まだ口頭で説明していますか?採用時に必ず渡す「労働条件通知書」の基本

杉山 晃浩

「来月から来てもらう人には、勤務時間も給料も面接で説明しました」

「求人票に条件が書いてあるので、改めて書類を渡す必要はないですよね」

「労働条件通知書は、入社してから落ち着いたときに渡しています」

経営者や採用担当者から、このような話を聞くことがあります。

本人へ説明しているのだから、会社としては問題ないように思えるかもしれません。

しかし、労働者を採用するときは、口頭で説明するだけでは足りません。賃金や労働時間などの重要な労働条件については、労働条件通知書などの書面で明示する必要があります。

これは大企業だけのルールではありません。

正社員だけでなく、パート、アルバイト、契約社員などを一人でも採用すれば必要です。

「うちは小さな会社だから」

「知人の紹介だから」

「本人も納得しているから」

という理由で省略することはできません。

採用した人と会社の認識が一致しているうちは、何も問題が起きないかもしれません。

ところが、退職、残業、休日、給与、配置転換などをめぐって意見が食い違ったとき、労働条件通知書を渡していない会社は、非常に不利な立場に置かれます。

労働条件通知書は、会社を縛る書類ではない

労働条件通知書と聞くと、

「細かく書くと、会社が自由に人を動かせなくなる」

「後で状況が変わったときに困る」

と考える経営者もいます。

しかし、本来の役割は会社を縛ることではありません。

会社と労働者の間で、

  • どこで働くのか
  • どのような仕事をするのか
  • 何時から何時まで働くのか
  • 休憩や休日はどうなるのか
  • 給料はいくらなのか
  • 契約期間はいつまでなのか
  • どのような場合に契約を更新するのか

といった大切な条件を確認し、後のトラブルを防ぐための書類です。

面接で説明した内容を、採用担当者は覚えているかもしれません。

しかし、半年後、1年後まで、双方が同じ内容を覚えているとは限りません。

担当者が退職したり、異動したりする可能性もあります。

口頭での説明は、時間がたつほど証明が難しくなります。

労働条件通知書は、労働者を守るための書類であると同時に、会社を守るための書類でもあるのです。

労働条件の明示は法律上の義務

労働基準法第15条では、会社が労働契約を締結するとき、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないと定めています。

そのうち、特に重要な事項は、原則として書面で明示しなければなりません。

主な内容は次のとおりです。

  • 労働契約の期間
  • 有期契約を更新する場合の基準
  • 就業場所と仕事内容
  • 就業場所と仕事内容の変更の範囲
  • 始業時刻と終業時刻
  • 所定労働時間を超える労働の有無
  • 休憩時間
  • 休日、休暇
  • 賃金の決め方、計算方法
  • 賃金の締切日と支払日
  • 退職に関する事項
  • 解雇の事由

有期契約労働者については、更新上限や無期転換に関する明示が必要になる場合もあります。

厚生労働省は、これらを記載できる「モデル労働条件通知書」を公開しています。

ただし、モデル様式をダウンロードして、そのまま使えばよいとは限りません。

会社の就業規則、給与規程、実際の勤務方法と一致するように整える必要があります。

例えば、就業規則には「毎月末締め、翌月10日払い」と書かれているのに、労働条件通知書には「毎月20日締め、当月末払い」と書かれていれば、どちらが正しいのか分かりません。

