出退勤は自由でも、仕事まで自由ではない!フレックスタイム制で業務管理が崩壊する会社の共通点

杉山 晃浩

「フレックスタイム制を入れたら、社員が何時に来るのか分からなくなった」

「午前中に電話を取る人がいない」

「早く出社する社員ばかりが、来客対応や掃除をしている」

「月末になると、不足時間を埋めるために夜遅くまで働いている」

フレックスタイム制を導入した会社から、このような相談を受けることがあります。

社員が自分の生活に合わせて勤務時間を調整できるフレックスタイム制は、育児や介護との両立、通勤ラッシュの回避、採用力の向上などに役立つ制度です。

一方で、会社が制度の意味を取り違えると、業務管理が一気に難しくなります。

特に危険なのが、

フレックスなのだから、働く時間だけでなく、仕事の進め方も本人に任せればよい

という考え方です。

フレックスタイム制で社員に委ねるのは、原則として始業時刻と終業時刻の決定です。

納期、業務量、顧客対応、報告、引継ぎ、品質、労働時間、健康管理まで社員任せにする制度ではありません。

今回は、フレックスタイム制によって起こりやすい、生産性低下、不公平感、業務の属人化、長時間労働の問題について解説します。


フレックスタイム制は「仕事を自由にする制度」ではない

フレックスタイム制とは、3か月以内の一定期間における総労働時間をあらかじめ定め、その範囲内で社員が各日の始業時刻と終業時刻を自主的に決める制度です。

厚生労働省も、フレックスタイム制を、社員が生活と業務の調和を図りながら効率的に働くための制度と説明しています。

たとえば、午前7時から午後10時までをフレキシブルタイムとし、社員が、

「今日は8時から働く」

「明日は10時から始める」

「今日は早く出社して16時に帰る」

と選べる仕組みです。

しかし、自由になるのは、あくまでも制度で認められた範囲内の始業・終業時刻です。

社員は、何時に働き始めるかを選べても、

  • 顧客への回答期限を自由に変える
  • 必要な会議へ出席しない
  • 報告をせずに退勤する
  • 担当業務を放置する
  • 深夜や休日に無制限に働く

ことまで自由になるわけではありません。

会社には、社員へ業務を割り当て、期限や品質を管理し、必要な指示を出す権限と責任があります。

時間の自律性と、業務遂行の無管理は別物です。


「誰がいるのか分からない」会社になっていませんか

フレックスタイム制を導入した直後に起こりやすいのが、社員の在席状況が分からなくなる問題です。

たとえば午前9時に顧客から電話が入ったものの、担当者は10時出社。

上司へ確認しようとしても、上司は11時出社。

有資格者の確認が必要なのに、その社員も午後から勤務。

結果として、顧客を長時間待たせてしまうことがあります。

この問題の原因は、社員が遅く出社することではありません。

会社が、

  • どの時間帯に
  • どの業務を
  • 何人で対応するのか

を決めていないことです。

フレックスタイム制を導入しても、営業時間や顧客対応時間まで自由になるわけではありません。

午前9時から電話を受け付けるのであれば、その時間帯に電話を取れる社員を配置する必要があります。

決裁者、有資格者、クレーム対応者など、業務上不可欠な人が不在になる場合には、代行者も決めておかなければなりません。

必要なのは、全員を同じ時刻に出社させることではありません。

業務に必要な人数と役割を、時間帯ごとに確保することです。


早く出社する社員が「便利屋」になっていないか

フレックスタイム制で特に不満が生まれやすいのが、仕事の偏りです。

たとえば、午前8時に出社する社員が毎日、

  • オフィスの開錠
  • 清掃
  • 電話対応
  • 宅配便の受取り
  • 朝一番の来客対応

を担当している。

一方、午前10時に出社する社員は、それらの業務をほとんど行わない。

会社としては、社員が自分で出社時刻を選んだ結果だと考えるかもしれません。

しかし、早く出社する人だけに共通業務が集中すれば、

「早く来る人だけが損をしている」

「フレックスを使わない人が穴埋めさせられている」

という不公平感が生まれます。

夕方も同じです。

午後7時まで勤務する社員へ、緊急電話、顧客からの問い合わせ、片付け、戸締まりが集中することがあります。

こうした負担は、勤務時間の長さだけでは見えません。

電話対応件数、来客件数、緊急対応件数、当番回数などを記録しなければ、誰に負担が偏っているか分からないからです。

対応策としては、

  • 電話や受付の当番制
  • 開錠・戸締まり担当のローテーション
  • 共通業務を人事評価へ反映
  • 時間帯別の担当者設定
  • テレワーク社員を含めたオンライン対応

