「契約期間1年」と書くだけでは足りない――契約社員の労働条件通知書、見落としだらけかもしれません
杉山 晃浩
「契約社員なので、契約期間だけ書いておけばよいですよね」
「正社員用の労働条件通知書に、契約期間を付け足しています」
「とりあえず1年契約にして、問題がなければ更新する予定です」
契約社員を採用する会社から、このような話を聞くことがあります。
確かに、契約社員と正社員の大きな違いの一つは、労働契約に期間の定めがあることです。
しかし、契約社員用の労働条件通知書は、正社員用の書類に「契約期間1年」と書き加えれば完成するものではありません。
契約を更新する可能性はあるのか。
何を基準に更新を判断するのか。
更新回数や通算契約期間に上限はあるのか。
契約期間中に勤務地や仕事内容が変わる可能性はあるのか。
正社員と賞与、退職金、手当などの取扱いが違う場合、その違いを会社は説明できるのか。
こうした事項を曖昧にしたまま採用すると、契約満了が近づいたときに、
「当然、更新されると思っていた」
「正社員になれると説明された」
「求人票に書いてあった条件と違う」
というトラブルが起こります。
契約社員の雇用管理は、契約期間が終わるときではなく、最初の契約を結ぶときから始まっています。
今回は、契約社員を採用するときに明示すべき労働条件と、会社が見落としやすいポイントを整理します。
そもそも「契約社員」とは何か
実は、「契約社員」という呼び方について、法律上の統一された定義があるわけではありません。
一般的には、6か月、1年などの期間を定めて雇用する労働者を、契約社員と呼ぶことが多いでしょう。
会社によっては、次のような人を契約社員と呼んでいる場合もあります。
- 1年ごとに契約を更新するフルタイム労働者
- 定年後に再雇用した人
- 特定の業務やプロジェクトのために雇用した人
- 正社員登用を予定して雇用した人
- 勤務地や職種を限定して雇用した人
- 月給制で働くパートタイム労働者
大切なのは、会社が付けた呼び名ではなく、実際の契約内容です。
名称が契約社員でも、労働時間や日数によっては社会保険や雇用保険の対象になります。
「契約社員だから社会保険には加入させない」
「契約社員なので賞与や有給休暇はない」
という取扱いが当然に認められるわけではありません。
契約社員という名前を付けるだけで、会社が自由に労働条件を決められる制度になるわけではないのです。
なぜ有期契約にするのかを説明できますか
契約社員を雇用するとき、最初に会社内で確認したいのは、
「なぜ、この人を期間の定めのある契約で雇用するのか」
という点です。
例えば、次のような事情が考えられます。
- 期間が決まっている事業を担当してもらう
- 休業中の従業員の代替要員として採用する
- 季節的に業務量が増える期間だけ雇用する
- 定年後の再雇用として一定期間ごとに契約する
- 専門的な業務を一定期間担当してもらう
一方で、
「正社員として雇うのは不安だから」
「問題があれば1年後に辞めてもらえるから」
という理由だけで有期契約を利用している会社もあります。
しかし、有期契約だからといって、契約期間中に自由に辞めさせられるわけではありません。
むしろ、契約期間の途中で会社から契約を終了させる場合は、やむを得ない事由が必要になるなど、無期契約とは違った慎重な判断が求められます。
また、労働契約法では、使用者は有期労働契約について、その目的に照らして必要以上に短い期間を定め、反復更新することがないよう配慮しなければならないとされています。
「とりあえず3か月」「とりあえず半年」と短く設定し、何度も更新する方法が、常に会社にとって安全とは限りません。
契約期間は「1年間」ではなく年月日で書く
労働条件通知書の契約期間欄に、
「契約期間1年間」
とだけ書かれていないでしょうか。
これでは、いつからいつまでの契約なのかが明確ではありません。
例えば、
「2026年10月1日から2027年9月30日まで」
というように、契約の開始日と満了日を具体的に記載します。
入社日と契約開始日が一致しているかも確認しましょう。
書類を作成した日、本人へ渡した日、実際に働き始めた日、契約開始日がばらばらになっているケースがあります。
契約期間を明確にすることは、更新判断や社会保険の手続、年次有給休暇の管理、無期転換に関する通算契約期間の管理にもつながります。
最初の日付が間違っていれば、その後の管理もすべてずれてしまいます。
「契約更新の可能性あり」だけでは足りない
