「勤務時間はシフトによる」だけでは不十分?シフト制で会社が明示すべき労働条件
杉山 晃浩
「うちはシフト制だから、勤務時間は毎月変わります」
飲食店、小売店、介護施設、医療機関、ホテル、サービス業などでは、ごく普通に聞かれる言葉です。
営業時間が長い。
曜日によって来客数が違う。
繁忙期と閑散期がある。
早番、遅番、夜勤が必要になる。
こうした職場では、全社員が毎日同じ時間に働くよりも、必要な時間帯に必要な人数を配置するシフト制の方が、合理的な場合があります。
しかし、シフト制について、会社側が大きな勘違いをしていることがあります。
それは、
シフト制なら、働く日も時間も会社が自由に決められる
という考え方です。
さらに、労働条件通知書の始業・終業時刻や休日の欄に、
勤務シフトによる
とだけ書いている会社もあります。
これで、本当に必要な労働条件を明示したことになるのでしょうか。
実は、シフト制であっても、始業・終業時刻、休憩、休日などの明示は必要です。すでに勤務時刻が決まっている日について、単に「シフトによる」と書くだけでは足りないと厚生労働省も説明しています。
今回は、シフト制社員を雇用する会社が押さえておきたい、労働条件の明示、シフトの確定、変更、削減、年次有給休暇などの注意点を、経営者向けにわかりやすく解説します。
そもそも「シフト制」とは、どのような働き方なのか
一般にシフト勤務というと、早番、遅番、夜勤など、複数の勤務時間を交代で担当する働き方を広く指します。
ただし、厚生労働省が留意事項の中でいう「いわゆるシフト制」は、もう少し狭い意味です。
労働契約を結んだ時点では、具体的な労働日や労働時間を確定させず、1週間や1か月ごとに作成される勤務シフトによって、初めて働く日と時間が決まる勤務形態を指します。
たとえば、
- 来月の出勤日は、今月20日に決まる
- 1日ごとの勤務時間は、毎月作成される勤務表で決まる
- 本人の希望を聞きながら、店長が人員配置を調整する
という働き方です。
一方、年間や月間の労働日数と労働時間があらかじめ決まっており、就業規則に定めた早番・遅番・夜勤のパターンを組み合わせる交替勤務は、厚生労働省の留意事項でいう「いわゆるシフト制」からは除かれています。
とはいえ、どちらの勤務形態でも、労働条件やシフトの管理を曖昧にしてよいわけではありません。
シフト制は「好きなときに働く制度」ではない
シフト制について、社員側にも会社側にも誤解があります。
社員から見ると、
自分が希望した日だけ働ける制度
と思われることがあります。
会社から見ると、
忙しいときだけ勤務を入れ、暇なときは勤務をゼロにできる制度
と考えられることがあります。
しかし、シフト制は、会社と労働者が結んだ労働契約の範囲内で勤務日と勤務時間を決める仕組みです。
本人が希望を出せる会社であっても、最終的には業務量、人員配置、必要な資格者数などを踏まえて会社がシフトを作成します。
反対に、会社も労働契約を無視して、勤務を自由に増減できるわけではありません。
採用時に、
「週5日程度働けます」
「月120時間程度の勤務です」
「社会保険に加入できる働き方です」
と説明していたにもかかわらず、入社後に月30時間しか勤務を入れなければ、社員から「聞いていた話と違う」と言われる可能性があります。
シフト制を円滑に運用するには、会社の裁量だけでなく、契約時に何を約束したのかを明確にすることが重要です。
労働条件通知書に「勤務シフトによる」とだけ書いていませんか
会社が社員を採用するときは、労働契約の期間、就業場所、業務内容、始業・終業時刻、休憩、休日、賃金、退職に関する事項などを明示しなければなりません。始業・終業時刻、休憩、休日などは、原則として書面等による明示が必要です。
ここで問題になるのが、シフト制社員の始業・終業時刻です。
毎日同じ時刻に働かないのだから、
始業・終業時刻は勤務シフトによる
と書くしかないように思えます。
しかし、すでに始業・終業時刻が確定している日がある場合には、その日の時刻を明記するか、原則的な始業・終業時刻を記載したうえで、一定期間分のシフト表を労働契約締結時に併せて交付する必要があるとされています。
したがって、
始業・終業時刻:勤務シフトによる
この一文だけで終わらせるのは危険です。
少なくとも、会社で想定している勤務時間帯や勤務パターンを示す必要があります。
始業・終業時刻は、勤務パターンや範囲を示す
たとえば、早番・通常番・遅番がある会社なら、労働条件通知書に次のように記載できます。
勤務はシフト制とし、原則として次の勤務区分のいずれかによる。
早番 午前8時から午後5時まで
通常 午前9時から午後6時まで
遅番 午前11時から午後8時まで
各労働日の勤務区分は、毎月作成する勤務シフト表により通知する。
休憩時間は各勤務につき60分とする。
勤務パターンが細かく分かれている会社なら、始業・終業時刻の範囲を記載する方法も考えられます。
始業時刻は午前7時から午後1時までの範囲、終業時刻は午後1時から午後10時までの範囲で、会社が勤務シフト表により指定する。
