人が採れない会社ほど、採用を我流で続ける――「学びにお金を払わない経営」の高すぎる代償

杉山 晃浩

「募集を出しても応募が来ない」

「せっかく採用しても、すぐに辞めてしまう」

「面接しても、どの人を採ればよいのか分からない」

このような相談を、中小企業の経営者からよく受けます。

ところが、採用方法や面接のやり方を学ぶ研修を案内すると、急に反応が鈍くなることがあります。

「できれば無料で教えてほしい」

「資料だけもらえませんか」

「研修に何万円も払うのは、ちょっと……」

もちろん、会社のお金には限りがあります。必要のない研修へ、むやみにお金を使う必要はありません。

しかし、ここで一度考えていただきたいのです。

本当に高いのは、採用を学ぶ費用でしょうか。

それとも、我流の採用を何年も続け、採用失敗と早期離職を繰り返すことでしょうか。

採用で困っているのに、採用を学ぶ予算は決まっていない

先日、オフィススギヤマでは「早期離職を防ぐ!ファン化面接セミナー」を開催しました。

ファン化面接とは、応募者を一方的に見極めるだけではなく、面接を通して会社を理解してもらい、「この会社で働きたい」と思ってもらうための面接方法です。

セミナー後のアンケートでは、参加者から次のような採用課題が挙げられました。

  • 応募が集まらない
  • 採用しても早期離職が起きる
  • 面接に自信がない
  • 会社の魅力をうまく伝えられない
  • 入社後の定着に課題がある
  • 人材採用や教育に手が回らない

つまり、多くの会社が採用に困っています。

また、「面接トークスクリプトを知りたい」「応募者や面接官を評価する方法を学びたい」「面接の進め方を整えたい」といった前向きな回答もありました。

ところが、面接の見直しに使える予算を尋ねると、「まだ分からない」「内容によって検討したい」という回答が中心でした。具体的な金額を挙げた回答でも、数万円程度までが多いという結果でした。

なお、これは少人数のアンケートであり、日本中の会社を代表する統計ではありません。

それでも、私は中小企業に共通する一つの傾向が表れているように感じました。

それは、

採用の問題は感じている。しかし、その問題を解決するための知識や訓練には、お金を使う準備ができていない。

という矛盾です。

求人広告には払うのに、面接官教育には払わない

人が足りなくなると、多くの会社は、まず求人広告を出します。

反応がなければ掲載期間を延ばし、別の求人媒体にも掲載します。場合によっては人材紹介会社を利用し、採用できた人の年収に応じた紹介手数料を支払います。

求人広告や人材紹介が悪いわけではありません。必要なときには、当然利用すべきです。

しかし、採用活動を「人を集めること」だけで考えていないでしょうか。

どれだけ応募者を集めても、面接官が会社の魅力を伝えられなければ、欲しい人材から辞退されます。

質問内容や採用基準が面接官ごとに違えば、評価もばらつきます。

入社後の仕事について、良い面ばかりを説明すれば、「聞いていた話と違う」という早期離職につながります。

つまり、穴の開いたバケツに、求人広告費という水を注ぎ続けているようなものです。

それにもかかわらず、

「求人広告費は仕方がない」

「紹介手数料も採用のためには必要だ」

と考える一方で、

「面接官研修にお金をかけるのはもったいない」

と判断してしまう会社があります。

果たして、どちらが本当にもったいないのでしょうか。

採用失敗で失うのは、求人広告費だけではない

採用に失敗したときの損失は、求人広告費だけではありません。

たとえば、次のような費用や時間が発生しています。

  • 求人広告や採用ページの制作費
  • 人材紹介会社へ支払う手数料
  • 応募書類を確認する時間
  • 面接の日程を調整する時間
  • 面接官が面接に参加する時間
  • 適性検査や採用試験の費用
  • 制服、パソコン、名刺などの準備費用
  • 社会保険や雇用保険などの入社手続
  • 新入社員へ仕事を教える時間
  • 教育担当者や先輩社員の人件費
  • 退職後の欠員を埋める残業代や外注費
  • 再び募集を出すための採用費

さらに、数字に表れにくい損失もあります。

新人を教えていた社員は、早期離職が続けば、「また辞める人に教えるのか」と疲れてしまいます。

欠員を補うために残業が増えれば、既存社員まで退職するかもしれません。

人手不足によって、お客さまへの対応が遅れる可能性もあります。

採用失敗は、採用部門だけの問題ではありません。会社全体の生産性、社員の士気、顧客満足、売上にまで影響する経営問題なのです。

採用市場は、すでに「会社が選ぶだけの場」ではない

厚生労働省によると、2026年4月の有効求人倍率は1.18倍、新規求人倍率は2.11倍でした。有効求人倍率が1倍を超える状態は、求職者の数より求人の数が多いことを意味します。厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年4月分)」

