勤怠システムを入れただけでは危険!変形労働時間制の給与計算DXが失敗する理由

杉山 晃浩

「勤怠システムを導入したので、これで給与計算のミスもなくなります」

経営者や人事担当者の方から、このような言葉を聞くことがあります。

社員がスマートフォンで出退勤を打刻する。

勤務時間が自動集計される。

残業時間も自動で表示される。

そのデータを給与計算ソフトに連携する。

確かに、紙のタイムカードを見ながら電卓で集計していた頃と比べれば、業務は格段に効率化されます。

しかし、ここで大きな勘違いがあります。

勤怠システムを導入しただけでは、正しい給与計算は完成しません。

特に、1か月単位や1年単位の変形労働時間制を採用している会社では注意が必要です。

制度の設定が間違っている。

勤務カレンダーが正しく登録されていない。

後からシフトを書き換えている。

休日と深夜の割増率が正しく設定されていない。

勤怠システムと給与計算ソフトのデータ連携がズレている。

このような状態で自動化を進めると、何が起きるでしょうか。

間違った給与を、毎月、正確かつ高速に計算し続けることになります。

今回は、変形労働時間制を採用する会社が給与計算DXで失敗する理由と、システム導入前後に経営者が確認すべきポイントを解説します。


給与計算DXとは、単にソフトを入れることではありません

DXという言葉を聞くと、

「紙をなくすこと」

「クラウドシステムを入れること」

「手作業を自動化すること」

と考える方が多いかもしれません。

しかし、本来の給与計算DXとは、システムを入れることそのものではありません。

会社の働き方や賃金ルールを整理し、それをシステム上で正しく再現し、毎月安定して正しい給与を計算できる仕組みをつくることです。

そのためには、少なくとも次の内容が一致していなければなりません。

  • 就業規則
  • 賃金規程
  • 労使協定
  • 年間・月間勤務カレンダー
  • 実際のシフト運用
  • 勤怠システムの設定
  • 給与計算ソフトの設定

