四国霊場「乱れ打ち」ついに結願。私が経営者に四国遍路を強く勧める理由
杉山 晃浩
2026年4月、私は12年の歳月をかけたひとつの大きな挑戦に区切りをつけました。四国八十八ヶ所、そして別格二十霊場、合わせて108ヶ所すべての札所を巡り終え、ついに「結願(けちがん)」を迎えることができたのです。
最後の納経を終えた瞬間に押し寄せてきたのは、達成感という単純な言葉では片付けられない、静かで深い感動でした。一緒にいた経営者仲間たちからは、『空気感が変わった』と伝えられました。そして結願の後、私はすべての始まりである1番札所・霊山寺へと足を運びました。いわゆる「お礼参り」です。12年前、期待と不安を胸にスタートを切った同じ場所に立ち、無事に巡礼を終えられたことへの感謝を捧げたとき、目の前の景色が以前とは全く違って見えました。
この12年の道のりは、決して平坦なものではありませんでした。しかし、この四国遍路での経験は、私の会社経営における指針となり、数え切れないほどの恩恵をもたらしてくれました。
今回は、結願という一つの節目を記念し、なぜ私が多忙を極める経営者にこそ「四国霊場巡り」を強くお勧めしたいのか、その理由を私の体験とともにお伝えしたいと思います。
完璧を求めない「乱れ打ち」という選択
私が四国遍路の歩みを進め始めたのは、平成26年のことです。発心したものの、最初から大きな壁が立ちはだかりました。それは「距離」と「時間」です。
私の拠点は宮崎にあります。宮崎から四国へ渡り、広大なエリアを巡るには、当然ながらまとまった時間と移動の労力が必要です。日々の業務や顧客対応に追われる経営者にとって、1番札所から順番に巡る「順打ち」を完璧にこなそうとすれば、スケジュール調整だけで挫折してしまうことは目に見えていました。
そこで私が選んだのが、順番にとらわれず、行けるタイミングで行ける場所から巡る「乱れ打ち」というスタイルでした。
「せっかくやるなら、伝統的な順打ちで完璧にやり遂げたい」。最初はそんなエゴもありました。しかし、経営においても「完璧な準備が整うまで動かない」ことは、最大の機会損失になり得ます。状況に合わせて柔軟に計画を変更し、とにかく歩みを止めないこと。「乱れ打ち」を受け入れたことで、私の心はスッと軽くなり、結果として12年間という長丁場を継続し、結願までたどり着くことができたのです。
完璧主義を手放し、柔軟性と継続力を重んじる。この乱れ打ちのプロセス自体が、激動の時代を生き抜く経営のスタンスそのものであったと、今振り返って強く感じています。
移動する役員会議。全国の同志と深めた「経営の真髄」
私のお遍路は、単なる御朱印集めや自己完結の旅ではありませんでした。その道程は、常に全国の経営者仲間との深い交流とセットになっていたのです。
四国では、私たちが定期的に集まる「勉強会」が開かれていました。これは一般的な歴史を学ぶ会ではなく、社労士事務所経営や助成金営業などの戦略構築、さらには採用定着ノウハウの共有などを行う、極めて実践的な「人事労務・経営の戦略会議」です。集まるのは、私と同じ社労士をはじめ、人材会社、システム会社、マーケティング会社の経営者たち。遠くは北海道から駆けつける社労士の仲間もおり、各業界の最前線で戦うトップ同士が四国の地に集結していました。
そして、実際の札所巡りにおいて、愛媛県から全国展開されている同業の岩本浩一先生とご一緒する機会に多く恵まれたことは、私にとって非常に大きな財産となりました。この場を借りて、心から感謝申し上げます。
岩本先生と巡るお遍路は、車での移動時間そのものが「白熱した経営会議」でした。次の札所へ向かう道中、マーケティングの最新手法、助成金の活用戦略、そして急激に進化するAIの実務への落とし込みなど、話題は尽きません。互いの知見をぶつけ合い、成長のための気づきを得る。大自然の中を走りながら交わしたあの議論の数々は、会議室では決して生まれなかったであろう、生きたアイデアの宝庫でした。
私たちは各札所で納経を行う際、ただ自社の利益を祈るのではなく、共に歩む同志たちと「事業繁栄」を成就させるために祈りを捧げました。自分だけでなく、仲間の企業の発展を本気で願う。共に汗をかき、高め合ったこの時間は、私にとって何物にも代えがたいものです。
道中に見た「世の中の縮図」と、社労士としての使命
12年という歳月をかけて四国を巡る中、風景だけでなく、お遍路を取り巻く環境も大きく変化していくのを肌で感じました。その最たるものが、外国人のお遍路さんの急増です。
