売上が上がらない小さな会社へ――経営の原点を学ぶ『小さな会社★儲けのルール』

杉山 晃浩

「一生懸命働いているのに、思うように売上が上がらない」

「新しい商品を増やしても、なかなか利益につながらない」

「営業エリアを広げ、SNSも始めた。それでも問い合わせが増えない」

中小企業の経営者から、このような悩みを聞くことがあります。

売上が上がらないと、経営者は焦ります。

新しい商品をつくる。
営業エリアを広げる。
広告を出す。
SNSを始める。
値段を下げる。
とにかく多くの人に会う。

ところが、努力すればするほど仕事が増え、社長が忙しくなる一方で、肝心の利益は残らない。そのような状態に陥ることも珍しくありません。

もしかすると、売上が上がらない原因は「努力が足りないから」ではないのかもしれません。

限られた人員、資金、時間を、どこに集中させるのか。その経営戦略が曖昧なまま、手当たり次第に動いていることに原因があるのではないでしょうか。

今回から、中小企業経営者が直面するさまざまな課題を乗り越えるために、私が読んでいただきたい書籍を紹介していきます。

その第一弾として取り上げるのが、竹田陽一先生と栢野克己先生の共著、

『【新版】小さな会社★儲けのルール』

です。

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大企業の成功事例を、そのままマネしてはいけない

世の中には、経営やマーケティングに関する本が数多くあります。

しかし、その中には、大企業や有名企業の成功事例をもとに書かれたものも少なくありません。

豊富な資金を使って広告を出し、優秀な人材を集め、全国を相手に事業を展開する。こうした戦い方は、大企業だからこそ可能です。

一方、中小・零細企業には、使える人員も資金も時間も限られています。

大企業と同じ市場で、同じ商品を扱い、同じ方法で正面から勝負しても、簡単には勝てません。

これは、経営者の能力や社員の努力が足りないからではありません。そもそも持っている経営資源が違うのです。

体重50キロの選手が、体重100キロの選手と、同じルールで正面からぶつかるようなものです。根性だけで解決するには、少々無理があります。

だからこそ、小さな会社には「小さな会社なりの勝ち方」が必要になります。

その考え方を、具体的な事例とともにわかりやすく教えてくれるのが、本書です。

小さな会社は「絞る」ことで強くなる

『小さな会社★儲けのルール』の中心にあるのが、ランチェスター法則を応用した弱者の経営戦略です。

難しく聞こえるかもしれませんが、基本的な考え方は明快です。

人もお金も限られている会社は、何でもやろうとしてはいけない。商品、顧客、地域などを絞り、小さな市場で一番を目指すというものです。

たとえば、次のように考えます。

  • 取り扱う商品やサービスを絞る
  • お客様の層を絞る
  • 営業する地域を絞る
  • 得意分野に力を集中する
  • 強い競争相手がいる場所を避ける
  • 小さな市場で一番を目指す

ところが、売上に悩んでいる経営者ほど、反対の行動を取ってしまいます。

売上を増やすために、商品を増やす。
新しい客層にも手を広げる。
遠方からの仕事も受ける。
他社が成功した事業に参入する。

その結果、会社の人員と資金が分散します。

社員は多くの仕事を覚えなければならず、営業の説明も複雑になります。どの仕事でも一定の品質は出せても、「この分野なら、あの会社」と思い出してもらえるほどの強みが育ちません。