どれか一つでも違っていると、給与計算の結果もズレます。

つまり、給与計算DXとは、

法律、社内ルール、現場運用、システム設定を一つにつなぐ作業

なのです。


システムは会社のルールが正しいかを判断してくれません

勤怠システムは優秀です。

しかし、法律の専門家でも、社会保険労務士でもありません。

会社が登録した設定に従って計算しているだけです。

たとえば、就業規則では1年単位の変形労働時間制を採用しているのに、勤怠システムでは通常勤務として設定されていたとします。

この場合、1日8時間を超えた時間が、すべて時間外労働として計算される可能性があります。

逆に、通常の労働時間制なのに変形労働時間制として設定されていれば、本来は時間外労働となる時間が計上されない可能性があります。

また、次のような設定も給与計算結果に大きく影響します。

週の起算日は何曜日か。

法定休日は何曜日か。

1か月単位か1年単位か。

対象期間はいつからいつまでか。

各日の所定労働時間は何時間か。

どの社員にどの勤務制度を適用するか。

システムは、これらが会社の就業規則と一致しているかまでは判断してくれません。

間違った設定を入力すれば、間違った結果を正しく出す。

これがシステムの特徴です。


変形労働時間制は「毎日8時間」で計算できません

通常の労働時間制では、原則として1日8時間、1週40時間を超えた部分を時間外労働として確認します。

一方、変形労働時間制では、あらかじめ適法に定めた日には8時間を超える所定労働時間を設定できる場合があります。

たとえば、10時間勤務と事前に定めた日に10時間働いた場合、1日単位では時間外労働にならないことがあります。

しかし、10時間勤務の日に11時間働けば、10時間を超えた1時間について確認が必要です。

8時間勤務と定めた日に9時間働けば、8時間を超えた部分について確認が必要になります。

さらに、変形労働時間制では、日単位だけではなく、

日単位
週単位
対象期間全体

という複数の段階で時間外労働を確認する必要があります。

1日ごとには時間外労働がなくても、1週間全体で発生することがあります。

日・週では発生していなくても、対象期間全体の法定労働時間の総枠を超える場合もあります。

この複雑な計算を正しく行うためには、システムに勤務予定と制度区分を正しく登録する必要があります。

「変形労働時間制に対応しています」と書かれたシステムでも、自社の制度に合う設定がされているとは限りません。


一番危険なのは「シフトの上書き」です

勤怠システムを導入している会社で、特に注意したいのがシフトの後変更です。

たとえば、当初は8時間勤務の予定だった社員が、実際には10時間働いたとします。

本来であれば、予定時間と実労働時間を比較して、時間外労働を確認する必要があります。

ところが、給与計算前に勤務予定を10時間へ変更すると、システム上は、

予定10時間。

実績10時間。

差はゼロ。

と表示されることがあります。

その結果、本来確認すべき2時間が見えなくなります。

システムが残業を消したのではありません。

人が勤務予定を書き換えたため、システムが変更後の予定を基準に計算しただけです。

変形労働時間制では、どの日を何時間勤務とするかを事前に特定することが重要です。

実際に働いたあと、その実績に合わせて所定労働時間を書き換えることは、給与計算DXではなく、残業時間を見えなくする危険な運用になりかねません。

そのため勤怠システムを選ぶ際には、

  • 変更前の勤務表が保存されるか
  • 誰が変更したか記録されるか
  • 変更日時が残るか
  • 承認履歴を確認できるか
  • 給与担当者が変更前後を比較できるか

を確認する必要があります。


「打刻時間」と「残業申請時間」は同じではありません

会社によっては、残業申請が承認された時間だけを給与計算に反映する設定になっていることがあります。

たとえば、社員が20時まで打刻している。

しかし、残業申請は19時までしか出ていない。

システムが申請時間を優先し、19時以降を残業として計算しない。

このような設定は注意が必要です。

厚生労働省は、使用者に対し、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、記録することを求めています。原則として、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間などの客観的記録を基礎に把握する必要があります。

残業申請制度は、残業を管理するための仕組みです。

申請がなければ、実際に働いた時間まで消える制度ではありません。

打刻時間、パソコンのログ、入退館記録、残業申請時間に大きな差がある場合には、その理由を確認する必要があります。

自己申告時間と客観的記録との間に著しい違いがある場合、実態調査を行い、必要な補正をすることも求められています。


割増賃金の設定は一つではありません

給与計算DXで失敗しやすいもう一つの原因が、割増率の設定です。

残業時間を集計できていても、割増率が違えば給与は正しくなりません。

法律上、主な割増率には次のような区分があります。

法定時間外労働は25%以上。

法定休日労働は35%以上。

午後10時から午前5時までの深夜労働は25%以上。

時間外労働と深夜労働が重なれば、原則として合計50%以上の割増が必要です。

また、1か月60時間を超える時間外労働については、中小企業にも2023年4月から50%以上の割増率が適用されています。

たとえば、

法定時間外労働が深夜に及んだ場合。

法定休日の深夜に勤務した場合。

月60時間を超える時間外労働が深夜に及んだ場合。

それぞれ確認すべき割増率が異なります。

勤怠システム上で、単に「残業」という一つの項目にまとめてしまうと、正しい計算ができないことがあります。

時間外、休日、深夜、月60時間超を分けて集計できるか。

給与計算ソフトへ別項目として連携できるか。

ここまで確認する必要があります。


勤怠システムと給与ソフトの連携にも落とし穴があります

勤怠システム上では正しく計算できている。

しかし、給与計算ソフトへ連携した段階で間違うこともあります。

たとえば、

普通残業時間が別の項目へ入る。

深夜時間が連携されない。

休日労働が普通残業として取り込まれる。

CSVを加工する際に列がずれる。

勤怠を修正したのに給与データへ再反映されていない。

こうしたミスです。

特に危険なのは、毎月のように手入力や手修正が発生している会社です。

本来、自動連携によって業務を減らすはずが、

勤怠データを出力する。

Excelで加工する。

給与ソフトへ取り込む。

エラーを手修正する。

給与明細をさらに修正する。

という状態になっていないでしょうか。

それはDXではなく、

複雑な手作業をシステムの間に挟んでいるだけ

かもしれません。

まず、毎月何件の手修正が発生しているか数えてみてください。

手修正が多い箇所には、制度、設定、連携のどこかに問題があります。


システム導入時の担当者が辞めたら、誰が設定を説明できますか?

