人の問題を取締役会へ――社労士が社外取締役・監査役に向いている7つの理由
杉山 晃浩
「社員が次々に辞めていく」
「管理職が育たず、社長がいつまでも現場から離れられない」
「ハラスメントの相談があったが、どこまで深刻なのか分からない」
「残業代の計算が間違っていた」
このような問題が起きると、多くの会社では人事担当者や顧問社労士に対応を求めます。
もちろん、個別の問題を解決することは必要です。
しかし、採用できない、社員が定着しない、管理職が育たない、長時間労働が続くといった問題は、本当に人事担当者だけの責任でしょうか。
会社が必要な人数を採用できなければ、受注できる仕事が減ります。
社員が育たなければ、社長や一部の幹部に仕事が集中します。
ハラスメントや未払い残業が発生すれば、損害賠償や行政指導だけでなく、会社の評判にも影響します。
つまり、「人の問題」は、売上、利益、生産性、信用、事業承継に直結する経営問題なのです。
それにもかかわらず、取締役会では売上、資金繰り、設備投資の話ばかりで、人に関する問題はほとんど話し合われていない会社が少なくありません。
そこで考えたいのが、社会保険労務士を社外取締役や監査役として経営に加える方法です。
顧問社労士と社外役員は何が違うのか
顧問社労士は、会社からの相談に応じ、人事労務に関する助言、社会保険の手続、就業規則の整備などを行います。
しかし、顧問は基本的に会社の意思決定者ではありません。
経営者から相談されなければ、重要な問題を知る機会がないこともあります。また、意見を伝えても、最終的に採用するかどうかは会社側の判断です。
一方、社外取締役は正式な取締役として、取締役会に参加します。
人事、組織、投資、新規事業、事業承継などの重要な経営判断について質問や意見を述べ、決議にも加わります。
会社の外から助言するだけでなく、取締役として会社の意思決定に参加し、その判断に責任を負う立場です。
監査役は、取締役の職務執行を監査する立場です。
取締役会に出席し、必要に応じて報告を求め、業務や財産の状況を調査し、法令や定款に反する行為などがないかを確認します。
ただし、非公開会社では、定款によって監査役の監査範囲が会計に限定されている場合があります。会社の機関設計や定款によって役割が異なるため、実際の選任前には専門家による確認が必要です。
つまり、顧問、社外取締役、監査役は、似ているようで役割と責任が違います。
大切なのは、「社労士に何を期待するのか」を先に決めることです。
理由1 人の問題を経営の数字に結びつけられる
社労士が社外取締役や監査役に向いている第一の理由は、人に関する問題を経営の数字と結びつけて考えられることです。
例えば、社員が一人退職したとします。
表面上は一人減っただけに見えますが、会社には求人広告費、紹介手数料、面接時間、教育時間などの負担が発生します。
採用できるまでの間、残った社員の残業が増えるかもしれません。残業が続けば、さらに退職者が出る可能性もあります。
営業職が辞めれば、売上や顧客との関係にも影響します。
採用や離職は、人事部だけの話ではありません。
売上、利益、生産性、顧客満足度に関わる経営課題です。
経営感覚を持った社労士であれば、法令に違反しているかどうかだけでなく、「この状態を放置すると、会社にどれだけの損失が生じるか」という視点から取締役会へ問題を提起できます。
理由2 職場の小さな異変を早期に発見しやすい
重大な労務トラブルも、最初から大事件として始まるとは限りません。
遅刻や欠勤が増えた。
特定の部署だけ離職が続いている。
上司と部下が話をしなくなった。
有給休暇を取る社員が極端に少ない。
健康診断後の受診勧奨が行われていない。
このような小さな異変を放置した結果、休職、退職、ハラスメント申告、労働基準監督署の調査、労働紛争へ発展することがあります。
社労士は、就業規則、勤怠記録、賃金台帳、社会保険手続などを通じて、職場の変化に触れる機会が多い専門家です。
社外取締役や監査役として経営情報にも触れることができれば、現場で起きている小さな変化と、経営上の問題を結びつけやすくなります。
