その退職金制度、会社が“約束しすぎて”いませんか? 確定拠出年金と確定給付年金の決定的な違い
杉山 晃浩
第1章|退職金は「あとで考える話」ではありません
「退職金は、まだ先の話」
多くの中小企業の経営者が、そう考えています。
しかし、社労士の立場からは、はっきり言えます。
退職金制度は、“今”の判断が、将来の会社を強く縛る制度です。
なぜなら、退職金は単なるお金の話ではなく、
社員に対する会社の約束だからです。
この約束は、一度決めると簡単には変えられません。
気づいたときには、
「もう後戻りできない状態」
になっている会社も少なくありません。
本記事では、
確定給付年金(DB)と確定拠出年金(DC)の違いを、
社労士の視点で、できるだけ分かりやすく解説します。
ポイントは一つだけです。
その退職金制度、
会社が“約束しすぎて”いませんか?
第2章|そもそも退職金制度とは何なのか
退職金は、よく
「給料の後払い」
と言われます。
しかし、正確には違います。
退職金は、
労働条件の一部です。
つまり、
-
給料
-
勤務時間
-
休日
と同じレベルの「約束」です。
この約束は、
就業規則や退職金規程に書かれます。
一度書いた約束は、
会社の都合だけで勝手に変えることはできません。
イメージしやすく言うと、
連帯保証人になるのに似ています。
最初は軽い気持ちでも、
あとから「やっぱり無理」と言っても通らない。
退職金制度も、これとよく似ています。
だからこそ、
制度の中身を理解せずに決めるのは危険なのです。
第3章|確定給付年金(DB)とは「会社が結果まで約束する制度」
確定給付年金(DB)を、一言で言うとこうです。
「将来いくら払うかを、会社が先に約束する制度」
たとえば、
-
勤続20年で〇〇万円
-
勤続30年で〇〇万円
と、金額が決まっています。
社員から見ると、
とても安心感のある制度です。
しかし、ここが重要です。
そのお金を、
-
どう積み立てるか
-
運用がうまくいかなかったらどうするか
すべて会社の責任です。
運用が失敗しても、
「景気が悪かったから払えません」
とは言えません。
不足分は、
会社が穴埋めする義務があります。
社労士として現場でよく見るのは、
-
将来いくら払うか、社長が把握していない
-
退職者が出て初めて、負担の重さに気づく
-
制度を変えたくても、不利益変更になって動けない
というケースです。
DBは、
会社が“結果まで約束する制度”
だという点を、必ず押さえておく必要があります。
第4章|確定拠出年金(DC)とは「会社は入口までの責任」
一方、確定拠出年金(DC)は、考え方がまったく違います。
DCを一言で言うと、
「会社は掛金まで、結果は本人」
会社が約束するのは、
「毎月いくら出します」という点だけです。
そのお金を、
-
どう運用するか
-
将来いくらになるか
これは、社員本人の責任になります。
社員ごとに結果が違うのも、DCの特徴です。
経営者にとって重要なのは、次の点です。
-
将来の支払額が読める
-
人が増えても、リスクが膨らまない
-
経営環境が変わっても耐えやすい
「社員任せで冷たい制度では?」
と感じる方もいます。
しかし、
会社が無理な約束をしないこと
は、長く雇い続けるためには大切な考え方です。
第5章|決定的な違いは「会社がどこまで責任を持つか」
確定給付年金と確定拠出年金の違いを、
難しい言葉を使わずに整理します。
-
DB:
会社が「結果」まで約束 -
DC:
会社は「入口」まで約束
この違いが、すべてです。
DBでは、
-
将来の負担が見えにくい
-
経営が苦しくなっても責任は残る
DCでは、
-
掛金以上の負担は発生しない
-
経営判断がしやすい
どちらが良い・悪いではありません。
問題は、
会社の体力以上の約束をしていないか
という点です。
第6章|中小企業でよくある「約束しすぎ」パターン
社労士として多い相談を整理すると、
次のような会社が目立ちます。
-
昔からある制度を、そのまま続けている
-
金融機関の説明だけで導入した
-
社長自身が制度を説明できない
-
採用にも定着にも使えていない
これらに共通するのは、
制度を「理解せずに約束している」
という点です。
結果として、
-
変えたくても変えられない
-
社員ともめる
-
経営の足かせになる
本来、退職金制度は
会社を守るための仕組みであるはずです。
第7章|まとめ:退職金制度は「未来の経営判断」
確定給付年金が悪で、
確定拠出年金が正解、
という話ではありません。
大切なのは、
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会社の規模
-
将来の見通し
-
採用・定着の方針
これらに合っているかどうかです。
退職金制度は、
税金の話でも、金融商品の話でもありません。
未来の経営判断です。
だからこそ、
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税理士だけに任せない
-
金融機関任せにしない
-
最初から社労士が関与する
この視点を、ぜひ持ってください。