契約満了なら辞めてもらえる?「更新しない」の一言で会社が終わらせられない理由
杉山 晃浩
「契約社員なのだから、契約期間が終われば雇用も終わる」
そう考えている経営者や人事担当者は、決して少なくありません。
確かに、期間を定めて結んだ労働契約は、原則として契約期間の満了によって終了します。たとえば、2026年4月1日から2027年3月31日までの1年契約であれば、2027年3月31日が契約満了日です。
しかし、契約書に満了日が書かれているからといって、会社が必ず自由に「次回は更新しません」と言えるわけではありません。
契約を何度も更新していたり、会社側が雇用の継続を期待させる説明をしていたりすると、契約社員にも「これからも働けると思っていた」という期待が生まれます。
この期待に合理的な理由がある場合、会社による更新拒否、いわゆる「雇止め」が認められないことがあります。
契約満了日だけを見て判断すると、会社は思わぬ労務トラブルを抱えるかもしれないのです。
「契約終了」と「雇止め」は同じようで違う
まず、言葉を整理しておきましょう。
契約期間の定めがある労働契約を、会社が次回は更新せず、契約期間の満了によって終了させることを一般に「雇止め」といいます。
一方、契約期間の途中で会社から一方的に辞めてもらう場合は「解雇」です。
契約途中の解雇と、契約満了時の雇止めは、法律上まったく同じものではありません。
ただし、だからといって、雇止めなら会社が自由にできるわけでもありません。
労働契約法第19条には、一定の場合に雇止めを制限するルールがあります。一般に「雇止め法理」と呼ばれるものです。
主に問題となるのは、次のような契約です。
- 有期労働契約が何度も更新され、実質的に期間の定めのない雇用と変わらない状態になっている
- 労働者が「次回も契約が更新される」と期待することに、合理的な理由がある
このような状況で、会社の雇止めに客観的で合理的な理由がなく、社会一般の感覚から見ても相当とはいえない場合、雇止めが認められない可能性があります。
その場合、労働者から更新の申込みがあれば、従前と同じ労働条件で契約が更新されたものとして扱われることがあります。
つまり、「契約書に満了日が書いてある」という一点だけでは、雇止めの安全性は判断できないのです。
会社が気づかないうちに「更新への期待」をつくっている
雇止めのトラブルで特に注意したいのが、会社側の言葉や行動です。
たとえば、上司が契約社員に対して、次のような話をしていないでしょうか。
「これからも長く働いてほしい」
「来年もよろしくね」
「基本的にはみんな更新しているから心配しなくていい」
「この仕事を覚えたら、次はリーダーを任せたい」
上司としては、励ますつもりで言っただけかもしれません。
しかし、契約社員から見れば、「会社は次回も更新してくれる」と受け取る可能性があります。
求人票に「長期勤務できる方歓迎」と書き、採用面接でも「できるだけ長く勤めてもらいたい」と説明していたのに、契約書だけには「更新しない場合がある」と書いてある。このような食い違いも、更新への期待を生む原因になります。
さらに、毎回の更新手続が形式だけになっている会社も注意が必要です。
契約期間が切れる直前に契約書へ署名してもらうだけで、勤務成績や次期契約について話し合っていない。契約期間が過ぎてから、後追いで契約書を作っている。
こうした運用が何年も続いていれば、労働者が「契約は当然に更新されるもの」と考えても不思議ではありません。
会社が見るべきなのは、契約書の文言だけではありません。
求人票、面接時の説明、上司の発言、過去の更新回数、更新手続の実態、担当している業務の性質などを、まとめて確認する必要があります。
何回更新したら雇止めができなくなるのか
「では、契約を何回更新したら雇止めができなくなるのですか」
よく受ける質問ですが、「何回以上なら雇止めできない」という単純な基準はありません。
更新回数は重要な判断材料ですが、それだけで結論が決まるわけではないからです。