1日の所定労働時間は4時間から8時間とする。
大切なのは、社員が契約時に、
- 何時ごろから働く可能性があるのか
- 何時ごろまで勤務する可能性があるのか
- 夜間勤務があるのか
- 1日何時間程度働くのか
を予測できるようにすることです。
「何時から何時まで働かされるか分からない」という契約では、安心して働くことができません。
所定労働時間や勤務日数も曖昧にしない
シフト制では、月によって勤務日数や総労働時間が変わることがあります。
だからといって、所定労働時間や勤務日数を何も決めなくてよいわけではありません。
実務上は、次のような条件を可能な範囲で合意しておくことが重要です。
- 1日の所定労働時間
- 週の勤務日数
- 月の勤務時間数
- 最低勤務日数・時間数
- 標準的な勤務日数・時間数
- 最大の勤務日数・時間数
たとえば、
週3日から4日勤務
1日5時間から7時間
月80時間程度を目安とする
という形です。
または、
週20時間以上30時間未満を原則とする
という定め方も考えられます。
もちろん、勤務実態によって最適な表現は異なります。
重要なのは、会社と社員の間で、
「どの程度働ける契約なのか」
「どの程度の収入を見込めるのか」
について、大きな認識のズレをつくらないことです。
休日も「シフトによる」だけでは足りない
休日についても注意が必要です。
具体的な曜日が決まっていないからといって、
休日:勤務シフトによる
とだけ書けばよいとは限りません。
厚生労働省は、具体的な曜日が確定していない場合でも、休日の設定に関する基本的な考え方を明示する必要があるとしています。
たとえば、
休日は週2日を原則とし、具体的な休日は勤務シフト表による。
あるいは、
週3日勤務を原則とし、労働日以外の日を休日とする。具体的な労働日および休日は勤務シフト表により通知する。
というように記載します。
会社が最低限どれだけ休日を与えるのか、社員がどの程度勤務するのかを分かるようにしておく必要があります。
シフトの作り方そのものをルール化する
労働条件通知書だけを整備しても、現場でのシフト作成ルールが曖昧ではトラブルを防げません。
たとえば、次の事項を就業規則やシフト勤務規程に定めます。
- 希望シフトの提出期限
- 会社が勤務表を作成する期限
- 確定したシフトの通知日
- 通知方法
- 希望が重なった場合の調整方法
- 確定後の変更手続
- 欠勤者が出た場合の対応
- シフト交換の申請方法
- 勤務表の保存方法
具体的には、
毎月10日までに、翌月の勤務希望を提出する。
会社は毎月20日までに翌月の勤務シフトを決定し、勤務表または勤怠システムで通知する。
というようにします。
「店長が時間のあるときに作る」
「月末ぎりぎりにLINEで送る」
という状態では、社員は家族の予定や通院、育児、介護、別の仕事との調整ができません。
勤務表を早めに確定することは、単なる社員サービスではありません。
欠勤や急な交代を減らし、店舗や事業所を安定して運営するための仕組みでもあります。
確定したシフトを会社が自由に変えてよいわけではない
シフトを作った後に、
「明日は忙しくなりそうだから2時間延長して」
「人が足りないから休みを出勤日に変更する」
「暇になったから今日は来なくてよい」
と会社が一方的に変更するケースがあります。
厚生労働省の解説でも、シフト表で労働時間を管理する場合、日や週の所定労働時間数を定めたうえで、各日の始業・終業時刻、労働日、休日を事前に示す方法が一般的とされています。
確定した勤務表は、単なる社内予定表ではありません。
その期間における具体的な勤務日と勤務時間を示す重要な記録です。
変更が必要になった場合には、
- 誰の都合による変更か
- いつ変更したか
- 本人へいつ通知したか
- 本人の確認・同意を得たか
- 休日労働や時間外労働にならないか
を残しておく必要があります。
口頭やチャットだけで変更し、元のシフトを上書きしてしまうと、後からどちらの勤務が正しかったのか分からなくなります。
変更前のシフト、変更後のシフト、変更理由、本人確認を記録する仕組みが必要です。
「仕事が少ないからシフトを減らす」が問題になることもある
経営者にとって、シフト制の利点は、業務量に応じて人員を配置できることです。
ただし、それは、
仕事が少なければ、社員の勤務を一方的にゼロにできる
という意味ではありません。
採用時や労働契約で、一定の勤務日数や労働時間を約束している場合には、それを大幅に減らすことが契約との不一致になる可能性があります。
また、会社の都合で確定済みの勤務を取り消した場合、休業手当の問題が生じることもあります。
特に危険なのは、次のようなシフト削減です。
- 店長と意見が合わない社員だけ勤務を減らす
- 辞めさせたい社員をシフトに入れない
- 有給休暇を申請した社員の翌月シフトを減らす
- 評価が低いことを理由に説明なく収入を減らす
- 契約上は週5日なのに、突然週1日にする
勤務配分を人事評価や退職勧奨の代わりに使うと、労使紛争につながりやすくなります。
