契約書に「業務委託」と書けば大丈夫?雇用との違いを分ける本当の基準
杉山 晃浩
「社会保険料の負担を考えると、雇用ではなく業務委託にしたほうがよいでしょうか?」
「週に1日だけ来てもらう専門職なので、業務委託契約で問題ありませんよね?」
「本人も業務委託でよいと言っています。契約書も作ったので大丈夫ですよね?」
最近、このような相談が増えています。
働き方が多様になり、社員として雇用するだけでなく、フリーランスや副業人材などに仕事をお願いする会社も珍しくなくなりました。
必要なときに専門的な力を借りられる業務委託は、中小企業にとって便利な仕組みです。うまく活用すれば、採用が難しい職種の人材にも仕事を依頼できます。
しかし、ここで注意しなければならないことがあります。
それは、契約書に「業務委託契約」と書いてあっても、実際の働かせ方が社員と同じであれば、法律上は「労働者」と判断される可能性があるということです。
業務委託か雇用かを決めるのは、契約書の表紙ではありません。
本当に確認しなければならないのは、現場でどのように働いているかという「実態」なのです。
雇用と業務委託は、何が違うのか
雇用とは、会社が従業員に働いてもらい、その対価として賃金を支払う関係です。
会社には仕事の内容や進め方を指示する権限があり、従業員はその指示を受けて働きます。
たとえば会社は、従業員に対して次のような指示を出します。
- 午前9時までに出勤してください
- 今日はこの仕事を担当してください
- この手順で作業してください
- 休む場合は事前に申請してください
- 上司の確認を受けてから納品してください
このように、会社の管理や指示を受けながら働くのが、雇用の基本的な形です。
一方、業務委託は、会社と独立した事業者との取引です。
会社が相手に依頼するのは、「従業員として働くこと」ではなく、仕事の完成や、特定の業務を処理することです。
会社が依頼した成果を受け取る関係なので、原則として、相手が何時から何時まで働くのか、どのような順番で仕事を進めるのかまで、会社が社員と同じように細かく管理するものではありません。
非常に簡単に表すと、次のような違いがあります。
- 雇用は「人に働いてもらう契約」
- 業務委託は「仕事を依頼する契約」
似ているように見えますが、会社と働く人との関係は大きく異なります。
「本人も同意している」は決め手にならない
経営者からよく聞くのが、次のような説明です。
「本人から業務委託にしてほしいと言われました」
「社会保険に入りたくないと本人が希望しています」
「双方が納得しているので問題ないと思います」
当事者同士で働き方を話し合うことは大切です。しかし、本人が同意しているからといって、必ず業務委託として認められるわけではありません。
厚生労働省は、労働基準法上の「労働者」に当たるかどうかについて、契約の形式や名称ではなく、契約内容、働き方、報酬などから、個別に総合判断すると説明しています。
つまり、会社と本人が業務委託だと思っていても、実際の働き方が雇用であれば、労働者と判断される可能性があります。
契約書に署名していることも、本人が個人事業主として開業届を出していることも、それだけで結論を決めるものではありません。
大切なのは「何と書いてあるか」だけではなく、「実際にどう働いているか」です。
判断の中心になる「会社の指揮命令」
雇用か業務委託かを考えるうえで、特に重要なのが、会社の指揮監督を受けて働いているかどうかです。
難しい言葉では「使用従属性」と呼ばれますが、経営者の方は、まず次の質問で考えてみてください。
「その人は、会社から仕事のやり方や働く時間を決められ、断ることが難しい状態になっていないか?」
厚生労働省が示す判断項目には、主に次のようなものがあります。
- 仕事の依頼を断る自由があるか
- 仕事の内容や進め方について具体的な指示を受けているか
- 働く時間や場所を指定されているか
- 本人に代わって別の人が仕事をすることが認められているか
- 報酬が成果ではなく、働いた時間の対価になっていないか
- 仕事に必要な機械や道具を誰が用意しているか
- 他社の仕事をする自由があるか
ただし、どれか一つに該当しただけで、すぐに雇用と確定するわけではありません。
