【令和8年度】事業承継・引継ぎ応援事業補助金とは?宮崎県の経営者が「契約前」に確認したいこと
杉山 晃浩
「いずれは息子に会社を継がせたいが、まだ具体的な話はしていない」
「社員の中に後継者候補はいるが、本人の意思を確認できていない」
「自分の代で会社を閉じるしかないと思っている」
「第三者への売却も選択肢かもしれないが、誰に相談すればよいかわからない」
宮崎県内の中小企業経営者の中には、事業承継について、このような悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
事業承継は、重要だとわかっていても、緊急性を感じにくい問題です。
目の前には、売上、資金繰り、採用、社員対応、取引先対応など、すぐに判断しなければならない仕事があります。
そのため、後継者問題はどうしても後回しになりがちです。
しかし、事業承継は「後継者が決まってから始める手続」ではありません。
誰に継いでもらうのか、会社の価値はいくらなのか、株式をどう移すのか、借入金や個人保証をどうするのか、許認可を引き継げるのか、従業員の雇用や処遇をどうするのか。
確認すべきことは、想像以上に多岐にわたります。
準備を始める時期が遅くなるほど、選べる方法が少なくなり、経営者本人も後継者も苦しい判断を迫られる可能性があります。
そこで、宮崎県内の経営者に知っていただきたいのが、令和8年度「事業承継・引継ぎ応援事業補助金」です。
この補助金は、親族内承継、役員・従業員承継、第三者承継、いわゆるM&Aなどに取り組む中小企業の負担を軽減するための制度です。
ただし、宮崎県内のすべての企業が同じ条件で利用できる制度ではありません。
所在地の市町村によって、対象者、補助上限額、申請期限、対象経費などが異なるため、まずは自社が所在する市町村の制度を確認する必要があります。
事業承継を先送りすると、会社の価値まで下がることがある
「まだ元気だから、あと5年は大丈夫」
そう考える経営者も少なくありません。
しかし、事業承継で問題になるのは、経営者の年齢だけではありません。
準備をしないまま時間が過ぎることで、次のような問題が起こる可能性があります。
- 後継者候補が別の会社へ転職してしまう
- 親族が会社を継ぐ意思を持っていなかった
- 株式が親族間に分散してしまう
- 経営者個人の土地や建物を会社が使用している
- 会社の借入金に経営者個人の保証が付いている
- 許認可が現在の代表者や技術者を前提としている
- 就業規則や雇用契約書が整備されていない
- 未払い残業代などの労務リスクが見つかる
- 退職金制度や役員退職金の準備ができていない
- 特定の取引先や社員に業務が依存している
- 会社の強みや技術が文書化されていない
会社を買う側や後継者から見れば、こうした問題は、そのまま引き継ぐリスクになります。
売上や利益が出ている会社でも、権利関係、許認可、労務管理、契約関係が整理されていなければ、評価を下げられる可能性があります。
反対に、早い段階から整理を進めておけば、後継者が安心して引き継げる会社になります。
事業承継の準備とは、単に社長の名前を変更することではありません。
今の会社を点検し、次の経営者に渡せる状態へ整える作業なのです。
宮崎県の補助金は、市町村を通じて利用する仕組み
令和8年度「事業承継・引継ぎ応援事業補助金」は、宮崎県が企業へ直接交付する補助金ではありません。
宮崎県が事業を実施する市町村を支援し、その市町村が、事業承継に取り組む中小企業へ補助する仕組みです。
宮崎県が公表している制度概要では、補助率は補助対象経費の3分の2以内、補助上限額は原則50万円とされています。
ただし、市町村が独自に負担を加えることで、上限額が50万円を超える場合があります。
実際に、令和8年度の宮崎市、都城市、延岡市などでは、制度によって上限60万円とされています。
一方で、対象となる企業や費用、申請期限などは市町村ごとに異なります。
宮崎県事業承継・引継ぎ支援センターが公表している令和8年度の一覧では、次の13市町村で関連事業が実施されています。
- 宮崎市
- 都城市
- 延岡市
- 日南市
- 日向市
- 小林市
- 串間市
- 西都市
- えびの市
- 高鍋町
- 木城町
- 川南町
- 五ヶ瀬町
一覧にない市町村の企業は、この県と市町村の連携補助金を利用できない可能性があります。
ただし、国の事業承継関係補助金など、別の制度を利用できる場合もありますので、「自分の市町村が一覧にないから、相談しても意味がない」と判断する必要はありません。
また、対象市町村であっても、売り手だけが対象となる制度と、買い手も対象になる制度があります。
親族内承継が対象になるか、役員・従業員承継が対象になるか、M&Aのどの段階から対象になるかについても、各市町村の要綱を確認する必要があります。
