中小企業の未来を変えるインターンシップ活用術 ― 採用・育成・業務改善の一石三鳥戦略 第6回:インターンが職場を変えた日。社員の誇りと行動が変わった“気づき”の瞬間

杉山 晃浩

インターンシップという仕組みが、会社にもたらす価値は「採用」や「教育」だけではありません。実際の現場では、インターン生の存在が、社員の働き方やマインドに変化をもたらし、職場の空気や業務の進め方を前向きに変えていったというケースが数多く存在します。

今回の第6回では、インターンを通じて“職場の何がどう変わったのか?”という視点から、社員の内面の変化、行動の変化、チームの変化を、具体的な事例を交えてご紹介します。


1.社員の「仕事観」が変わった:学生に見られるというプレッシャーが良い緊張感に

宮崎県内の製茶業を営むある企業では、初めて大学生のインターン生2名を受け入れました。普段は黙々と作業を行う現場に学生が入ることで、ベテラン社員は最初、戸惑いを見せていました。

しかし数日経つと、

  • 「ちゃんと挨拶しよう」

  • 「自分の手元の動きをゆっくり見せよう」

  • 「なるべく説明しながら作業しよう」 という意識が生まれ、現場の空気が変わり始めました。

インターン最終日に、学生が言いました。

「〇〇さんの手の動きを見て、この仕事に誇りを持っているのが伝わってきました」

この一言で、彼は涙ぐみながら「実はこんなに人に褒められたのは初めてかもしれない」と語りました。

学生の存在が、社員の“仕事の価値”を再認識させてくれた瞬間でした。


2.若手社員が「教える立場」になり、リーダーの芽が育った

あるIT系企業では、2年目の若手社員がインターン生の指導担当を任されました。

初めは「自分が教えるなんて無理だ」と不安を口にしていましたが、マニュアルを見直し、説明資料を作成し、1日の流れを設計する中で、自らの仕事への理解が深まり、自信も芽生えていきました。

インターン最終日には、学生から「〇〇さんの説明がとてもわかりやすくて安心できた」とフィードバックされ、本人も「この経験が自分を一段成長させてくれた」と振り返っています。

この経験をきっかけに、社内のプロジェクトにも自発的に関与するようになり、翌年にはチームリーダーに昇格しました。

“教える経験”が“成長の加速装置”になる好例です。


3.「教えるための見える化」で、業務改善が自然に進んだ

長年、個人のノウハウで成り立っていた建設関連企業では、インターンを受け入れるにあたり、

  • 業務の流れを整理

  • マニュアルを作成

  • 安全研修資料を整備 という事前準備を行いました。

結果的にこの準備が、社員の業務共有や効率化に貢献。

「実はこのやり方、もっと簡単にできたかも」 「これって俺しか知らないやり方だったんだな」 などの“気づき”が生まれ、社内全体の業務標準化が一気に進みました。

これは、インターンシップが“教えるための構造化”を生むことにより、会社のオペレーション全体に波及効果をもたらした例です。


4.“人を迎える会社”という意識が、職場を磨くきっかけに

学生が職場にやってくる。それだけで、普段気にならなかったことが気になり出します。

  • 「この掲示物、ちょっと古くない?」

  • 「この休憩室、もう少し清潔にしたいな」

  • 「名札をきれいに揃えておこう」

社員たちが自主的に改善に取り組み始めた職場では、「自分たちの職場を、誇れる空間にしたい」という意識が芽生えました。

その結果、社内外問わず来客への対応も丁寧になり、取引先からも「なんだか最近、雰囲気が明るくなりましたね」と言われることが増えたといいます。

これはインターン受け入れが、組織の“おもてなし力”と“整える力”を引き出した好例です。


5.職場の“ストーリー”が見えるようになった

学生の質問や疑問は、ときに深くて本質的です。

  • 「なぜこの手順でやるんですか?」

  • 「この商品って、誰のために作ってるんですか?」

  • 「この会社って、どんな未来を目指してるんですか?」

普段、業務に追われていると見失いがちな「意味」や「目的」を、学生からの質問を通じて再認識する社員が増えました。

ある社長は、こう語ってくれました。

「学生に“なぜこの会社を続けているのか?”と聞かれて、あらためて自分の言葉で答えたときに、なんだか自分の志を思い出せた気がしました」

インターンシップは、会社や社員の“原点”や“ストーリー”を見つけ直す機会にもなり得るのです。


まとめ:インターンは“企業文化を育てる”ための鏡になる

ここまで紹介してきたように、インターンシップは単なる人材育成や採用活動ではなく、

  • 社員の内面を刺激し、誇りを生む

  • 教える文化を育て、チームの土壌を豊かにする

  • 職場を整え、会社の魅力を再発見する といった、“企業文化を磨き育てる触媒”として機能します。

学生の目、学生の声、学生の存在は、企業にとって**「未来の顧客」であり「未来の仲間」であり、同時に「今を映す鏡」**です。

インターンを受け入れるということは、自社の働き方・文化・人間関係を学生に見せることであり、そこで何が見えるかが、未来へのヒントになります。

最終回となる次回は、これまでのシリーズを総括しつつ、改めて「中小企業にとってのインターンシップとは何か?」という問いに答えを出していきます。

▼ 第7回:「中小企業とインターンの未来地図 ― 地方から始まる“人を育てる会社”への進化」

 

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