給与計算DXは、人の問題とも深く関係しています。

システムを導入した担当者しか設定を理解していない。

導入を支援した業者にすべて任せている。

現場管理職は残業計算を知らない。

給与担当者は勤務表の作り方を知らない。

このような会社では、担当者の退職や異動によって仕組みが止まります。

また、法改正や社内制度の変更があっても、誰も設定変更できません。

システム導入時には、少なくとも次の内容を記録しておく必要があります。

  • 採用している労働時間制度
  • 対象社員
  • 対象期間
  • 週の起算日
  • 法定休日
  • 割増率
  • シフト変更ルール
  • 勤怠から給与への連携項目
  • 設定変更の責任者
  • 定期点検日

これを「設定台帳」として残しておけば、担当者が変わっても確認できます。


本当にDXできている会社は「システムの答え」を疑います

給与計算DXに成功している会社は、システムの結果を無条件には信用しません。

導入時や設定変更時に、代表的な勤務パターンを手計算し、システム結果と照合します。

たとえば、

10時間所定の日に11時間働いた場合。

8時間所定の日に9時間働いた場合。

週40時間予定で43時間働いた場合。

法定休日に働いた場合。

時間外労働が午後10時を超えた場合。

こうしたケースを使って、

勤怠システム上の時間。

給与計算ソフト上の時間。

実際の割増賃金。

が一致するかを確認します。

一度設定したら終わりではありません。

就業規則の変更。

賃金規程の変更。

勤務制度の変更。

法改正。

システム更新。

このようなタイミングで、再度テストする必要があります。


無料プレゼント「給与計算DX事故発見キット」

ここまで読んで、

「勤怠システムの設定を確認したことがない」

「給与担当者しか連携方法を知らない」

「シフトを後から変更することがある」

「システム結果を手計算で検証したことがない」

と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで今回、

【無料プレゼント】給与計算DX「事故発見キット」―変形労働時間制の誤設定・未払い残業リスク診断

を作成しました。

このキットには、次の内容を入れています。

  • 20項目の給与計算DX事故リスク診断
  • 5大事故別の自動採点
  • 最優先で確認すべき分野の自動表示
  • システム会社へ渡せる5つの給与計算テストケース
  • システム結果と手計算結果の差異判定
  • 修正アクションプラン

確認する5大事故は、

制度設定ミス
シフト上書き
割増率ミス
データ連携ミス
人の運用ミス

です。

給与計算DX「事故発見キット」無料プレゼント申込フォーム

お申し込み後、返信メールに記載されたURLからダウンロードできます。

勤怠システム会社との打合せや、給与計算担当者との社内確認にも、そのままお使いいただけます。


システム導入はゴールではなく、検証のスタートです

勤怠システムを導入すること自体は、悪いことではありません。

むしろ、労働時間を客観的に記録し、集計を効率化するうえで非常に有効です。

厚生労働省も、労働時間の把握方法として、タイムカード、ICカード、パソコン使用時間などの客観的記録を基礎とすることを原則としています。

しかし、システムは正しい制度設計の代わりにはなりません。

会社の就業規則が間違っている。

勤務カレンダーが実態と違う。

管理職がシフトを勝手に変える。

給与担当者が割増率を理解していない。

この状態では、どれほど高性能なシステムを入れても正しい給与計算はできません。

給与計算DXに必要なのは、

システム導入前にルールを整理すること。
導入時に正しく設定すること。
導入後に計算結果を検証すること。

この3つです。

「自動計算だから大丈夫」

ではありません。

自動計算だからこそ、設定を一度間違えると、全社員へ同じ間違いが毎月繰り返されます。

手計算なら一人分のミスで済んだものが、DXによって全社員分へ一瞬で広がることもあります。

勤怠システムを入れた。

給与ソフトと連携した。

紙もなくなった。

それでも、正しい給与計算になっているとは限りません。

一度、自社の代表的な勤務パターンを使って、システムの答えを手計算と比べてみてください。

その小さな確認が、未払い賃金という大きな事故を防ぐことにつながります。

 
 

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