求人票の条件を良くする前に、この本を読んでください。人が辞めない『仕組み』の作り方

杉山 晃浩

士業事務所の「脱属人化」組織マネジメント 古川 天 (著) 

「給与をあと1万円上げれば、応募が来るはずだ」 「年間休日を増やせば、若手は辞めないだろう」

人手不足が深刻な今、多くの経営者がこうした「条件面」の改善に必死になっています。しかし、残念ながら条件だけを整えても、根本的な問題は解決しません。なぜなら、人が辞める本当の理由は「給与」そのものではなく、職場に漂う「目に見えない閉塞感」や、マニュアルのない「現場の不安」にあるからです。

今日、私が全力でご紹介したいのは、そんな組織の病を根本から治し、経営者もスタッフも共に幸せになれる「組織の作り方」を記した一冊。私の10年来の友人である古川天(ふるかわ ひかり)先生のご著書、『士業事務所に脱属人化組織マネジメント』です。

タイトルには「士業事務所」とありますが、どうかここでページを閉じないでください。本書に書かれているのは、部下を持つすべての人、そしてチームで成果を出そうとしているすべての組織に共通する「経営のバイブル」です。


10年来の友人、古川先生が経験した「涙」と「再生」

著者である古川先生とは、私が社労士として活動を始めた頃から、かれこれ10年以上の付き合いになります。彼女は、出会った頃から非常に勉強熱心で、凛とした強さと優しさと美貌を兼ね備えた、私にとって心から信頼できる友人の一人です。

しかし、そんな彼女でさえ、組織運営において「地獄」のような時期を経験しています。 本書の冒頭で明かされる数字は、あまりにも衝撃的です。 「離職率63%」。

ある時期、彼女の事務所では、大切に育ててきたスタッフの半分以上が一気に去っていきました。女性経営者として、スタッフ一人ひとりの人生に寄り添いたいと願っていた彼女にとって、これほど辛く、自分を否定されたような気持ちになることはなかったはずです。友人として、当時の彼女がどれほどの苦悩の中にいたか、思い出すだけでも胸が熱くなります。

当時の古川先生は、誰よりも責任感が強く、誰よりも実務に精通していました。しかし、その「優秀さ」が裏目に出ていたのです。「先生に聞けば何とかなる」「先生がいないと判断できない」という、典型的な「属人化(特定の個人に依存した状態)」に陥っていました。

彼女が良かれと思って一人で背負い込んだ結果、スタッフたちは「自分たちは何をどこまで判断していいのかわからない」という不安に晒され、最後には事務所を去るという選択をしました。

本書は、そんな「どん底」を経験した一人の若き女性経営者が、自らの弱さと向き合い、しなやかに組織を立て直していった「再生の記録」なのです。


「属人化」という名の、組織を蝕むサイレントキラー

皆さんの職場に、こんな「特定の誰か」はいませんか?

「この仕事は〇〇さんしか分からない」 「〇〇さんが休むと、すべての業務が止まってしまう」 「〇〇さんの機嫌が悪いと、職場の空気が凍りつく」

これを、私たちは「属人化」と呼びます。一見すると「ベテランがいて頼もしい」ように見えますが、実はこれこそが組織を内側から腐らせるサイレントキラーです。

属人化が進むと、組織には3つの大きな損失が生まれます。 第一に、業務速度の低下。特定の人の判断を待たなければならないため、すべての意思決定が停滞します。 第二に、再現性の低下。やり方が人によってバラバラなので、成果の質が安定しません。 第三に、学習の断絶。その人が辞めた瞬間に、これまで蓄積されたノウハウがすべて消えて無くなり、組織の記憶がゼロに戻ってしまうのです。

古川先生は、この「属人化」が離職の最大の引き金であったと分析しています。スタッフは、自分の仕事がブラックボックス化していることに、実は大きなストレスを感じています。「自分がいなければ回らない」という責任感は、裏を返せば「いつまでも休めない」「失敗が許されない」という恐怖に変わるからです。

求人票にどれだけ魅力的な条件を書いても、入社した後に待っているのが「誰かの背中を見て盗め」という、マニュアルも判断基準もない現場であれば、今の感性豊かな若手はすぐに去っていきます。


人が入れ替わっても、質が落ちない「仕組み」の正体

では、どうすればいいのか。古川先生が導き出した答えは、極めてシンプルかつ強力です。 「人がいれば回る」組織から、「人が入れ替わっても回る」組織への転換です。

本書では、そのためのステップが具体的に示されています。 まず取り組むべきは「可視化(言語化)」です。

多くのマニュアルが失敗するのは、単なる「作業手順」しか書いていないからです。古川先生が提唱するマニュアルには、以下の6項目が必要です。

  1. 目的(なぜやるのか)

