忙しいのに儲からない会社へ――利益を残す「値決め」の教科書

杉山 晃浩

「仕事の依頼は、それなりに入っている」

「社員も毎日、一生懸命に働いている」

「売上も極端に悪いわけではない」

それなのに、なぜか会社にお金が残らない――。

このような悩みを抱えている中小企業の経営者は、決して少なくありません。

仕事が少なければ、「もっと営業しよう」「広告を出そう」と対策を考えられます。しかし、仕事はある。社長も社員も忙しい。それでも利益が残らないとなると、どこに問題があるのかわからなくなります。

そこで経営者は、さらに売上を増やそうとします。

営業エリアを広げる。
新しい商品を増やす。
広告費をかける。
社員に、もうひと頑張りしてもらう。
多少安くても、とにかく仕事を取る。

ところが、売上を増やすほど忙しくなり、資金繰りまで苦しくなる会社があります。

そのような経営者に、ぜひ読んでいただきたいのが、西田順生先生の著書、

『儲けの9割は「値決め」で決まる!』

です。

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今回は「中小企業経営者が直面する課題に立ち向かうための書籍紹介」シリーズの第二弾として、この本をご紹介します。

売上が増えれば、本当に会社は楽になるのか

会社を続けていくために、売上は必要です。

しかし、「売上が多い会社」と「利益が残る会社」は、必ずしも同じではありません。

たとえば、次の2社を比べてみます。

  • A社:売上1億円、利益100万円
  • B社:売上7,000万円、利益700万円

会社の規模だけを見れば、A社のほうが大きく見えます。しかし、利益をしっかり残しているのはB社です。

売上は会社の規模を示す数字にはなりますが、経営の安定性まで保証してくれるものではありません。

安く受注しすぎている。
追加作業を見積りに入れていない。
値引きが当たり前になっている。
急ぎの仕事にも通常料金で対応している。
少量注文でも大量注文と同じ単価にしている。

