適用されています。
これからの建設会社に必要なのは、
「残業を減らせ」
と社員に言うことだけではありません。
まず、
何が労働時間なのかを正しく知ること。
そして、
無駄な集合はないか。
直行直帰できないか。
資材の積込みを効率化できないか。
現場待機を減らせないか。
帰社後の片付けを改善できないか。
そこまで考えることが、本当の意味での働き方改革ではないでしょうか。
あなたの会社では、
「現場に着いた時刻」が仕事の始まりになっていませんか。
そして、
「現場を出た時刻」が仕事の終わりになっていませんか。
一度、社員が会社に集合してから家に帰るまでの一日を、じっくり見てみてください。
そこには、会社がこれまで「仕事」として見ていなかった時間が隠れているかもしれません。