  2. 方法

  3. 手順

  4. 判断基準(どこまでが自分の権限か)

  5. 原則行動

  6. イレギュラー対応

特に重要なのが「目的」と「判断基準」です。これらが明文化されているからこそ、スタッフは自分の頭で考え、自律的に動けるようになります。

そして、次に必要なのが「共有化」です。 誰が、何を、どこまで進めているか。これをブラックボックスにせず、チーム全員がリアルタイムで見える状態にする。古川先生の事務所では、この「仕組み」を徹底した結果、驚くべき変化が起きました。

経営者である彼女自身が、長男の中学受験に伴走するために10日間事務所を空けても、業務が一切滞ることなく回り続けたのです。これは、経営者が現場の細かな作業から解放され、本来の仕事である「未来の種まき」に専念できるようになったことを意味します。


「生まれてきてよかった」と思える職場を作る、リーダーの愛

本書を読み進めていくと、単なる効率化の手引書ではないことに気づかされます。古川先生がこの仕組み化の先に描いているのは、働く人の「尊厳」と「幸せ」です。

「『生まれてきてよかった』と思える働き方」 これこそが、彼女の経営哲学の根幹です。

「独立できる人材を育てられるのが、本当に強い組織である」 彼女はそう断言します。

多くの経営者は、優秀なスタッフが育つと「独立して辞めてしまうのではないか」と不安になり、成長を阻害したりすることがあります。しかし、古川先生はその逆を行きました。スタッフがどこへ行っても通用するスキルを身につけ、キャリア自律を目指せるように支援する。副業を推奨し、多様な経験を組織に還元してもらう。

そんな「リーダーの覚悟と愛」があるからこそ、スタッフは心から経営者を信頼し、仕組みを動かし続ける原動力になります。

「仕組み」は冷たいものではありません。むしろ、働く人を守るための「優しさ」です。ルールが明確だからこそ、人は自由になれる。根拠があるからこそ、自信を持って仕事ができる。古川先生が提唱するマネジメントは、そんな人間への深い洞察に基づいています。


今の「痛み」を、未来の「強み」に変えたいあなたへ

私は、杉山晃浩という一人の実業家として、そして古川天という素晴らしい先生の10年来の友人として、本書を強く推薦します。

私がこの本を皆さんに紹介したいと思ったのは、単に友人の本だからではありません。今の日本の中小企業、特にリーダーの皆さんが抱えている「人に関する悩み」を打破する、具体的で血の通った処方箋がここにあると確信したからです。

「いい人が採れない」 「すぐ辞めてしまう」 「自分が現場を離れるのが怖い」

そんな悩みを抱えているなら、求人サイトの予算を増やす前に、ぜひ本書の159ページを開いてください。そこには、「明日からできる5ステップ」が記されています。

  1. 見える化: 業務を棚卸しし、「誰が休んだら止まるか」を確認する。

  2. 標準化: 手順だけでなく判断基準を明文化する。

  3. 共有化: 「個人保存禁止」を徹底し、情報の流れをチームにする。

  4. 仕組み化: 有給取得を前提としたカレンダー共有など。

  5. 文化化: 成果だけでなく「助け合い」を評価する。

このステップを一つずつ踏んでいくことで、あなたの組織は確実に変わります。属人化という重圧から解放され、チーム全員が同じ方向を向いて走り出したとき、組織の生産性は驚くほど向上し、何より「ここで働けてよかった」という笑顔が増えるはずです。

古川先生は、若きリーダーとして自らの失敗をさらし、手の内をすべて明かしてくれました。それは、彼女と同じ苦しみの中にいる経営者を一人でも多く救いたいという、切なる願いからです。

組織を変えるのは、魔法ではありません。経営者の「覚悟」と、日々の小さな「仕組み」の積み重ねです。

もしあなたが、今よりもっと良いチームを作りたい、もっとスタッフを幸せにしたい、そして自分自身も経営者として次のステージへ進みたいと願うなら、この本はそのための最高のガイドブックになるでしょう。

今すぐ、最初の一歩を踏み出してみませんか。 古川先生の知恵が、あなたの未来を明るく照らすことを、私は確信しています。

先ずは、古川先生の著書を手に取ってから組織改革をすすめていきましょう。

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