問題が大きくなってから対応するのではなく、兆候の段階で取締役会に知らせることができるのです。
理由3 法律と現場の両方から考えられる
人事労務では、法律どおりに書類を整えただけでは問題を防げません。
就業規則に立派なハラスメント防止規定があっても、社員が相談できなければ機能しません。
残業を事前許可制にしていても、許可を受けずに働かざるを得ない仕事量であれば、実態とのズレが生じます。
評価制度を作っても、管理職が社員と面談しなければ、評価への不満はなくなりません。
社労士は、労働法や社会保険制度を理解するだけでなく、会社の実際の運用を確認し、法律と現場のズレを見つける役割を担います。
取締役会に人事制度の導入案が提出されたときも、
「その制度を管理職が運用できますか」
「社員への説明は、誰がいつ行いますか」
「制度を作った後の確認方法は決まっていますか」
といった実務的な質問ができます。
計画を作って終わりではなく、現場で本当に動く仕組みになっているかを確認できることは、中小企業にとって大きな価値があります。
理由4 経営者と社員の両方の話を聞く機会がある
経営者には経営者の事情があります。
社員には社員の事情があります。
経営者は「社員が会社の方針を理解してくれない」と悩み、社員は「社長が現場を分かってくれない」と感じていることがあります。
どちらか一方だけが悪いとは限りません。
情報不足や説明不足、役割分担の曖昧さによって、双方の認識がずれている場合も多いからです。
社労士は、経営者、人事担当者、管理職、社員など、異なる立場の人から相談を受ける機会があります。
そのため、どちらかの主張をそのまま受け入れるのではなく、事実を整理し、何が問題なのかを客観的に考える訓練を積みやすい職業です。
この力は、社外取締役や監査役としても役立ちます。
経営者の意図を社員へ伝えるだけでなく、現場の実態を経営の場へ持ち帰ることができれば、取締役会の判断はより現実的なものになります。
理由5 採用から退職まで、人の流れを横断して見られる
会社における人の問題は、それぞれが独立しているわけではありません。
採用時の説明と実際の労働条件が違えば、早期退職につながります。
教育が不足すれば、社員は成長を実感できません。
評価基準が曖昧であれば、賃金や昇進への不満が生まれます。
管理職が部下との関わり方を知らなければ、ハラスメントやメンタルヘルス不調が起きる可能性があります。
退職時の対応を誤れば、労働紛争やインターネット上の悪評につながることもあります。
社労士は、採用、労働条件、教育、評価、賃金、労働時間、休職、退職など、社員が入社してから退職するまでの流れを横断して見ることができます。
特に、採用定着、人事制度、就業規則、労務監査などを幅広く扱っている社労士であれば、目の前のトラブルを処理するだけでなく、その問題が発生した仕組みまでさかのぼって考えられます。
取締役会で必要なのは、個別対応の報告だけではありません。
同じ問題を繰り返さないために、会社の仕組みをどう変えるかという議論です。
理由6 社長に「耳の痛い話」を伝えられる
中小企業では、社長の考えが会社の方針に強く反映されます。
これは意思決定が速いという強みである一方、社長に反対意見を言う人がいなくなる危険もあります。
社員や幹部は、社長から人事評価や給与を決められる立場です。
「その方針には問題があります」と簡単には言えません。
だからこそ、社外取締役や監査役には、社長へ必要な異論を伝える役割が求められます。
ただし、法律の条文を読み上げて「違反です」と指摘するだけでは、会社は動きません。
経営者が理解し、行動できるように、予想される損失や信用への影響を示し、現実的な改善策まで提案する必要があります。
社長に遠慮しないこと。
しかし、社長を責めることを目的にしないこと。
会社を良くするために、根拠と解決策を添えて耳の痛い話を伝えられる社労士は、社外役員として頼れる存在になります。
理由7 他の専門家と連携しやすい