などが考えられます。

「その時間にいる人がやればよい」という運用を続けると、協力的な社員ほど疲弊します。


出退勤時刻を共有しないことが自由なのではない

フレックスタイム制では、社員が出社時刻を決めます。

しかし、チームへ予定を知らせなくてもよいわけではありません。

誰が何時から勤務するのか分からなければ、

  • 会議を設定できない
  • 顧客への折り返し時間を案内できない
  • 業務を引き継げない
  • 緊急連絡先が分からない
  • 仕事の進捗を確認できない

といった問題が起こります。

そこで、予定する始業・終業時刻を、カレンダーやチャット、勤怠システムなどで共有する方法が有効です。

これは、始業・終業時刻について上司の許可を受けさせることとは違います。

たとえば、

明日は10時から19時まで勤務予定です。午前中の問い合わせはAさんへ引き継いでいます。

という情報共有であれば、社員の選択権を残しつつ、チーム運営を安定させられます。

大切なのは、許可制に戻すのではなく、共有制を設けることです。


納期や優先順位まで本人任せにしてはいけない

フレックスタイム制を導入すると、管理職が遠慮して業務指示を出さなくなることがあります。

「フレックスだから、本人の自主性を尊重しよう」

「何時に働くか分からないので、細かな管理はできない」

と考えるためです。

しかし、管理職が業務管理を手放せば、仕事の優先順位が社員ごとに変わります。

Aさんは顧客対応を優先する。

Bさんは資料作成を優先する。

Cさんは急ぎではない仕事に時間をかける。

その結果、重要案件が遅れたり、仕事の手戻りが増えたりします。

管理職は少なくとも、

  • 何を完成させるのか
  • いつまでに完成させるのか
  • どの品質が必要なのか
  • 途中報告はいつ行うのか
  • 不在時は誰へ引き継ぐのか

を明確にしなければなりません。

勤務時間を細かく管理する代わりに、成果物、期限、進捗、品質を管理する必要があります。

フレックスタイム制では、管理を弱くするのではなく、管理の対象を「滞在時間」から「業務の進行」へ変えることが重要です。


会議だらけではフレックスの意味がなくなる

業務を管理しようとして、会議を増やしすぎる会社もあります。

午前10時に朝会。

午後1時に部署会議。

午後3時に案件会議。

午後5時に進捗確認。

このような状態では、社員が始業・終業時刻を選べても、会議の間に拘束されます。

結果として、

「フレックスなのに、結局一日中会社にいなければならない」

という不満が出ます。

会議が必要な場合は、

  • 会議をコアタイムへ集約する
  • 参加者を必要最小限にする
  • 情報共有だけならチャットや動画にする
  • 会議時間を30分以内にする
  • 欠席者が確認できる記録を残す

などの工夫が必要です。

フレックスタイム制のために管理をなくす必要はありません。

一方で、管理のために社員の時間を細かく拘束しすぎると、制度の価値がなくなります。


フレックスを使わない社員へ不満が集中する

フレックスタイム制を利用しやすい部署と、利用しにくい部署があります。

営業職や事務職は勤務時間を調整しやすい。

一方、受付、店舗、製造、介護、医療などは、営業時間や利用者対応の関係から自由度が低くなりやすい。

また、同じ部署内でも、

  • 育児中の社員は遅く出社する
  • 顧客担当者は早朝対応が必要
  • 管理職は会議のため標準時間に勤務する
  • 若手社員は電話当番を任される

といった差が生じます。

こうした違いについて説明がなければ、

「一部の社員だけが得をしている」

「私たちがフレックス利用者の仕事を支えている」

という不満が出ます。

すべての社員へ同じ働き方を認めることが公平とは限りません。

業務上の違いがあるなら、その理由を説明し、別の柔軟な制度も組み合わせる必要があります。

たとえば、

  • 時差出勤
  • 希望休
  • 短時間勤務
  • テレワーク
  • 時間単位年休
  • シフト希望制度

などです。

公平とは、全員を同じにすることではなく、違いの理由が説明され、負担と利益が一方へ偏らない状態をつくることです。


遅く来る社員を低く評価してはいけない

フレックスタイム制を導入した会社で、管理職が無意識に行いやすいのが、勤務時間による評価です。

午前8時に出社する社員は「熱心」。

午前10時に出社する社員は「やる気がない」。

午後7時まで残る社員は「頑張っている」。

午後4時に帰る社員は「協調性がない」。

しかし、いずれも制度の範囲内で働いているのであれば、出退勤時刻だけで勤務態度を評価すべきではありません。

評価すべきなのは、

  • 担当業務を期限までに完成させたか
  • 顧客へ適切に対応したか
  • 必要な情報共有を行ったか
  • チームへ貢献したか
  • 成果物の品質に問題がないか

という点です。

フレックスタイム制を導入しながら、標準時間に長く在席する社員を評価していては、誰も制度を利用しなくなります。

制度を導入するときは、人事評価制度や管理職研修も同時に見直す必要があります。


フレックスでも会社には労働時間の把握義務がある

「社員が自分で働く時間を決めているのだから、会社は細かく管理しなくてよい」

この考え方は誤りです。

厚生労働省は、フレックスタイム制を採用している場合でも、会社は社員の各日の労働時間を把握しなければならないと明確に説明しています。

また、会社は原則として、社員の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、記録する必要があります。労働時間とは、会社の明示または黙示の指示により、社員が業務に従事している時間をいいます。