たとえば、同じ3回更新でも、繁忙期だけの臨時業務として契約した人と、正社員と同じ恒常的な業務を担当している人では、事情が異なります。
判断に影響しやすい事情としては、次のようなものがあります。
- 契約を更新した回数
- 通算の雇用期間
- 仕事が臨時的なものか、恒常的なものか
- 更新のたびに実質的な審査や面談をしていたか
- 契約書に記載した更新基準が具体的だったか
- 会社側が継続雇用を期待させる説明をしていたか
- 他の契約社員をどのように取り扱っていたか
- 雇止めの理由を客観的な資料で説明できるか
したがって、「まだ2回しか更新していないから大丈夫」「5年になる前だから終了できる」といった判断は危険です。
個別の事情を確認せず、回数や年数だけで結論を出すべきではありません。
30日前に伝えれば問題ない、とは限らない
もう一つ多い誤解が、「30日前までに伝えれば雇止めできる」というものです。
厚生労働省の「有期労働契約の締結、更新、雇止め等に関する基準」では、一定の有期労働契約を更新しない場合、契約期間満了日の30日前までに予告することが求められています。
対象となるのは、原則として次のいずれかに該当する労働者です。
- 契約を3回以上更新している
- 雇入れから1年を超えて継続勤務している
ただし、契約を締結した時点で、その契約を更新しないことがあらかじめ明示されていた場合など、取扱いが異なることがあります。個別の確認が必要です。
ここで大切なのは、30日前予告は「期限のルール」であって、「30日前に言えば雇止めが必ず有効になる」という意味ではないことです。
30日前に伝えていたとしても、労働者に合理的な更新期待があり、雇止めに客観的で合理的な理由がない場合は、別の問題が残ります。
逆に、雇止めの理由に一定の合理性があったとしても、対象者に対する予告が遅れれば、手続面で問題になります。
会社は「いつ伝えるか」と「なぜ更新しないのか」を分けて確認しなければなりません。
「勤務態度が悪い」だけでは説明にならない
会社が雇止めを検討する理由として、よく挙げられるのが勤務成績や勤務態度です。
しかし、社内で「勤務態度が悪かった」と思っているだけでは十分ではありません。
どのような行動が問題だったのか。いつ本人に注意したのか。改善の機会を与えたのか。会社が求める水準を事前に伝えていたのか。
こうした事実を記録していなければ、後から合理的に説明することが難しくなります。
たとえば、契約更新の直前になって突然、
「協調性がないため更新しない」
「能力不足なので今回で終了する」
と伝えても、本人にとっては寝耳に水かもしれません。
それまで評価面談も指導もなく、上司から「よく頑張っている」と言われていたのであれば、会社の説明には一貫性がないように見えます。
雇止めを安全に進めるために必要なのは、もっと強い言葉で本人を責めることではありません。
日頃から評価基準を伝え、問題があれば具体的に指導し、その内容と本人の反応を記録することです。
記録は会社を守るためだけのものではありません。本人に改善の機会を与え、納得できる説明につなげるためにも必要です。
更新上限を後から追加する場合も説明が必要
2024年4月から、有期労働契約の労働条件明示ルールが変わりました。
契約期間や更新回数に上限がある場合は、その内容を労働条件通知書などで明示する必要があります。
また、最初の契約を結んだ後に更新上限を新たに設けたり、これまでの上限を引き下げたりする場合は、会社があらかじめ理由を説明しなければなりません。
たとえば、これまで更新上限を設けずに契約を繰り返してきたにもかかわらず、無期転換申込権が発生する直前になって、
「今後は更新5回までとします」
「通算5年を上限にします」
と一方的に変更すれば、トラブルになる可能性があります。
更新上限を契約書へ追加すれば、それだけで過去の更新実績や本人の期待が消えるわけではありません。
特に、無期転換を避けることだけを目的とした雇止めは、慎重な判断が必要です。この点は、第3回の「無期転換5年ルール」で詳しく取り上げます。
実務では「満了60日前」から確認を始める