業務の性質上、作業時間や場所を決めなければならない仕事もあります。情報管理や安全管理のため、一定のルールを設ける必要がある場合もあるでしょう。
そのため、複数の事情を組み合わせて、全体としてどちらに近いかを確認する必要があります。
厚生労働省も、仕事を断る自由、業務上の指揮監督、時間・場所の拘束、代わりの人に任せられるか、報酬が労働の対価になっているかなどをもとに、実態を総合的に判断するとしています。
参考:フリーランスとして働く皆さまへ「あなたの働き方をチェックしてみましょう」|厚生労働省
仕事を断ることができますか
業務委託は、会社と独立した事業者との取引です。
そのため、依頼された仕事を受けるかどうかについて、原則として受託する側に判断の余地があります。
ところが、実際には次のような運用になっていることがあります。
「明日はこの現場に行ってください」
「担当になっているので、この仕事は断れません」
「休むなら会社の許可を取ってください」
「急な欠勤は認めません」
このような働かせ方は、社員に対する業務命令や勤怠管理に近くなります。
契約書に「仕事を受けるかどうかは自由」と書いてあっても、断れば契約を切られる、報酬を減らされる、今後の仕事を回してもらえないという状況であれば、実際には断る自由がない可能性があります。
書類上の自由ではなく、本当に断れるのかを確認する必要があります。
仕事の進め方を細かく指示していませんか
会社が求める品質、納期、成果物の内容を伝えることは、業務委託でも必要です。
たとえば、ホームページの制作を依頼する場合に、「9月末までに完成させてほしい」「この情報を掲載してほしい」と指定することは、当然の発注条件でしょう。
一方で、次のような指示が日常的に行われている場合は注意が必要です。
- 毎朝、当日の仕事を割り振っている
- 作業の順番や方法を上司が細かく決めている
- 業務中に繰り返し進捗報告を求めている
- 社員用の業務マニュアルに従わせている
- 上司の許可がなければ仕事を進められない
- 契約にない仕事も、その都度指示して担当させている
業務委託でも、成果を確認したり、修正を求めたりすることはあります。
問題は、成果物について注文を出しているのか、それとも、社員と同じように働き方そのものを管理しているのかという違いです。
働く時間と場所を会社が決めていませんか
「毎週月曜日から金曜日まで、午前9時から午後6時まで勤務してください」
「遅刻や早退をするときは上司の承認を受けてください」
「タイムカードを押してください」
このような管理をしている場合は、業務委託というより、雇用に近い働かせ方になっている可能性があります。
もちろん、店舗の営業時間中にしかできない仕事や、現場に行かなければできない仕事もあります。
医療、介護、建設、運送、接客など、時間や場所の指定に業務上の理由がある仕事は少なくありません。
したがって、時間や場所を指定しただけで、直ちに雇用と決まるわけではありません。
しかし、業務上必要な範囲を超えて、出退勤、休憩、休日、遅刻、早退などを社員と同じ方法で管理している場合は、慎重な確認が必要です。
報酬は「成果」に対するものですか、「時間」に対するものですか
報酬の決め方も重要な判断材料です。
業務委託では、納品した成果物、完了した業務、処理した件数などを基準に報酬を決めることが一般的です。
一方、次のような報酬の支払い方は、雇用に近い事情となることがあります。
- 1時間当たり○円と決めている
- 1日当たり○円と決めている
- 毎月同じ金額を支払っている
- 遅刻や欠勤時間に応じて報酬を差し引いている
- 時間外や休日の稼働に対して割増ししている
ただし、時間単価や月額報酬であれば、必ず雇用になるという意味ではありません。
コンサルティング、顧問契約、システムの保守など、業務委託でも月額や時間単価を使う契約はあります。
報酬の決め方だけを見るのではなく、仕事を断る自由、具体的な指示、時間の拘束などと合わせて確認する必要があります。
「社員と同じ扱い」は親切とは限らない
業務委託の人にも気持ちよく働いてもらいたいと考え、社員と同じ環境を用意する会社もあります。
その気持ち自体は悪いものではありません。
しかし、次のような扱いが重なると、社員との区別が分かりにくくなります。
