「シフトによる」だけでは足りない?シフト勤務者の労働条件明示で会社が見落とす5つの落とし穴

杉山 晃浩

「勤務時間はシフトによる」

パート・アルバイトを雇用する会社の労働条件通知書では、よく見かける表現です。

飲食店、小売店、介護事業所、医療機関、宿泊施設などでは、毎日同じ時間に勤務するとは限りません。そのため、始業時刻や終業時刻の欄に「シフトによる」と記載している会社も少なくないでしょう。

しかし、本当にその一言だけで十分なのでしょうか。

結論からいえば、勤務時間や勤務日の決め方が分からないまま、「シフトによる」とだけ記載する方法には注意が必要です。

シフト制で働く人にとって、勤務日数や勤務時間は、毎月の給与だけでなく、家事、育児、介護、通院、掛け持ちの仕事などにも影響します。

会社側が「柔軟な働き方」と考えていても、働く側から見れば、

「月に何日働けるのか分からない」

「いつシフトが決まるのか分からない」

「確定したはずのシフトが突然変わる」

「希望していない日に勤務を入れられる」

という、不安定な働き方になっている可能性があります。

シフト制は、会社が自由に勤務日を決められる制度ではありません。

今回は、シフト勤務者を採用するときの労働条件明示と、採用後の運用で見落としやすいポイントを整理します。

「シフト制」の意味を正しく理解していますか?

厚生労働省が示す「シフト制」とは、労働契約を結ぶ時点では具体的な労働日や労働時間を確定せず、1週間や1か月など一定期間ごとに作成するシフト表によって、実際の勤務日と勤務時間が決まる働き方を指します。

一方、早番、遅番、夜勤などの勤務パターンが就業規則で決められており、一定期間の労働日数や労働時間数もあらかじめ決まっている交替勤務は、ここでいうシフト制とは区別されています。

つまり、「毎日同じ時間ではない」という理由だけで、すべてを「シフトによる」で処理できるわけではありません。

シフト制であっても、会社には採用時の労働条件を明らかにする義務があります。

労働基準法第15条では、会社が労働契約を結ぶ際に、賃金、労働時間、休日などの労働条件を明示することを求めています。特に重要な事項については、原則として書面で明示しなければなりません。

2024年4月からは、就業場所と業務内容の「変更の範囲」なども明示事項に加わっています。

シフト勤務者だから、労働条件を曖昧にしてよいわけではないのです。

厚生労働省の留意事項でも、契約を結ぶ時点ですでに始業・終業時刻が決まっている場合、「シフトによる」とだけ記載するのでは足りず、具体的な時刻を書いたり、同時に渡すシフト表を組み合わせたりする必要があると示されています。

シフト制は「書かなくてもよい制度」ではなく、「決め方まで丁寧に説明すべき制度」と考えたほうがよいでしょう。

落とし穴1 勤務時間のパターンが書かれていない

労働条件通知書に「始業・終業時刻はシフトによる」とだけ書かれていても、働く人は実際の生活をイメージできません。

少なくとも、通常使用する勤務時間のパターンは明らかにしておきたいところです。

例えば、次のような内容です。

  • 早番は8時から17時まで
  • 通常勤務は9時から18時まで
  • 遅番は12時から21時まで
  • 休憩時間は原則として60分
  • 業務上必要な場合に、これらの時間帯を組み合わせてシフトを作成する

契約を結ぶ時点で初回のシフトが決まっているなら、労働条件通知書と一緒にシフト表を渡す方法も考えられます。

大切なのは、「勤務時間は後で会社が自由に決めます」という状態にしないことです。

採用面接では「遅くても18時までです」と説明していたのに、入社後に21時までのシフトを入れれば、通知書の問題だけでは済みません。

前回取り上げた、求人票、面接時の説明、労働条件通知書、実際の働き方の食い違いにもつながります。

落とし穴2 シフトがいつ決まるのか分からない

労働条件通知書に勤務時間のパターンを書いても、シフトを決める手順がなければ、トラブルは防げません。

例えば、翌月のシフトをいつ作成し、いつ本人へ知らせるのでしょうか。

月末ぎりぎりにならなければ翌月の勤務が分からない会社では、従業員は予定を立てられません。

特に、子育て中の人、家族を介護している人、通院している人、別の仕事を掛け持ちしている人にとって、シフトの通知時期は重要な労働条件です。

法律上の明示事項だけに目を向けるのではなく、次のような運用ルールも決めておきましょう。

  • 従業員が勤務希望を提出する期限
  • 希望を提出する方法
  • 会社が確定シフトを通知する期限
  • 確定シフトを通知する方法
  • シフト作成を担当する責任者
  • 希望どおりにならない場合の調整方法