このような状態で仕事を増やしても、利益はなかなか残りません。

むしろ、売るほど現場の負担が増え、社員が疲れ、残業代や外注費が膨らみ、資金繰りが苦しくなることもあります。

問題は、「売れていないこと」だけではありません。

どのような条件で、いくらで売っているのか。

そこに、会社の利益を左右する大きな問題が隠れているのです。

値決めとは、単に値札を付けることではない

「値決め」と聞くと、商品の販売価格を決めることだと思うかもしれません。

原価が1万円だから、利益を加えて1万3,000円で売る。競合他社が1万2,000円だから、自社は少し安い1万1,800円にする。

しかし、本書で扱われている値決めは、単に数字を決める話ではありません。

同じ商品名、同じ基本価格であっても、取引の条件が違えば、会社側の負担も変わります。

本書では、表面的な売価の裏側にある条件として、次の6つに注目しています。

  1. スペック
  2. サービス
  3. 数量
  4. 時間
  5. 値引き
  6. 現物

これらを曖昧にしたまま仕事を受けると、見積書の上では利益が出ているように見えても、実際には赤字になっていることがあります。

値決めとは、値段を付けることだけではありません。

どの条件なら、その価格になるのかを決めることです。

仕様が増えたのに、価格は同じではありませんか

最初に点検したいのが、商品やサービスの「スペック」です。

製造業であれば、材質、寸法、精度、加工方法などが該当します。建設業であれば、施工内容、使用する材料、現場の条件などが考えられます。

士業やコンサルティング業務でも同じです。

対応する事業所が増える。
相談回数が増える。
作成する資料が増える。
会議への参加を求められる。
個別説明や追加修正が発生する。

契約した当初より業務内容が増えているのに、「同じお客様だから」「最初に決めた料金だから」と、価格を据え置いていないでしょうか。

追加料金を突然請求すればよい、という話ではありません。

大切なのは、最初から次の点を明確にしておくことです。

  • 基本料金には何が含まれるのか
  • 無料で対応する範囲はどこまでか
  • 何が増えたら追加料金が発生するのか
  • 料金を見直すのはどのような場合か

仕事の範囲と料金が明確であれば、お客様も安心して依頼できます。

値決めは、会社の利益を守るだけでなく、「頼んだ」「頼まれていない」という行き違いを防ぐためのルールでもあるのです。

無料サービスは、すべて悪いわけではない

ここで誤解してほしくないのは、無料サービスをすべてやめるべきだという話ではないことです。

無料相談、無料診断、見積り、試供品、お試しサービス、読者プレゼントなどは、お客様が安心して最初の一歩を踏み出すための大切な入口になります。

特に、士業やコンサルティングのように、実際に相談してみなければ支援内容や専門家との相性がわかりにくい仕事では、無料相談が有効です。

オフィススギヤマグループでも、初めて相談される方に向けて「初回30分無料相談」を設けています。

これは、何時間でも無料で相談に応じるというものではありません。

限られた30分の中で、

  • 相談者が何に困っているのか
  • どの問題から手を付けるべきか
  • どの専門家が対応するのか
  • 有料で支援する場合、どのような方法があるのか

を整理するための時間です。

相談する側は、いきなり契約する不安を減らせます。私たちも、相談内容と支援できる範囲を確認できます。

このように、目的、対象、時間、範囲が明確な無料サービスは、単なる安売りではありません。

お客様との信頼関係をつくり、お互いが次の判断をするための仕組みです。

問題なのは、無料にすることではなく、目的も範囲も決めないまま、頼まれるたびに無料対応を増やしてしまうことです。

「何のための無料なのか」を説明できるなら、それは立派な経営戦略です。

「少しだけ」の積み重ねが利益を消していく

中小企業は、お客様との距離が近いからこそ、柔軟な対応ができます。

それは大企業にはない強みです。

「これも一緒にお願いできませんか」

「少しだけ仕様を変えてください」

「今日中に対応してもらえませんか」

「今回は予算がないので、少し安くなりませんか」

大切なお客様から頼まれれば、断りにくいものです。長い付き合いを考え、今回だけはサービスしようと判断することもあるでしょう。

その判断自体が間違いというわけではありません。

ただし、「今回だけ」が毎回続いていないかは確認する必要があります。

社員が30分対応すれば、人件費がかかります。訪問すれば、移動時間や燃料費がかかります。修正が増えれば、他の仕事に使える時間が減ります。

経営上の目的があり、意図して無償対応するのであれば問題ありません。

しかし、誰も判断していないまま無料対応が習慣になっているなら、利益が少しずつ漏れ続けることになります。

無料で対応する場合も、

  • 今回だけの特別対応なのか
  • 今後も続けるサービスなのか
  • 次回から有料になるのか
  • どのような効果を期待しているのか

を会社として判断することが大切です。

注文数が違えば、同じ単価でなくてもよい

大量注文と少量注文では、1個当たりの負担が違います。

少量の注文であっても、見積り、受注処理、材料の手配、準備、納品、請求など、一定の作業が必要です。

100個の注文と1個の注文を同じ単価で受ければ、1個の注文では利益がほとんど残らないことがあります。

そこで考えられるのが、次のようなルールです。

  • 最低注文金額を決める
  • 少量の場合は単価を変える
  • 一定額未満は送料を別にする
  • 基本料金と数量料金を分ける
  • まとめて依頼された場合は割引する

これは、小さな注文を断るための仕組みではありません。

小さな注文でも、必要な利益を確保しながら引き受けるための仕組みです。

数量に応じた価格のルールがなければ、注文が増えるほど細かな作業も増え、現場だけが忙しくなってしまいます。

「急ぎ」にも適正な価格がある

時間も、値決めを左右する重要な条件です。

通常は1週間かけて行う仕事を、「明日までにお願いします」と依頼されたら、社内では何が起きるでしょうか。

予定を組み替える。
他のお客様の仕事を後回しにする。
残業や休日出勤が発生する。
緊急の外注費や送料が増える。

それでも通常と同じ価格で受注すれば、追加負担は会社側に残ります。

お客様との関係や緊急性を考え、通常料金で対応することもあるでしょう。大切なのは、それを当たり前にしないことです。

急ぎ料金、時間外料金、特別対応料金など、時間に対する価格を設定しておけば、必要なときに説明しやすくなります。

また、割増料金を設定することは、予定どおり依頼している他のお客様との公平性を保つことにもつながります。

社員に「残業を減らそう」と呼びかけながら、会社が急ぎの仕事を通常料金で次々に引き受けていれば、現場は疲弊します。

値決めは、利益だけでなく、社員の働き方を守るためにも必要なのです。

10%の値引きで、利益が半分になることもある

営業担当者がお客様から「少し安くして」と言われ、その場で値引きを決めることがあります。

値引きによって契約が取れれば、売上は増えます。営業担当者も「仕事を取った」と評価されるかもしれません。

しかし、利益に与える影響は、値引率以上に大きくなることがあります。

たとえば、売価100万円、原価80万円の商品があったとします。利益は20万円です。

ここから10%、つまり10万円を値引きすると、売価は90万円になります。

値引率は10%ですが、利益は20万円から10万円へ半減します。

失った10万円の利益を取り戻すには、同じ条件の仕事をもう1件受注しなければなりません。

しかも、安く受けた仕事でも、現場に求められる品質は通常価格の仕事と変わらないでしょう。

営業が簡単に値引きした結果、現場が少ない予算と厳しい納期で苦労する。これは中小企業で起こりやすい問題です。

値引き自体が悪いわけではありません。新規顧客との接点づくり、まとめ買い、長期契約など、目的のある値引きは有効です。

ただし、次のようなルールが必要です。

  • 誰が値引きを決定できるのか
  • いくらまで認めるのか
  • 値引きする代わりに何を変更するのか
  • 最低限確保する利益はいくらか
  • 今回限りなのか、今後も同じ価格なのか