どのような費用が補助対象になるのか
宮崎県の実施要領では、主な補助対象経費として、次のような費用が示されています。
M&Aや事業承継を支援する専門家への委託費用
弁護士、税理士、マッチングコーディネーター、金融機関、民間M&A仲介業者などとの委託契約にかかる費用です。
具体的には、着手金、マッチング登録手数料などが対象になる可能性があります。
ただし、成功報酬を対象外としている市町村もあります。
たとえば、宮崎市と延岡市の制度では、成功報酬は対象外とされています。
会社や事業の価値を調べる費用
株価算定、企業価値評価、不動産鑑定などにかかる費用です。
親族や社員へ会社を引き継ぐ場合でも、「身内だから適当な金額でよい」というわけにはいきません。
株式をいくらで渡すのかによって、税金や親族間の公平性にも影響する可能性があります。
また、第三者承継では、売り手が考える価格と買い手が評価する価格に差が出ることがあります。
早い段階で会社の価値を把握しておくことは、承継方法を検討するうえでも重要です。
事業承継に必要な資料を作成する費用
企業概要書、事業承継計画、契約関係の書類などを作成する費用です。
宮崎県の実施要領では、不動産の所有権移転にかかる費用や、許認可申請にかかる費用なども例示されています。
建設業、運送業、産業廃棄物処理業、介護・福祉事業、飲食業など、行政庁の許可や指定を受けて営業している会社では、代表者や法人が変われば何らかの手続が必要になることがあります。
許認可は、事業を引き継げば自動的についてくるとは限りません。
承継後も営業を続けるために、新規申請、変更届、承継認可などが必要になる場合があります。
行政手続が間に合わず、一時的に営業できなくなることがないよう、承継方法を決める段階から確認しておく必要があります。
なお、補助対象になるかどうかは各市町村の審査によって決まります。ここに挙げた費用が、すべての市町村で必ず補助されるわけではありません。
補助金を使いたいなら、専門家と契約する前に相談する
この補助金を検討するうえで、最も重要な点があります。
原則として、交付決定を受ける前に事業へ着手した費用は、補助対象になりません。
市町村によって表現は異なりますが、専門家との契約、M&A仲介サービスへの登録、企業価値評価の発注、書類作成の依頼などを先に行うと、その費用が対象外になる可能性があります。
「すでに専門家へ依頼して費用を支払ったので、後から補助金を申請したい」
この順番では、間に合わないことがあります。
宮崎市では、事前に支援機関へ相談したうえで交付申請を行い、市の交付決定後に事業を実施するよう案内されています。
都城市でも、補助対象事業へ着手する前の申請が要件です。
補助金を活用したい場合は、次の順番を基本に考えてください。
- 事業承継について相談する
- 所在地の市町村が制度を実施しているか確認する
- 自社と予定している取組が対象になるか確認する
- 見積書や事業計画などの申請書類を準備する
- 市町村へ交付申請を行う
- 交付決定を受ける
- 専門家との契約や対象事業へ着手する
- 事業完了後に実績報告を行う
- 補助金額の確定後、補助金を受け取る
補助金は、基本的に後払いです。
先に会社が費用を支払い、その後、実績報告や審査を経て補助金が交付されます。
補助金が出るまでの資金も準備しておく必要があります。
親族に継がせる場合も、話し合いだけでは終わりません
「息子に会社を継がせるだけなので、M&Aのような費用はかからない」
そう考える方もいるかもしれません。
しかし、親族内承継でも、次のような確認が必要です。
- 後継者本人に継ぐ意思があるか
- 現経営者から後継者へ、いつ経営権を移すか
- 株式を贈与、売買、相続のどの方法で移すか
- 他の相続人とのバランスをどうするか
- 会社が使用している個人所有の土地・建物をどうするか
- 経営者保証を解除または変更できるか
- 先代経営者の役員退職金をどう準備するか
- 古参社員と後継者の関係をどうつくるか
- 許認可や各種契約をどう引き継ぐか
- 社員や取引先へ、いつ、どのように説明するか
家族だからこそ、お金や株式について話しにくいこともあります。
曖昧なまま承継すると、後から相続争いや経営権争いに発展する可能性もあります。
早めに専門家を交えて整理することで、家族関係を壊さず、会社を次の世代へ渡しやすくなります。
社員へ引き継ぐ場合は、「経営者になる覚悟」だけでは足りない
役員や従業員へ会社を引き継ぐ方法もあります。
会社の事情、取引先、社員、技術をよく理解している人が後継者になるため、事業の連続性を保ちやすい方法です。
一方で、後継者候補には株式を買い取る資金がない、個人保証を引き受けることに不安がある、経営数字を理解できていないといった問題が生じます。