例えば、

「毎月10日までに翌月の希望を提出し、会社は毎月20日までに確定シフトを通知する」

と決めておけば、会社側も従業員側も行動しやすくなります。

厚生労働省も、シフト作成時の意見聴取や、確定したシフトの通知期限・通知方法について、あらかじめ労使で話し合っておくことを示しています。

口頭の申し合わせだけでは、担当者が替わった途端に運用が崩れます。就業規則、雇用契約書、シフト運用規程など、会社に合った方法で記録しておくことが重要です。

落とし穴3 確定したシフトを会社が自由に変更している

シフトを確定して本人へ通知した後、会社の都合で勤務日や勤務時間を変更していないでしょうか。

「予約が減ったから、明日は休んでください」

「忙しくなったので、出勤時間を3時間早めます」

「人が足りないので、公休日を出勤日に変えます」

このような変更を、会社が一方的に行えるとは限りません。

確定したシフトの変更は、すでに決まった労働条件の変更に当たる可能性があるため、原則として本人との合意を基本に考える必要があります。

もちろん、従業員の急病や予想できない欠勤など、緊急の調整が必要になることはあります。

だからこそ、確定前と確定後を分けて、変更手続を定めておくことが大切です。

例えば、

  • シフト期間が始まる前の変更申出期限
  • シフト期間が始まった後の緊急連絡先
  • 会社から変更を依頼する場合の手順
  • 本人から変更を申し出る場合の手順
  • 変更内容への合意を確認する方法
  • 変更理由と対応結果の保存方法

などを決めておきます。

従業員から「大丈夫です」と口頭で言われただけでは、後から確認できません。メール、チャット、勤怠システムなど、履歴が残る方法を利用したほうが安全です。

また、会社が確定していた勤務を取り消した場合には、労働基準法第26条の休業手当が問題になる可能性もあります。

会社側の事情による休業に該当すれば、原則として平均賃金の60%以上の休業手当を支払う必要があります。ただし、休業手当が必要かどうかは、契約内容、シフトの確定状況、取消しの理由などによって判断が異なります。

「シフト制だから、仕事がなければ無給で休ませてもよい」と単純に考えないようにしましょう。

落とし穴4 勤務日数の上限も目安も決まっていない

採用面接で、次のようなやり取りをしていないでしょうか。

会社「週に何日くらい働けますか?」

応募者「週4日くらい希望します」

会社「分かりました」

その後、労働条件通知書には「勤務日はシフトによる」とだけ書かれている。

これでは、週4日が会社の約束なのか、単なる希望なのか分かりません。

入社後に週1日しかシフトが入らなければ、従業員から「話が違う」と言われるかもしれません。反対に、週6日の勤務を入れれば、「そこまで働けるとは言っていない」となる可能性があります。

シフト制では、可能な範囲で次の事項を整理しておくことが望まれます。

  • 勤務できる曜日と時間帯
  • 1週間または1か月の勤務日数の上限
  • 1週間または1か月の労働時間の上限
  • 通常予定している勤務日数・労働時間数の目安
  • 最低限保障する勤務日数・労働時間数を設ける場合は、その内容

最低保障を必ず設定しなければならない、という意味ではありません。

ただし、採用時に「月に20日くらい働けます」と説明しておきながら、会社の都合で月5日しかシフトを入れない運用は、労働条件をめぐる紛争につながります。

会社が約束できること、努力目標にとどまること、本人の希望として確認することを分け、書面に残しておく必要があります。

落とし穴5 シフトが決まった後は年休を取れないと思っている

シフト勤務者について、よくある誤解が年次有給休暇です。

「休みたい日は、シフトを作る前に希望を出してください」

ここまでは、シフト作成上の協力を求めるものとして理解できます。

しかし、

「シフトが確定した後は、年休を申請できません」

「シフト勤務者には、決まった勤務日がないので年休はありません」

と一律に扱うことは適切ではありません。

シフト制で働いていても、法律上の要件を満たせば年次有給休暇は発生します。

確定したシフトによって労働日となった日に、年休を申し出ることも考えられます。会社は事業の正常な運営を妨げる場合に、取得日を変更してもらう制度を利用できることがありますが、「シフトが決まったから」という理由だけで一律に拒否できるものではありません。