最近では、札所や参道で外国の方を見かけない日はありません。最初は「インバウンド観光客が増えたな」という程度の認識でしたが、次第にそれが単なる観光ブームではなく、日本のビジネス環境が根本から変わりつつある現実を映し出していることに気がつきました。
社労士は、企業における「人」に関わる仕事です。日本の労働人口が減少する中、外国人労働者の存在なしには、もはや地域経済も日本経済も回らない時代に突入しています。国籍や文化の壁を越え、同じ笠をかぶり、同じ杖をついて四国の道を歩く人々の姿は、まさに今の日本社会の「縮図」そのものでした。
多様な人材とどう向き合い、どう受け入れていくのか。採用定着士として、外国人労働者と共に成長できる組織づくりにどう貢献していくべきか。明確な答えはまだ出ていません。しかし、お遍路という伝統文化の只中でこの現実を突きつけられたことは、これからの社労士としてのあり方を深く考えさせる、極めて重要な体験となりました。
108の煩悩と、次世代への「承継」
四国八十八ヶ所に別格二十霊場を加えると、ちょうど「108」になります。言うまでもなく、これは人間の「煩悩」の数です。108の札所を一つひとつ巡ることは、自分自身の内面にある迷い、焦り、怒りといった煩悩を削ぎ落とし、経営者としての器を広げる作業でした。
お遍路の道には、何世代にもわたって歩き継がれてきた圧倒的な時間の蓄積があります。その歴史の中に身を置き、自分自身を見つめ直す中で、自然と「次世代への承継」について深く考えるようになりました。
奇しくも結願と同じ2026年4月、長男の遼太が合資会社オフィススギヤマに役員として社会保険に加入いたしました。彼は宮崎の地を離れ、首都圏にてオフィススギヤマグループの情報発信や窓口という重要な役割を担ってくれます。
私が12年かけて四国の道を繋ぎきったように、これからは彼が新しい拠点で、企業と人、そして未来を繋ぐ役割を果たしてくれると確信しています。世代を超えて受け継がれるお遍路の文化は、「事業のバトンを次世代へどう繋ぐか」というブレない軸を私に与えてくれました。
私が経営者に四国遍路を強く勧める3つの理由
これらの経験を踏まえ、私が全国の経営者に四国霊場巡りをお勧めしたい理由は、以下の3つに集約されます。
理由1:究極の「インプットとリセット」の空間 日常の業務から離れ、大自然の中で札所を巡る時間は、脳をクリアにする最高のリセットとなります。そして、そこに同志がいれば、移動時間は最上級のインプットの場(戦略会議)へと変貌します。
理由2:変化への「対応力」と「受容力」が磨かれる 天候不良などのトラブルだけでなく、外国人お遍路さんの増加に見られるような「社会の変化」を肌で感じ、受け入れる器が育ちます。現場で変化を直視することは、有事の際の危機管理や、時代を先読みする経営感覚を鋭くします。
理由3:「同行二人」の精神が育む、感謝のリーダーシップ 「同行二人(どうぎょうににん)」は、常に弘法大師様と共に歩むという意味です。会社経営も一人ではできません。共に高め合う仲間、次世代を担う家族、そして社会の変化を支えるすべての人々。見えない力や周囲への深い感謝が芽生えたとき、経営者としての景色は劇的に変わります。
結願はゴールではなく、新たな経営のスタート
12年越しの結願、そしてお礼参り。それは確かにひとつの区切りでした。しかし、1番札所を後にしたとき、私の心にあったのは「やりきった」という自己満足ではなく、「ここからが新たなスタートだ」という強い意志でした。
四国の地で仲間と祈りを捧げ、世の中の変化を感じ取った経験。そこから得た気づきを、いかに日々の経営行動に落とし込み、企業の成長や地域社会の発展(地産地働)に還元していくか。それが、結願を果たした私の次なる使命です。
毎日が忙しく、プレッシャーと戦い続けている経営者の皆様。 もし今、少しでも心に迷いや閉塞感を感じているなら、ぜひ四国へ足を運んでみてください。いきなり88ヶ所すべてを回る必要はありません。まずはご縁のある1つのお寺からで十分です。
「乱れ打ち」でも構いません。大切なのは、最初の一歩を踏み出すことです。 四国の道は、いつでもあなたを優しく、そして厳しく迎え入れ、経営者としての新しい扉を開いてくれるはずです。
四国お遍路の参考書を何冊かご紹介します。とっても役に立ちますので、手に取ってお遍路をはじめてくださいね。
クルマでお遍路 四国八十八ヶ所札所めぐり ドライブ巡礼ガイド
るるぶ四国八十八ヵ所 (るるぶ情報版)
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