経営者は毎日忙しい。それでも会社の利益は増えない。

これは、仕事が足りないというより、力を分散させすぎている状態なのかもしれません。

「何でもできます」は、お客様に伝わりにくい

経営者としては、できるだけ多くの仕事を受けたいと思うのが自然です。

そのため、「何でもご相談ください」「幅広く対応できます」と発信したくなります。

しかし、お客様の立場になると、「何でもできます」という会社は、何が一番得意なのかわかりません。

たとえば、次の2社があったとします。

  • あらゆる業種の採用を支援する会社
  • 宮崎県内の建設会社に特化して、若手技術者の採用を支援する会社

宮崎県内の建設会社の社長が採用に困っていたら、どちらに相談したくなるでしょうか。

後者のほうが、「自社の事情をわかってくれそうだ」と感じる可能性が高いでしょう。

対応できる範囲を狭めることと、会社を小さくすることは同じではありません。

むしろ、対象を絞ることで経験が蓄積され、仕事の質が上がります。紹介も発生しやすくなり、営業の言葉も明確になります。

狭い分野で名前を覚えてもらい、そこで強くなってから、少しずつ周辺へ広げていく。本書が教えるのは、このような堅実な成長の考え方です。

これから伸びる市場だからといって、勝てるとは限らない

経営者は、「これから伸びる市場」「話題の新規事業」という言葉に心を動かされます。

確かに、成長市場には大きな可能性があります。

しかし、市場が伸びるということは、資金力や営業力を持った強い会社も参入してくるということです。

市場全体が伸びても、自社の売上が伸びるとは限りません。

流行しているから参入するのではなく、

  • 自社の経験を生かせるか
  • 既存のお客様に販売できるか
  • 競争相手よりも強みがあるか
  • 小さくても一番になれる場所があるか

を見極める必要があります。

見栄えのする新規事業よりも、現在のお客様が困っていることを深く掘り下げたほうが、自社に合った商品が見つかることもあります。

遠くの大市場を追いかけるより、足元のお客様をもう一度よく見る。

この地味に見える行動が、小さな会社の売上を立て直す第一歩になるかもしれません。

売上が上がらないとき、営業方法だけを変えていないか

売上が上がらないと、多くの会社が営業方法を変えようとします。

ホームページを作り直す。
SNSの投稿回数を増やす。
営業代行を依頼する。
チラシを配る。
広告費を増やす。

これらが間違いとは限りません。

ただし、「誰に、何を売るのか」が曖昧なまま、売り方だけを変えても効果は限定的です。

ランチェスター経営では、会社全体の進む方向を決めることを「戦略」、その方向に沿って実際に行う営業活動などを「戦術」として区別します。

平たく言えば、

  • 戦略=どこで、誰を相手に、何で勝つか
  • 戦術=それを、どのような方法で実行するか

という違いです。

チラシ、SNS、広告、訪問営業は、主に戦術です。

戦う場所や相手を決めないまま、戦術だけを増やしてしまうと、社長と社員の仕事量ばかりが増えてしまいます。

「もっと営業しよう」と号令をかける前に、「私たちは、どの分野で一番を目指すのか」を考える必要があります。

私も、かなり昔にこの本を手に取りました

私がこの本を手に取ったのは、かなり昔のことです。

当時は、現在のように事業の柱が整理され、経営の方向性がはっきり見えていたわけではありません。経営者として、さまざまな悩みを抱えながら試行錯誤していた時期でした。

その後、共著者である栢野克己先生を講師としてお招きし、セミナーを開催したこともあります。

私が宮崎県SSグループ連絡会議に所属していた頃のことです。

栢野先生は、成功した大企業のきれいな話だけをされる方ではありません。

小さな会社や個人事業主の現実を踏まえ、失敗談も交えながら、「小さな会社が何を捨て、どこに集中すべきか」を、刺激のある言葉で伝えてくださいました。

本書も、上品な理論だけを並べた経営書ではありません。

少々毒舌に感じる部分もありますが、それは、限られた経営資源を無駄にしてほしくないという思いの表れでもあるのでしょう。

耳の痛い指摘ほど、自社を見直すきっかけになります。

数多くの中小企業を見てきた著者だから書けること

著者の竹田陽一先生は、東京商工リサーチ勤務時代に数多くの倒産企業を調査し、その後も多くの中小企業を指導してきた人物です。

もう一人の著者である栢野克己先生も、零細企業や中小企業の経営者を取材し、実例に基づいた経営指導を続けてこられました。

つまり、本書に書かれているのは、経営資源に恵まれた会社だけに通用する理論ではありません。

人が足りない。
お金も限られている。
社長自身が営業も現場も担当している。
毎月の売上と資金繰りが気になる。

そのような小さな会社の現実を前提にした経営論です。

本書は2002年に初版が刊行され、後に内容や事例を増補した新版が刊行されています。商品、客層、営業地域、営業方法、顧客との関係づくりなど、小さな会社の経営者が考えるべき項目を幅広く扱っています。書籍情報

読んだ後に考えてほしい5つの質問

本は、読むだけでは会社を変えてくれません。

読後に、次の5つを紙に書き出してみてください。

  1. 当社が最も得意としている商品・サービスは何か
  2. 当社が最も喜ばせられるお客様は誰か
  3. 当社が一番になれる地域や分野はどこか
  4. 利益が少ないのに、時間を使いすぎている仕事は何か
  5. 今後、増やさずにやめるべき仕事は何か

重要なのは、「何を始めるか」だけではありません。

何をやめるか。
何を減らすか。
誰を追いかけないか。

これを決めることも、立派な経営戦略です。

売上が上がらないときほど、新しいことを増やしたくなります。しかし、本当に必要なのは、広げることではなく、絞ることかもしれません。

原点に戻る一冊としておすすめします

経営環境は、2002年の初版刊行当時から大きく変わりました。

SNS、生成AI、オンライン広告など、新しい営業手段も次々に登場しています。

しかし、道具が変わっても、

  • 誰に売るのか
  • 何を売るのか
  • どこで戦うのか
  • なぜ自社が選ばれるのか
  • 限られた力をどこに集中するのか

という経営の基本は変わりません。

売上が上がらないとき、最新の営業手法を探す前に、一度立ち止まって経営の原点を見直してみてはいかがでしょうか。

『【新版】小さな会社★儲けのルール』は、売上に悩む中小・零細企業の経営者、個人事業主、起業を考えている方に、ぜひ一度読んでいただきたい一冊です。

すべてを、そのまま実践する必要はありません。

まずは一つ、自社の商品、顧客、地域のどこかを「絞る」ところから始めてみてください。

中小・零細企業の経営戦略を学ぶ『【新版】小さな会社★儲けのルール』はこちら

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