また、労働日数が少ないパート・アルバイトについては、週の所定労働日数などに応じた比例付与の対象になることがあります。

2026年6月には、厚生労働省のシフト制に関する留意事項が改正され、年次有給休暇の付与日数、所定労働日数を算定しにくい場合の取扱い、年休取得時の賃金計算などが追記されました。

シフト制だからこそ、年休の付与日数、取得日、残日数を会社側が適切に管理する必要があります。

通知書だけ直しても、問題は解決しない

シフト勤務者の労務管理では、労働条件通知書だけを修正しても十分ではありません。

確認すべき書類や記録は、次のようにつながっています。

  • 求人票
  • 採用ページ
  • 面接時の説明内容
  • 労働条件通知書
  • 雇用契約書
  • 就業規則
  • シフト運用ルール
  • 確定シフト表
  • シフト変更の記録
  • 勤怠記録
  • 給与計算
  • 年次有給休暇管理簿

例えば、通知書には「9時から18時」と書いてあるのに、シフト表では8時から17時になっていれば、書類同士が食い違っています。

シフト表では17時までとなっているのに、実際には毎日18時まで働いていれば、残業時間や賃金計算の確認が必要です。

会社が本当に点検すべきなのは、書類の見た目ではなく、「採用時に説明した内容どおりに働いてもらっているか」という一連の流れです。

シフト制を「会社に都合のよい制度」にしない

シフト制そのものが悪いわけではありません。

会社にとっては、繁忙と閑散に合わせて人員を配置しやすくなります。従業員にとっても、家庭や学業などの事情に合わせて働きやすい制度になり得ます。

しかし、会社だけが自由に勤務日数や勤務時間を増減できる制度になれば、働く人にとっては不安定さしか残りません。

シフトを作る担当者に悪意がなくても、ルールがなければ、その場の都合で判断することになります。

その積み重ねが、

「面接で聞いた話と違う」

「生活できるだけのシフトを入れてもらえない」

「休みを希望するとシフトを減らされる」

「突然の変更を断れない」

という不満につながります。

その不満は、退職だけで終わるとは限りません。口コミサイトやSNSへの投稿、労働基準監督署への相談、採用市場での評判低下へと広がる可能性があります。

採用炎上を防ぐために必要なのは、立派な採用パンフレットよりも、入社後の働き方を具体的に説明できる仕組みなのです。

無料チェックシートで、自社のシフト運用を確認してください

今回、シフト勤務者を雇用する会社向けに、

「『シフトによる』だけでは足りない――シフト勤務者の労働条件明示・運用チェックシート」

をご用意しました。

このチェックシートでは、次の内容を確認できます。

  • 労働条件通知書の記載内容
  • シフト希望の聴取方法
  • 確定シフトの通知期限
  • 確定後の変更・取消ルール
  • 勤務日数・労働時間数の上限や目安
  • 年次有給休暇の管理
  • 確定シフト、勤怠記録、給与計算の整合
  • 改善すべき項目の優先順位

「昔からこの方法でやっているから大丈夫」という確認ではなく、採用時の説明から実際の給与計算まで、横断して点検できる内容にしています。

自社のシフト運用に少しでも不安がある場合は、ぜひご活用ください。

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なお、チェック結果だけで個別の法令違反を断定することはできません。実際の対応を変更するときは、労働条件通知書、雇用契約書、就業規則、シフト表、勤怠記録などを確認したうえで、社会保険労務士や弁護士、労働基準監督署などの専門家・行政窓口へご相談ください。

シフト制は、「曖昧にしてよい働き方」ではありません。

会社と従業員の双方が、いつ、どのくらい働くのかを見通せるようにすること。

それが、トラブルを防ぐだけでなく、働き続けてもらえる会社をつくる第一歩です。


【参考資料】

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