したがって、

「本人が好きで夜に仕事をした」

「自宅で勝手にメールを返していた」

「休日に自分の判断で資料を作っていた」

というだけで、労働時間から除外できるとは限りません。

会社がその働き方を知りながら止めず、成果物を受け取っていた場合には、黙示の指示による労働と判断される可能性があります。

勤怠記録だけでなく、次の記録との乖離も確認する必要があります。

  • パソコンのログイン・ログアウト時刻
  • 入退室記録
  • メールやチャットの送信時刻
  • 業務システムの利用履歴
  • オンライン会議の記録

自己申告では8時間勤務なのに、パソコンを12時間利用している。

このような状態を放置すると、未払い賃金だけでなく、健康障害の問題にもつながります。


月末に長時間労働が集中していないか

フレックスタイム制では、清算期間の総労働時間を満たすため、社員が日々の時間を調整します。

そのため、月の前半に短時間勤務が続くと、月末に不足時間を埋めようとして長時間勤務が集中することがあります。

たとえば、月末の5日間に毎日12時間働く。

深夜まで仕事をする。

休日にも出勤する。

これでは、清算期間全体の時間が合っていても、健康管理上は問題があります。

長時間労働は、心身に大きな負担を与えます。会社には、フレックス対象者についても、働き過ぎを防ぐために労働時間、休憩、休日を適切に管理することが求められます。

対策としては、月末を待たずに、

  • 毎週の実労働時間
  • 総労働時間に対する過不足
  • 深夜労働
  • 休日労働
  • 連続勤務
  • パソコン利用時間

を管理職が確認する仕組みが必要です。

不足時間が大きい社員には早めに勤務計画を確認し、業務量が多すぎる社員には仕事を再配分します。


フレックスを成功させるのは「自由」ではなく「設計」

フレックスタイム制に問題が起きると、

「やはり社員へ自由を与えるのは無理だった」

「全員9時出社へ戻そう」

という結論になりがちです。

しかし、問題の原因は自由そのものではありません。

多くの場合、会社が次の点を設計していないことにあります。

  • 時間帯別の必要人数
  • 電話・来客・緊急対応の担当
  • 不在時の代行者
  • 業務の期限と完成基準
  • 始業・終業予定の共有方法
  • 引継ぎと報告のルール
  • 共通業務の公平な分担
  • 成果を中心とした評価基準
  • 長時間労働の早期発見方法

制度を廃止する前に、これらを見直すべきです。

フレックスタイム制は、放置しても自然に機能する制度ではありません。

自由に働ける仕組みと、会社が安定して業務を続けられる仕組みを、同時につくる必要があります。


無料プレゼント「業務管理崩壊リスク診断キット」

ここまで読んで、

「社員の出退勤予定をチームで共有していない」

「電話や来客対応が一部の社員へ集中している」

「担当者が不在になると仕事が止まる」

「遅く来る社員を低く評価している」

「月末に長時間勤務が集中している」

という項目があった会社もあるのではないでしょうか。

そこで今回、

【無料プレゼント】フレックスタイム制「業務管理崩壊リスク」診断キット

を作成しました。

20項目の質問に答えることで、次の5分野を点検できます。

  • 時間帯別の稼働体制
  • 納期・引継ぎ・属人化などの業務設計
  • 電話・来客・緊急対応の負担の偏り
  • 成果評価と管理職の運用
  • 長時間・深夜・休日労働の管理

回答すると危険度を自動採点し、

赤信号・黄信号・青信号

で総合判定します。

さらに、時間帯ごとに必要人数と実際の配置を比較できる「チーム稼働・業務カバー表」も付けています。

重要業務の主担当・代行者や、社員ごとの電話対応、緊急対応、深夜・休日労働の偏りも確認できます。

フレックスタイム制「業務管理崩壊リスク」診断キット無料申込フォーム

お申し込み後、返信メールに記載されたURLからダウンロードできます。

制度を廃止する前に、業務体制、負担の公平性、長時間労働の管理に問題がないかを確認するためにご活用ください。


自由にするものと、会社が管理するものを分ける

フレックスタイム制を成功させるポイントは、すべてを自由にすることではありません。

社員に委ねるものと、会社が管理するものを明確に分けることです。

社員に委ねるのは、制度の範囲内における始業時刻と終業時刻です。

一方、会社が管理すべきものは、

  • 顧客対応
  • 必要な人員配置
  • 業務の期限
  • 成果物の品質
  • 情報共有
  • 業務量
  • 実際の労働時間
  • 社員の健康

です。

フレックスタイム制は、会社が管理をやめる制度ではありません。

時間を細かく縛る管理から、仕事と成果を見える化する管理へ変える制度です。

社員が何時に来るのか分からない。

電話を取る人がいない。

いつも同じ人が穴埋めしている。

月末だけ深夜まで働いている。

こうした問題が起きているなら、社員の自由を責める前に、会社の業務設計を見直す必要があります。

あなたの会社では、社員に何を委ね、何を会社が管理していますか。

その境界線を明確にすることが、フレックスタイム制を「働きやすい制度」から「成果の出る制度」へ変える第一歩です。

 
 
 

お問い合わせフォーム

労務相談、助成金相談などお気軽にご相談ください。