価格だけを下げるのではなく、数量、納期、仕様、契約期間、支払い条件なども併せて調整する。

これが、利益を守る値引き交渉です。

値上げが怖い本当の理由

値上げを検討すると、多くの経営者が「お客様が離れてしまう」と心配します。

もちろん、何の説明もなく突然価格を上げれば、反発を受ける可能性があります。

しかし、本当に怖いのは値上げだけではありません。

利益が出ない価格で仕事を続けた結果、

  • 社員の賃金を上げられない
  • 新しい人材を採用できない
  • 設備を更新できない
  • 社員教育にお金を使えない
  • 品質や対応力を維持できない

という状態になることも大きな経営リスクです。

適正な利益は、経営者だけのためにあるものではありません。

社員の生活を守り、人材を育て、設備を整え、お客様へのサービスを維持し、不測の事態に備えるための原資です。

値上げをお願いするときは、「原材料が上がったから」「会社が苦しいから」だけで終わらせないことが大切です。

今後も品質やサービスを維持し、安定して取引を続けるために必要な見直しであることを、丁寧に説明する必要があります。

この本は「何でも有料にしなさい」という本ではない

『儲けの9割は「値決め」で決まる!』という題名を見ると、強気に値上げをして、すべてのサービスから料金を取る方法を教える本だと思うかもしれません。

しかし、本書の重要な点は、単に販売価格を上げることではありません。

スペック、サービス、数量、時間、値引き、現物という条件を整理し、利益を確保できるルールをつくることにあります。書籍概要・目次

著者の西田順生先生は、企業で外注管理、購買、原価や値決めに関する実務を経験し、独立後は収益改善の経営指導に携わってきた人物です。

現場を無視した精神論ではなく、なぜ売上があっても利益が残らないのかを、実際の取引条件まで掘り下げて考えさせてくれます。

何でも高くする。
何でも有料にする。
無料サービスをすべて廃止する。

そういう単純な話ではありません。

利益を取るところ、戦略的に無料にするところ、数量によって価格を変えるところ、追加料金をいただくところを、会社として意図的に決める。

それが、本当の意味での値決めではないでしょうか。

本を読んだ後に確認したい8つの質問

本書を読んだ後は、次の質問について考えてみてください。

  1. 商品やサービスごとの原価を把握しているか
  2. 基本料金に含まれる仕事の範囲を明確にしているか
  3. 無料サービスの目的と範囲を説明できるか
  4. 追加料金が発生する条件を決めているか
  5. 少量注文や小口取引の価格ルールがあるか
  6. 急ぎや時間外対応の価格を決めているか
  7. 値引きの決裁権と限度額を決めているか
  8. 売上は多いのに利益の少ない商品や取引先はないか

答えられない質問が多ければ、自社の値決めが、社長や営業担当者の感覚だけに任されている可能性があります。

まずは、最近の見積書や請求書を10件ほど並べてみるとよいでしょう。

当初の見積りに含まれていない作業はなかったか。
予定より時間がかからなかったか。
値引きの理由は明確だったか。
戦略的な無料サービスと、成り行きの無料対応を区別できていたか。
最終的に、いくらの利益が残ったのか。

一つずつ確認すると、「忙しいのに儲からない理由」が見えてくるかもしれません。

売上を追う前に、利益が残る仕組みをつくる

売上を増やすことは大切です。

しかし、利益が漏れ続ける仕組みのまま売上だけを増やしても、仕事量ばかりが増えてしまいます。

穴の空いたバケツに、勢いよく水を注ぎ続けるようなものです。社長も社員も汗だくなのに、水はなかなかたまりません。

必要なのは、さらに大きな蛇口を探すことだけではありません。

  • 基本料金には、どこまで含まれるのか
  • どこから追加料金が発生するのか
  • 無料サービスは何のために行うのか
  • 数量や納期が変われば、価格をどう変えるのか
  • 最低限、いくらの利益を確保するのか

こうしたルールを決めることが、会社と社員、そして長く付き合いたいお客様を守ります。

一生懸命働いているのに利益が残らない。
売上を増やしても資金繰りが楽にならない。
価格を見直したいが、何から手を付ければよいかわからない。

そのような経営者に、『儲けの9割は「値決め」で決まる!』をおすすめします。

忙しいのに儲からない原因を見直す『儲けの9割は「値決め」で決まる!』はこちら

本を読み終えたら、「値上げできる商品」を探すだけでなく、まず次の3つを整理してみてください。

無料で提供するもの。
基本料金に含めるもの。
追加料金をいただくもの。

無料相談や読者プレゼントも、目的と範囲が明確であれば、会社とお客様をつなぐ有効な仕組みになります。

値決めとは、無料をなくすことではありません。

お客様に提供する価値と会社が受け取る対価を、経営者が責任を持って設計することです。

そこから、「忙しいのに儲からない会社」を変える一歩が始まります。

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