契約期間を定めた場合、次に確認するのが契約更新です。
労働条件通知書では、更新の取扱いを明らかにします。
厚生労働省のモデル労働条件通知書には、次のような選択肢があります。
- 自動的に更新する
- 更新する場合があり得る
- 契約の更新はしない
ここで特に注意が必要なのが、「更新する場合があり得る」とするケースです。
この場合、更新するかどうかを判断する基準も明示します。
一般的には、次のような基準が使われます。
- 契約期間満了時の業務量
- 勤務成績や勤務態度
- 業務を遂行する能力
- 会社の経営状況
- 担当している業務の進み具合
ただし、通知書にこれらの言葉を並べるだけでは、十分な管理になりません。
例えば、
「勤務成績により判断する」
と書いていても、会社が契約社員を評価していなければ、何を見て判断するのか分かりません。
「勤務態度により判断する」と書いていても、遅刻や欠勤の記録もなく、上司の感覚だけで決めていれば、本人へ説明することが難しくなります。
更新基準を書くのであれば、
- 誰が判断するのか
- いつ判断するのか
- どの資料を確認するのか
- 本人へどのように説明するのか
まで決めておく必要があります。
更新基準は、契約を更新しないための言葉ではありません。会社と本人が、どのような働き方を期待しているのかを共有するための基準です。
更新上限の有無と内容も明示する
2024年4月から、有期労働契約を締結するときと契約を更新するときには、更新上限の有無と内容を明示する必要があります。
更新上限とは、次のようなものです。
- 通算契約期間は3年まで
- 契約更新は4回まで
- 65歳に達した後の最初の契約満了日まで
更新上限がある場合は、単に「上限あり」と書くのではなく、通算契約期間や更新回数などを具体的に記載します。
更新上限を設けていない場合も、社内ではその取扱いを確認しておきましょう。
特に注意したいのは、最初の契約では更新上限がなかったのに、後から新たに上限を設ける場合です。
また、もともと設定していた更新上限を短くする場合もあります。
このような場合は、更新上限を新設・短縮する前に、その理由を本人へ説明する必要があります。
例えば、無期転換申込権が発生する直前になって、突然、
「今後は更新回数を4回までとします」
と変更すれば、本人から「無期転換を避けるためではないか」と疑われる可能性があります。
更新上限は、将来の雇用終了に関わる重要な条件です。会社の都合だけで、後から簡単に追加できる項目とは考えないほうがよいでしょう。
就業場所と業務内容は「最初」と「変更の範囲」を分ける
2024年4月からは、契約社員を含むすべての労働者について、就業場所と業務内容の「変更の範囲」も明示する必要があります。
契約社員の場合は、有期労働契約を更新するタイミングでも明示します。
例えば、次のように整理します。
【雇入れ直後の就業場所】
宮崎本社
【就業場所の変更の範囲】
宮崎県内の会社が定める事業所
【雇入れ直後の業務内容】
給与計算業務
【業務内容の変更の範囲】
人事労務に関する事務業務全般
契約期間中に就業場所や業務を変更する予定がないのであれば、「変更なし」と記載する方法もあります。
ここで気を付けたいのは、正社員と契約社員で異動の範囲が違う場合です。
正社員は複数の事業所へ転勤する可能性がある一方、契約社員は採用した店舗だけで勤務する。
正社員は複数の職種を経験する一方、契約社員は特定の業務だけを担当する。
このような違いがあるなら、労働条件通知書や就業規則、人事制度にも反映させる必要があります。
賃金と労働時間も正社員用の書類をコピーしない
契約社員用の通知書を作るとき、正社員用の通知書をコピーして、契約期間だけ書き換えていないでしょうか。
この方法では、実際の労働条件と違う内容が残る可能性があります。
例えば、次のような項目です。
- 基本給と手当
- 固定残業代
- 昇給
- 賞与
- 退職金
- 始業・終業時刻
- 休日
- 転勤
- 職種変更
- 定年
- 休職
- 正社員登用制度
- 適用される就業規則
正社員には賞与を支給するが、契約社員には支給しない会社もあるでしょう。
正社員には退職金制度があるが、契約社員は対象外としている場合もあります。
その場合は、契約社員に対して賞与や退職金の有無を明らかにする必要があります。
「会社の業績による」
「正社員に準ずる」
「就業規則による」
とだけ書かれていると、本人が具体的な条件を理解できないことがあります。