通知書を作ったことで、かえってトラブルの原因を増やす場合もあります。

求人票があっても、労働条件通知書は必要

よくある誤解が、

「ハローワークの求人票に全部書いてあるから、労働条件通知書は必要ない」

というものです。

求人票は、求職者を募集する際に会社が示す条件です。

一方、労働条件通知書は、個別の労働者と労働契約を締結する際に、その人に適用される条件を示すものです。

目的と明示する時期が違います。

同じ職種で募集しても、経験、保有資格、勤務地、勤務日数などによって、採用される人の条件が異なることがあります。

求人票に賃金の幅を「月給20万円から25万円」と記載していたとしても、採用する人の給与が20万円なのか23万円なのかは、個別に明らかにしなければなりません。

したがって、求人票を渡しただけでは、採用時の労働条件明示を済ませたことにはなりません。

なお、求人票と労働条件通知書の内容が違う場合の問題については、本シリーズの第2回で詳しく取り上げます。

「入社後に渡す」では遅いことがある

労働条件を明示するタイミングは、労働契約を締結するときです。

ここで注意したいのが、入社日と労働契約の成立日が必ずしも同じとは限らないことです。

例えば、会社が内定通知を出し、応募者が承諾した時点で、労働契約が成立したと判断される場合があります。

そのため、

「実際に働き始める初日に渡せばよい」

「試用期間が終わってから正式な通知書を渡せばよい」

と一律に考えるのは危険です。

特に新卒採用や、内定から入社までの期間が長い中途採用では、内定時の説明が重要になります。

応募者は、会社から示された条件をもとに、ほかの会社への応募をやめたり、現在の勤務先へ退職を申し出たり、引っ越しの準備をしたりします。

入社直前になって初めて、

  • 求人票より給与が低い
  • 希望していた勤務地と違う
  • 転勤がある
  • 土曜日も勤務がある
  • 契約社員としての採用だった

と知らされれば、会社への信用は一気に失われます。

法律上の問題だけでなく、内定辞退、早期離職、SNSへの投稿など、採用炎上につながる可能性もあります。

パートやアルバイトにも必要です

労働条件通知書を正社員にしか渡していない会社もあります。

しかし、労働基準法上の明示義務は、正社員だけを対象にしたものではありません。

パート、アルバイト、契約社員、短時間勤務者などにも必要です。

さらに、パートタイム・有期雇用労働者については、労働基準法上の明示事項に加え、次の事項も文書等で明示する必要があります。

  • 昇給の有無
  • 賞与の有無
  • 退職手当の有無
  • 雇用管理に関する相談窓口

「賞与はありません」という場合も、何も書かなくてよいわけではありません。「賞与なし」と明示します。

そして、2026年10月1日からは、パートタイム・有期雇用労働者を雇い入れる際の明示事項に、

通常の労働者との待遇の相違の内容・理由などについて、説明を求めることができる旨

が追加されます。

記事公開時点では施行前ですが、2026年10月以降も同じ様式を使う会社は、今のうちに書式と相談体制を確認しておく必要があります。

法改正のたびに様式を修正しても、現場が古い書式を使い続けていたら意味がありません。

共有フォルダ、各担当者のパソコン、採用管理システムなどに古い様式が残っていないかも確認しましょう。

有期契約は更新のたびに確認する

契約社員や期間を定めたパートタイマーについては、最初に採用したときだけ通知書を渡せば終わりではありません。

契約を更新する際にも、更新後の労働条件を明示する必要があります。

よくあるのが、

  • 最初の契約書だけ作成している
  • その後は自動更新のつもりになっている
  • 給料を変更したが、書面を作り直していない
  • 契約期間が切れていることに誰も気づいていない

という状態です。

2024年4月からは、労働条件明示のルールも追加されています。

すべての労働者について、就業場所と仕事内容の「変更の範囲」を明示する必要があります。

また、有期契約労働者については、状況に応じて次の事項も明示します。

  • 契約期間や更新回数に上限がある場合、その内容
  • 無期転換申込権が発生する契約更新時の申込機会
  • 無期転換後の労働条件

これらの詳しい記載方法については、シリーズ後半や有期契約労働者を扱う別の記事で解説します。

まずは、

契約更新時にも、労働条件通知書の交付が必要

という基本を確認してください。

電子メールやLINEで送ってもよいのか

一定の要件を満たせば、労働条件を電子的に明示することもできます。

電子メール、Webメール、LINEなどのSNSメッセージ機能を利用することも可能です。

ただし、会社の都合だけで電子交付にするのではなく、労働者本人が希望していることが必要です。

また、受け取った本人が内容を保存し、必要に応じて書面として印刷できなければなりません。

例えば、メッセージ欄に長い労働条件をそのまま入力する方法では、後から探せなくなったり、一部しか表示されなかったりする可能性があります。

実務上は、次のような運用が安全です。

  1. 本人が電子交付を希望していることを確認する
  2. 労働条件通知書をPDFなど保存できる形式にする
  3. 本人専用のメールアドレス等へ送る
  4. 送信日と送信先を記録する
  5. 可能であれば受領確認を取る
  6. 会社側でも同じ内容を保存する