業務量の減少により勤務時間を見直す必要がある場合は、契約内容とこれまでの勤務実績を確認し、本人と話し合ったうえで進めるべきです。
シフト制社員の年次有給休暇にも注意する
厚生労働省は、2026年6月にシフト制労働者の年次有給休暇について留意事項を改正しました。
改正後の資料には、所定労働日数に応じた比例付与、所定労働日数を算定しにくい場合の取扱い、年次有給休暇取得時に支払う賃金の計算方法などが追加されています。
シフト制の現場で起こりやすいのが、
「有給休暇を申請されたので、その日を最初からシフトに入れなかった」
という処理です。
これでは、その日が単なる非勤務日なのか、有給休暇取得日なのか分からなくなります。
年次有給休暇は、原則として労働義務のある日に取得するものです。
そのため、会社は、
- 本来の勤務日
- シフト上の休日
- 年次有給休暇日
- 欠勤日
を明確に区分して管理する必要があります。
シフト勤務だからこそ、予定勤務と実績勤務を分けて記録することが重要です。
シフト制と変形労働時間制は同じではない
もう一つ多い誤解が、
シフト制だから、1日8時間を超えても残業にならない
という考え方です。
シフト制は、勤務日や勤務時間をシフト表で決める働き方です。
一方、変形労働時間制は、一定期間を平均して週の法定労働時間以内になるよう、特定の日や週の労働時間を長く設定できる制度です。
この二つは別のものです。
シフト制を採用しているだけでは、法定労働時間を超えた労働が自動的に通常勤務になるわけではありません。
変形労働時間制を利用する場合には、就業規則や労使協定、勤務日の事前特定など、それぞれの制度に応じた手続と運用が必要です。
管理職が両者の違いを理解していないと、
- 残業時間の計算誤り
- 深夜割増の漏れ
- 休日労働の誤処理
- 勤務変更による変形制の崩れ
につながります。
シフト制では「予定」と「実績」を両方残す
シフト管理で保存すべきなのは、最終的な勤怠記録だけではありません。
次の資料を社員ごとに確認できるようにしておくことをおすすめします。
- 労働条件通知書
- 雇用契約書
- 当初の勤務シフト表
- 変更後の勤務シフト表
- 変更理由と本人確認
- 実際の出退勤記録
- 時間外・休日・深夜労働の記録
- 年次有給休暇の申請・取得記録
最初のシフトが残っていなければ、
「会社が後から変更したのか」
「社員が自分で交代したのか」
「もともと休日だったのか」
を確認できません。
シフト表と勤怠記録を照合し、予定と実績に差がある場合には、理由を確認する仕組みが必要です。
無料プレゼント「シフト制社員 労働条件・勤務表トラブル防止キット」
ここまで読んで、
「労働条件通知書が『シフトによる』だけになっている」
「翌月の勤務表をいつ出すか決めていない」
「確定後の変更を口頭で行っている」
「仕事が少ないときは勤務をゼロにしている」
「シフト表の変更履歴を残していない」
という項目があった会社は、契約と運用を一度点検した方がよいでしょう。
そこで今回、
【無料プレゼント】シフト制社員「労働条件・勤務表」トラブル防止キット
を作成しました。
このキットでは、20項目の質問から、次の5分野を確認できます。
- 労働条件の明示
- シフトの確定と通知
- 確定後の変更
- シフト削減
- 記録と勤怠管理
回答すると、危険度を自動採点し、
赤信号・黄信号・青信号
で総合判定します。
さらに、
- 労働条件通知書の記載内容を整理するドラフト欄
- 確定後のシフト変更ログ
- 責任者と改善期限を決める確認欄
も収録しています。
▶ シフト制社員「労働条件・勤務表」トラブル防止キット無料申込フォーム
お申し込み後、返信メールに記載されたURLからダウンロードできます。
労働条件通知書、就業規則、勤務シフト表、勤怠記録が、それぞれ矛盾していないかを確認するためにご活用ください。
シフト制は、会社だけに都合のよい制度ではない
シフト制は、会社にとって便利な仕組みです。
必要な時間帯に人員を配置できる。
繁忙日に人数を増やせる。
営業時間に合わせて勤務を組める。
一方、社員にとっても、
学校、育児、介護、通院、副業などと両立しやすい働き方になり得ます。
しかし、会社が、
「勤務時間は全部こちらで決めます」
「来月何時間働けるかは分かりません」
「確定後でも自由に変えます」
「仕事がなければ勤務はゼロです」
という運用をすれば、シフト制は柔軟な働き方ではなく、収入も生活も予測できない不安定な働き方になります。
大切なのは、シフトを柔軟にすることと、労働条件を曖昧にすることを混同しないことです。
労働条件通知書では基本条件を示す。
就業規則ではシフトの作り方と変更方法を定める。
勤務シフト表では、具体的な労働日と勤務時間を通知する。
勤怠記録では、実際に働いた時間を正確に残す。
この役割分担ができて初めて、シフト制は会社にも社員にもメリットのある制度になります。
あなたの会社の労働条件通知書。
始業・終業時刻の欄に、
「勤務シフトによる」
とだけ書かれていませんか。
その一行の裏側にある条件を、今こそ具体的に言葉にしてみてください。