法律上の30日前予告だけを基準にすると、会社の検討時間が足りなくなります。
資料を集め、上司へ確認し、本人と面談し、必要に応じて専門家へ相談していると、30日はあっという間です。
そこで、実務上は契約満了日の60日前から確認を始めることをおすすめします。
最初に、次の項目を確認します。
- 契約満了日
- これまでの更新回数
- 通算の雇用期間
- 契約書に記載した更新の有無と判断基準
- 更新上限の有無
- 過去の評価・指導記録
- 上司や採用担当者が行った説明
- 本人の更新希望
- 次期の業務量と配置予定
- 同じ立場の契約社員との取扱い
そのうえで、更新するのか、労働条件を変更して更新するのか、雇止めを検討するのかを決めます。
雇止めを検討する場合は、結論を本人へ伝える前に、その理由を客観的に説明できるか確認してください。
本人から雇止めの理由について証明書を請求された場合、会社は遅滞なく交付しなければならないとされています。
「そのときになってから理由を考える」のでは遅いのです。
契約社員の管理は、契約書より「運用」に表れる
契約社員とのトラブルを防ぐために、契約書の整備は欠かせません。
しかし、契約書さえ整っていれば大丈夫というわけでもありません。
会社の本当の管理状態は、次のような日常の運用に表れます。
- 契約満了日を一覧で管理しているか
- 余裕を持って更新判断を始めているか
- 本人と更新面談をしているか
- 評価や指導の記録を残しているか
- 上司の説明と契約書の内容が一致しているか
- 更新しない理由を具体的に説明できるか
契約期間の満了直前になって、慌てて「更新しません」と伝える会社と、数か月前から事実を整理して丁寧に説明する会社では、本人の受け止め方も大きく変わります。
法律上の争いを避けるだけではありません。
最後まで相手の立場を尊重して対応することが、会社の評判や残った社員との信頼関係を守ることにもつながります。
無料プレゼントをご用意しました
今回の記事に合わせて、次の実務ツールをご用意しました。
このExcelシートでは、次の管理ができます。
- 契約満了日と社内確認期限の一覧管理
- 30日前予告の対象となる可能性の確認
- 更新期待や評価記録などの雇止めリスク診断
- 更新・雇止め面談の記録
- 会社全体の管理体制チェック
雇止めの有効・無効を自動判定するものではありませんが、「この案件は通知前に専門家へ相談した方がよい」と気づくための点検ツールとしてお使いいただけます。
契約社員が複数いる会社では、満了日を記憶や個人の予定表だけで管理するのは危険です。
まずは対象者を一覧化し、次回の満了日と確認期限を見えるようにするところから始めてください。
次回は「無期転換5年ルール」を取り上げます
次回は、契約社員を雇用する会社が避けて通れない「無期転換ルール」を取り上げます。
「5年になる直前に契約を終了すればよい」
「6か月空ければ通算期間をリセットできる」
「無期契約に変わったら正社員と同じ待遇にしなければならない」
このような理解が、本当に正しいのでしょうか。
第3回のタイトルは、
「無期転換の直前に雇止めすれば大丈夫?契約社員の『5年ルール』で会社が踏んではいけない地雷」
を予定しています。
無期転換を単なる契約書の問題として扱うと、会社は思わぬところで判断を誤ります。
契約期間が5年に近づいてから慌てるのではなく、採用時点からどのような雇用方針を持つのか。次回は、経営者と人事担当者が先に決めておくべきことを、わかりやすく整理します。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。実際の雇止めの有効性は、契約内容、更新回数、会社の説明、業務の実態、評価・指導記録などによって個別に判断されます。具体的な対応を行う場合は、社会保険労務士や弁護士などの専門家へご相談ください。
参考:
厚生労働省「労働契約の終了」
厚生労働省「有期契約労働者の無期転換ポータルサイト」
厚生労働省「スタートアップ労働条件・有期労働契約の終了」