すべての業種や地域で同じ状況とは限りませんが、会社側が応募者を選ぶだけの時代ではないことは明らかです。

応募者も会社を見ています。

面接官の態度、質問の内容、事務所の雰囲気、説明の分かりやすさ、社員同士の関係、面接後の連絡速度などから、「この会社で働いて大丈夫か」を判断しています。

面接官が腕を組んで、履歴書を見ながら質問を浴びせる。

会社の説明はほとんどしない。

仕事内容の良い面だけを話す。

応募者の質問には、曖昧な回答しかしない。

面接結果の連絡が遅い。

こうした昔ながらの面接を続けていれば、応募者から選ばれなくなります。

しかも、不採用になった人や辞退した人も、その会社のお客さまや取引先になる可能性があります。家族や友人へ、面接で感じた印象を話すこともあるでしょう。

面接は、採用選考であると同時に、会社の広報活動でもあるのです。

「見抜く」ことだけを考える面接は、もう古い

中小企業の面接では、「応募者を見抜かなければならない」という意識が強くなりがちです。

もちろん、自社で活躍できる人か、既存社員とうまく働ける人か、仕事内容や価値観が合うかを確認する必要はあります。

しかし、どれほど優秀な人材を見抜いても、その人が「この会社には入りたくない」と判断すれば、採用できません。

そこで必要になるのが、ファン化面接という考え方です。

面接には、大きく分けて二つの目的があります。

一つは、自社で活躍できる人材かを見極めること。

もう一つは、会社のことを理解してもらい、入社への気持ちを高めることです。

面接官自身が最初に自己開示し、なぜこの会社で働いているのか、仕事のどこにやりがいを感じているのか、会社にはどのような課題があるのかを正直に伝える。

仕事内容についても、良いことだけではなく、大変なことや厳しいことまで説明する。

そのうえで、応募者の話を丁寧に聞き、お互いの考えや希望にズレがないかを確かめる。

これが、採用後の「こんなはずではなかった」を減らします。

面接は、会社が応募者を裁く場所ではありません。

会社と応募者が、お互いに相性を確認する場所なのです。

無料情報を集めただけでは、面接は変わらない

今は、インターネットや生成AIを使えば、採用に関する情報を無料で集められます。

面接質問の例も、評価表のひな型も、求人原稿の書き方も見つかります。

無料情報を活用すること自体は悪くありません。むしろ、積極的に活用すべきです。

ただし、情報を知ることと、現場で実践できることは別です。

野球の本を何冊読んでも、それだけで速い球を打てるようにはなりません。

面接も同じです。

面接官の自己紹介文を作り、会社の魅力を言葉にし、質問の順番を決め、応募者役と面接官役に分かれて練習する。第三者からフィードバックを受け、言い方や表情、話す時間を修正する。

ここまでやって、初めて面接の質が変わります。

研修や専門家へ支払うお金は、秘密の情報を買うためだけのものではありません。

自社に合わせて考え、実践し、修正し、社内で同じ水準の面接を再現できるようにするための費用です。

情報だけ持ち帰り、行動を変えなければ、会社の結果は変わりません。

「学びにお金を払わない会社」が失うもの

技術、法律、働き方、求職者の価値観は変化し続けています。

昔うまくいった採用方法が、これからも通用する保証はありません。

それでも、

「うちは昔からこのやり方だ」

「面接くらい誰でもできる」

「採用は縁と運だ」

と考え、学ぶことを止めれば、少しずつ時代から取り残されます。

2025年版中小企業白書でも、人材不足の中では、採用した人材の定着率を高める取組が重要だと指摘されています。中小企業庁「2025年版中小企業白書・人材戦略」

また、厚生労働省が公表した令和4年3月卒業者の就職後3年以内離職率は、高卒で37.9%、大卒で33.8%でした。厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」

もちろん、すべての離職が面接の改善だけで防げるわけではありません。

賃金、労働時間、人間関係、教育体制、上司のマネジメントなど、さまざまな原因があります。

しかし、入社前に仕事内容や会社の現実を十分に伝え、応募者とのズレを減らすことはできます。

採用した後に辞められてから反省するより、採用前に学び、準備する方がはるかに合理的です。

高いか安いかは、失っている金額と比べて判断する

「面接研修に30万円かかる」と聞けば、高いと感じるかもしれません。

しかし、早期離職者を一人出したことで、求人費、面接時間、入社準備、教育、欠員対応、再採用などに100万円以上かかっている会社であれば、見え方は変わります。

比較すべきなのは、

研修費と0円

ではありません。

採用を学ぶ費用と、学ばないことで繰り返す損失額

です。

お金をかけないこと自体が問題なのではありません。

問題は、採用失敗の原因を検証せず、同じ方法を続け、同じ損失に何度もお金を払うことです。

求人広告を増やす前に、面接のやり方を見直す。

採用担当者の経験だけに任せず、質問と評価基準を統一する。

会社説明のトークを準備する。

面接官同士でロールプレイを行う。

面接後には、応募者の反応と結果を振り返る。

こうした小さな改善の積み重ねが、採用力の差になります。

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まずは、研修費が高いか安いかを考える前に、自社が採用失敗で失っている金額を確認してください。

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採用は、会社の未来を決める経営活動です

採用は、人事担当者だけの仕事ではありません。

これからの会社を誰とつくっていくのかを決める、重要な経営活動です。

設備には何百万円、何千万円と投資するのに、その設備を動かし、会社を成長させる人材の採用には、学ぶ予算をつけない。

それでは、順番が逆ではないでしょうか。

人が採れない。

採用しても辞めてしまう。

欲しい人材から選ばれない。

同じ問題が繰り返されているなら、応募者や求人媒体だけに原因を求めるのではなく、自社の採用方法を見直す時期です。

我流の採用を続けることは、無料ではありません。

見えにくいだけで、会社は毎年、高い授業料を払い続けています。

その授業料を、失敗の繰り返しに払うのか。

それとも、採用を学び、会社の仕組みを変えるために使うのか。

経営者として、いま一度考えてみてはいかがでしょうか。

 
 
 

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