どの就業規則が適用されるのか、どの制度の対象になるのかまで確認しましょう。
契約社員と正社員の待遇差を説明できますか
契約社員と正社員の間に待遇差があること自体が、すべて禁止されているわけではありません。
仕事の内容、責任の程度、配置変更の範囲などが違えば、賃金や手当などに違いが生じる場合があります。
一方で、単に、
「契約社員だから」
という理由だけで待遇を低くしている場合は、説明が難しくなります。
例えば、正社員と契約社員が同じ仕事をし、同じ責任を負い、異動の範囲も同じなのに、契約社員にだけ通勤手当や賞与を支給しない。
このような場合には、その違いが不合理ではないかという問題が生じる可能性があります。
契約社員本人から、正社員との待遇差の内容や理由について説明を求められた場合、会社には説明が求められます。
そのため、採用時には次の点を整理しておきたいところです。
- 正社員と仕事の内容は同じか
- 責任の重さは同じか
- 転勤や職種変更の範囲は同じか
- 賞与や手当の違いは何か
- 退職金制度の対象になるか
- 教育訓練や福利厚生の取扱いはどうなるか
- 正社員登用制度はあるか
待遇差の理由を説明できないということは、会社自身が雇用区分の違いを整理できていない可能性があります。
「正社員になれます」と軽く言わない
契約社員を募集するとき、
「頑張れば正社員になれます」
「まずは契約社員ですが、いずれ正社員にします」
と説明する会社があります。
応募者にとっては、魅力的な言葉でしょう。
しかし、正社員登用の基準も実績もないのに、このような説明をするのは危険です。
また、正社員登用と無期転換は別の制度です。
無期転換は、一定の要件を満たした有期契約労働者から申込みがあった場合に、期間の定めのない労働契約へ転換する制度です。
契約期間がなくなるだけで、自動的に正社員と同じ賃金や役職になるわけではありません。
一方、正社員登用は、会社が定めた制度や選考によって、正社員の雇用区分へ変更するものです。
面接担当者がこの二つを混同していると、本人に誤った期待を持たせます。
正社員登用制度があるなら、応募要件、選考基準、実施時期、過去の実績などを説明できるようにしておきましょう。
採用時に確認すべき書類は一つではない
契約社員の労働条件を整備するときは、労働条件通知書だけを見てはいけません。
次の資料を横に並べて確認します。
- 求人票
- 採用サイト
- スカウトメール
- 面接時の説明記録
- 内定通知書
- 労働条件通知書
- 雇用契約書
- 契約社員就業規則
- 賃金規程
- 正社員登用制度
- 過去に使用した契約書
例えば、求人票には「原則更新」と書いているのに、通知書では「会社が必要と認めた場合に更新する」となっている。
面接では「転勤なし」と説明したのに、通知書には「会社が定める事業所」と書かれている。
採用サイトには「賞与あり」と書いているのに、契約社員は対象外になっている。
こうした食い違いが、入社後の不信感につながります。
会社が考える「契約社員」と、応募者が理解した「契約社員」が同じかどうかを確認することが重要です。
無料チェックシートで契約社員の採用条件を確認してください
今回、契約社員を採用するときの労働条件と関係書類を確認するために、
をご用意しました。
このチェックシートでは、次の内容を確認できます。
- 契約期間の開始日・満了日
- 契約更新の有無
- 更新判断基準
- 更新上限の有無と内容
- 就業場所・業務内容の変更の範囲
- 賃金、労働時間、休日
- 昇給、賞与、退職金
- 適用される就業規則
- 正社員との待遇差
- 正社員登用制度
- 求人票、面接、通知書、就業規則の整合
- 改善すべき項目の優先順位
更新基準については、「勤務成績等により判断」という言葉だけで終わらせず、判断資料、評価時期、担当者、本人への説明方法まで具体化できるようにしています。
なお、チェック結果だけで契約更新、雇止め、無期転換、待遇差などの適否を判断することはできません。
契約書や就業規則の変更、個別の契約社員への対応を行う前に、社会保険労務士や弁護士、労働局などへご相談ください。
契約社員の労務トラブルは、契約期間が満了するときに突然発生するのではありません。
採用時の曖昧な説明と、不完全な労働条件通知書の中で、すでに始まっているのです。
次回は、契約更新と雇止めを取り上げます。
「契約期間が満了すれば、当然に辞めてもらえる」という考え方がなぜ危険なのか、更新判断の手順や30日前予告などを詳しく解説します。
【参考資料】