「仕事ができる社員」と「会社を経営できる人」は、必ずしも同じではありません。
承継までの期間を使って、財務、人事、営業、組織づくりなどを計画的に学んでもらう必要があります。
また、後継者候補だけを特別扱いすると、他の幹部や社員が不満を持つこともあります。
役職、権限、評価、報酬を段階的に見直し、社内に納得感をつくることも大切です。
第三者承継は「会社を売る」だけではなく、雇用を守る選択肢
親族や社員の中に後継者がいない場合でも、廃業だけが選択肢ではありません。
第三者へ株式や事業を引き継ぐM&Aによって、会社、技術、取引先、雇用を残せる可能性があります。
ただし、準備不足のまま相手探しを始めると、希望する条件での承継が難しくなることがあります。
買い手は、決算書だけを見て判断するわけではありません。
労務管理、許認可、契約、訴訟リスク、未払い賃金、社会保険、キーパーソンの退職可能性、主要取引先との関係なども確認します。
そこで問題が見つかれば、買収価格を下げられたり、最終契約を見送られたりすることがあります。
事業承継を考え始めた段階で、会社の「健康診断」をしておくことが重要です。
補助金の対象外でも、事業承継前に整理しておきたいこと
この補助金の主な対象は、専門家への委託、企業価値評価、事業承継資料や許認可関係書類の作成などです。
一方で、次のような課題は、補助対象になるとは限りませんが、事業承継を成功させるために欠かせません。
- 就業規則、賃金規程、退職金規程の整備
- 雇用契約書や労働条件通知書の確認
- 未払い残業代などの労務リスク調査
- 社会保険・労働保険の加入状況確認
- 役員報酬・役員退職金の検討
- 後継者や幹部社員の育成
- 企業型確定拠出年金など退職金制度の整備
- キーパーソンの離職防止
- 許認可の承継可否や変更手続の確認
- 株式、相続、遺言、個人財産の整理
- 承継後の組織体制や人事制度の構築
これらは、承継日が決まってから慌てて対応できるものではありません。
「5年後くらいに継がせたい」という段階から始めても、決して早すぎません。
オフィススギヤマグループへ早めにご相談ください
事業承継は、税金だけ、法律だけ、許認可だけ、人事労務だけを見ればよい問題ではありません。
会社と経営者個人、後継者、家族、従業員、取引先が複雑に関係します。
オフィススギヤマグループでは、行政書士・社会保険労務士として対応できる分野を整理するとともに、必要に応じて税理士、弁護士、司法書士、金融機関、M&A支援機関などと連携しながら、事業承継に向けた課題を整理します。
行政書士法人杉山総合法務では、事業承継に伴う許認可の確認・申請や、行政官庁への補助金申請に関する支援が可能です。
特定社会保険労務士杉山晃浩事務所では、従業員の雇用、就業規則、退職金制度、社会保険、労務リスク、承継後の組織づくりなど、人に関する課題を支援します。
補助金の採択だけを目的にするのではなく、次の経営者が安心して引き継げる会社に整えることが、私たちの支援の目的です。
なお、税務、登記、法的紛争、M&A仲介など、各専門資格が必要な業務については、それぞれの専門家や支援機関と連携して対応します。
まだ何も決まっていない今が、相談するタイミングです
次の項目に1つでも当てはまる経営者は、一度、事業承継について整理してみてください。
- 自分が引退する年齢を決めていない
- 後継者候補はいるが、本人と話していない
- 子どもが県外で働いている
- 親族に継ぐ人がいない
- 幹部社員への承継を検討している
- M&Aという選択肢も知っておきたい
- 自社の株価や事業価値を把握していない
- 個人保証や個人所有不動産がある
- 建設業などの許認可が必要な事業を行っている
- 社員の退職金制度が整っていない
- 補助金を活用して承継準備を進めたい
- 専門家と契約する前に対象制度を確認したい
後継者が決まっていなくても構いません。
「売る」「継がせる」「廃業する」の結論を出していなくても大丈夫です。
まずは、現在の会社の状況と経営者の希望を整理するところから始められます。
オフィススギヤマグループでは、初回30分の無料相談を実施しています。
補助金の対象になるかだけでなく、どのような準備が必要か、どの専門家へつなぐべきかも含めて整理します。
補助金を活用したい場合は、専門家との契約や企業価値評価の発注、許認可申請などを行う前にご相談ください。
制度の概要については、宮崎県の公式ページをご確認ください。
令和8年度の対象市町村については、宮崎県事業承継・引継ぎ支援センターの一覧をご確認ください。
※本記事は令和8年8月9日時点で公表されている情報をもとに作成しています。実施の有無、対象者、補助上限額、対象経費、申請期限などは市町村によって異なります。申請前に所在地の市町村へ最新情報をご確認ください。