社外取締役や監査役が扱う問題は、人事労務だけではありません。
資金繰り、税務、契約、許認可、株主との関係、M&A、事業承継など、会社全体を見る必要があります。
そのため、社労士資格を持っているだけで、社外役員として十分だとはいえません。
自分の専門分野と専門外を区別し、必要に応じて弁護士、税理士、司法書士、行政書士、公認会計士などと連携する力が必要です。
特に監査役は、労務監査だけをすればよい役職ではありません。取締役の職務執行全体を監査することが基本であり、会計面を含む幅広い視点が求められます。
分からない問題を一人で抱え込む人よりも、「この問題は弁護士に確認する」「この数字は税理士や会計専門家と検討する」と判断できる人のほうが、会社にとって安全です。
複数の士業や専門家が連携できる体制を持っていることは、社外役員の候補者を選ぶ際の重要な基準になります。
社労士なら誰でも社外役員に向いているわけではない
ここまで社労士の強みを説明してきましたが、資格を持っているだけで社外取締役や監査役に向いているわけではありません。
手続業務を正確に行う能力と、経営判断に参加する能力は同じではないからです。
候補者を選ぶ際は、少なくとも次の点を確認したいところです。
- 人の問題を経営の問題として説明できるか
- 中小企業の現場を理解しているか
- 採用、定着、人事制度、労務管理を横断して考えられるか
- 社長に必要な異論を伝えられるか
- 自分の専門外を理解しているか
- 他の専門家と連携できるか
- 取締役・監査役としての責任を理解しているか
また、現在の顧問社労士を社外取締役や監査役に選任する場合は、顧問として会社から報酬を受けていることが、独立した判断に影響しないかを検討する必要があります。
顧問業務と役員業務の範囲、報酬、情報管理、利益相反への対応も明確にしなければなりません。
「長く付き合っているから安心」という理由だけで決めるのではなく、役割と責任を具体的に話し合うことが重要です。
オフィススギヤマが大切にしていること
オフィススギヤマグループでは、社会保険や労働保険の手続だけでなく、採用・定着、人事制度、就業規則、労務監査、社員研修、企業型DC、許認可など、中小企業の経営に関わるさまざまな課題を支援しています。
人事労務の問題を単独で見るのではなく、
「この問題は会社の利益にどう影響するのか」
「社長と社員が、どちらも納得できる方法はないか」
「制度を作った後、現場で本当に運用できるのか」
という視点を大切にしています。
社外取締役や監査役を選ぶ場合にも、資格や肩書だけでなく、その人がどのような視点で会社を見てくれるのかを確認していただきたいと思います。
自社に必要なのは、顧問・社外取締役・監査役のどれか
会社によって必要な関わり方は違います。
日常的な労務相談や就業規則の整備が中心であれば、まずは顧問契約が適しているでしょう。
人の問題を取締役会の経営課題として扱い、重要な意思決定にも参加してほしいのであれば、社外取締役が選択肢になります。
取締役の職務執行を独立した立場から確認し、労務リスクを含む問題の兆候を早く見つけたいのであれば、監査役という方法があります。
そこで今回、読者プレゼントとして、
「顧問・社外取締役・監査役 人事労務専門家の活用方法診断シート」
をご用意しました。
18の質問に答えると、顧問、社外取締役、監査役の必要度が自動採点されます。
さらに、候補者選びの7つの基準についても確認できます。
診断結果だけで役割を決めるものではありませんが、社内で検討を始める材料としてご活用ください。
人に関する問題を、問題が起きた後の「後始末」で終わらせてはいけません。
採用、定着、育成、労務管理を、会社の未来をつくる経営課題として取締役会で話し合う。
そのための選択肢の一つが、社労士を社外取締役や監査役として活用することです。
顧問、社外取締役、監査役のどの関わり方が自社に合うか分からない場合や、候補者選びについて相談したい場合は、オフィススギヤマグループへお問い合わせください。