- 社員と同じ組織図に入れている
- 社員と同じ肩書や名刺を使わせている
- 社員と同じ朝礼や会議への参加を義務付けている
- 社員と同じ人事評価を行っている
- 社員用の就業規則や懲戒制度を適用している
- 専用の席、パソコン、制服を無償で与えている
- 他社の仕事を禁止している
業務委託の人と情報を共有したり、必要な会議に参加してもらったりすることはあります。
それでも、独立した事業者への依頼なのか、会社の組織の一員として管理しているのかは、明確に分けて考えなければなりません。
よくある「業務委託のつもりだった」事例
たとえば、ある会社が、事務作業を担当する人と業務委託契約を結んだとします。
契約書には「業務委託」と書かれ、本人も個人事業主として請求書を発行しています。
ところが、実際の働き方は次のようなものでした。
- 毎週月曜日から金曜日まで出勤する
- 午前9時から午後5時まで会社にいる
- 上司が毎日の仕事を割り振る
- 仕事の進め方は社員用マニュアルに従う
- 休むときは上司の許可を受ける
- 報酬は毎月同じ金額である
- 他社の仕事をする時間はほとんどない
この場合、「請求書を出している」「開業届を出している」「業務委託契約書がある」という事情だけで、安心することはできません。
むしろ、働き方の多くが社員と共通しています。
会社としては外注のつもりでも、現場では社員と同じように管理していたというケースは、決して珍しくありません。
契約書を作成した時点では問題がなくても、仕事を続けるうちに社員と同じ扱いへ変わってしまうこともあります。
だからこそ、契約を結ぶときだけでなく、契約後の運用も定期的に確認する必要があります。
無料の「雇用・業務委託 判定チェックシート」をご用意しました
「自社の業務委託は大丈夫だろうか」
「どこから確認すればよいのか分からない」
そのような経営者や人事担当者のために、無料の「雇用・業務委託 判定チェックシート」をご用意しました。
チェックシートでは、次のような項目を確認できます。
- 会社の指揮命令を受けているか
- 仕事を断る自由があるか
- 働く時間や場所を会社が決めているか
- 報酬が労働時間の対価になっていないか
- 代わりの人に仕事を任せられるか
- 独立した事業者と説明できる実態があるか
- 社員と同じ組織管理をしていないか
回答を入力すると参考スコアが表示され、どの部分を詳しく確認すべきかを整理できます。
また、専門家へ相談するときに持参したい資料の一覧と、相談内容をまとめるメモ欄も付けています。
ただし、このチェックシートだけで、雇用か業務委託かを確定できるものではありません。
あくまでも、自社の契約と働かせ方を見直すための一次確認としてご活用ください。
【無料プレゼント】
契約書を直す前に、現場の働かせ方を確認してください
業務委託契約書をきれいに作れば、問題を解決できると思われがちです。
しかし、契約書だけを整えても、現場で社員と同じ働かせ方を続けていれば、根本的な解決にはなりません。
最初に確認すべきなのは、次の3点です。
- 契約書には、どのような仕事を依頼すると書かれているか
- 現場では、会社がどのような指示や管理をしているか
- 契約書と実際の働かせ方が一致しているか
この3つを並べてみると、問題点が見えやすくなります。
そして、判断に迷う場合は、契約を打ち切ったり、形式だけ雇用契約へ変更したりする前に、専門家へ相談してください。
職種や業務内容によって、確認すべき事情は異なります。
特に、建設業の一人親方、医療・介護の専門職、美容師、講師、配送員、営業担当者、システムエンジニアなどは、契約の名称だけでは判断できないケースが少なくありません。厚生労働省の資料でも、個々の事情を一つずつ確認したうえで総合判断する考え方が示されています。
参考:労働基準法における労働者性判断に係る参考資料集|厚生労働省
業務委託そのものが悪いわけではありません。
問題なのは、業務委託という名前を使いながら、実際には社員と同じように働かせてしまうことです。
「契約書に業務委託と書いてあるから大丈夫」
そう思ったときこそ、一度立ち止まってください。
契約書の表紙よりも、現場の1日を見る。
それが、雇用と業務委託を正しく分ける第一歩です。