「送りました」

「届いていません」

という争いを防ぐためには、送信した事実だけでなく、何を送ったかが確認できる状態にしておくことが大切です。

署名や押印がなければ無効なのか

労働条件通知書は、会社が労働者へ労働条件を明示する書類です。

法律上、労働条件通知書そのものに、必ず労働者の署名や押印をもらわなければならないとは限りません。

ただし、会社としては、

  • 本人へ交付したこと
  • 本人が内容を確認したこと
  • 個別に合意が必要な条件について合意したこと

を後から説明できるようにしておく必要があります。

そのため、労働条件通知書と雇用契約書を兼ねた書式にして、会社と労働者の双方が署名する方法もあります。

大切なのは、押印欄を作ることではありません。

本人が十分に理解できるよう説明し、疑問があれば確認できる時間を設け、交付または合意の記録を残すことです。

署名をもらったから、どのような条件変更でも有効になるわけではありません。

会社から十分な説明を受けず、断れない状況で署名したような場合には、本当に本人の自由な意思による合意だったのかが問題になることがあります。

労働条件通知書を作る人と、給与を計算する人は同じ条件を見ていますか

書類を正しく作っても、実際の運用が違えば意味がありません。

例えば、労働条件通知書には、

  • 基本給21万円
  • 資格手当1万円
  • 毎月末締め、翌月10日払い

と書かれているのに、給与計算システムでは、

  • 基本給20万円
  • 資格手当なし
  • 毎月20日締め、当月末払い

と設定されていたら、入社後すぐに給与トラブルが起きます。

採用担当者、給与計算担当者、現場責任者が別々に動いている会社では、特に注意が必要です。

採用が決まったら、少なくとも次の内容を関係者間で確認する仕組みを作りましょう。

  • 採用する職種
  • 雇用形態
  • 契約期間
  • 勤務地
  • 仕事内容
  • 勤務時間と休日
  • 基本給と各種手当
  • 給与の締切日と支払日
  • 社会保険、雇用保険の加入
  • 試用期間中の条件

労働条件通知書を作ることが目的ではありません。

書かれた条件どおりに雇用管理を行うことが目的です。

「渡したつもり」が最も危ない

労働条件通知書について、本当に怖いのは、まったく作っていない会社だけではありません。

  • 採用担当者が渡したと思っている
  • 本人は受け取っていない
  • 古い様式を使っている
  • 求人票と内容が違う
  • 契約更新時に作り直していない
  • 電子メールに添付したが送信記録がない
  • 書類はあるが、実際の給与や勤務時間と違う

このような「やったつもり」の状態です。

経営者が、

「うちではきちんと渡しているはずです」

と答えても、実際の交付状況を確認できなければ、会社の仕組みとして管理できているとはいえません。

誰が、いつ、どの様式で作成し、誰が内容を確認し、どの方法で本人へ交付し、どこに保存するのか。

ここまで決めて、初めて労働条件明示の仕組みが完成します。

無料チェックリストで、交付漏れを確認してください

今回、採用時・契約更新時の労働条件明示を確認できるチェックリストを作成しました。

【無料プレゼント】「採用したつもり」が会社を危険にさらす――労働条件明示・交付漏れ防止チェックリスト

このチェックリストでは、次の5分野を全30項目で確認できます。

  • 交付時期・対象者
  • 必須明示事項
  • 2024年追加事項
  • 交付方法・保存
  • 求人票、就業規則、給与設定との整合・運用

回答すると、総合リスクと分野別リスクが自動で表示されます。

「できていない・不明」と回答した項目を確認すれば、どこから改善すべきかが分かります。

ただし、このチェックリストは、個別の法令違反を確定するものではありません。

実際の労働条件通知書、就業規則、求人票などを確認したうえで、必要に応じて社会保険労務士や労働基準監督署などへご相談ください。

無料チェックリストをご希望の方は、こちらからお申し込みください。

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労働条件通知書は、採用手続の最後に形式的に渡す紙ではありません。

新しく入社する人に対して、

「当社は、この条件であなたを迎えます」

と約束する書類です。

採用したつもり。

説明したつもり。

渡したつもり。

その「つもり」がトラブルになる前に、まずは自社の運用を確認してみてください。


【参考資料】

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