男性育休取得率50.9%――来期の雇用関係助成金は「取らせる支援」から「職場全体を支える支援」へ
杉山 晃浩
2026年8月4日の厚生労働大臣会見で、男性の育児休業取得率が初めて50%を超えたことが取り上げられました。
厚生労働省が7月31日に公表した令和7年度雇用均等基本調査によると、男性の育児休業取得率は50.9%。前年度の40.5%から10ポイント以上上昇し、過去最高を大幅に更新しました。
上野厚生労働大臣は、この結果について、政府が掲げた2025年までの目標を達成したと説明しています。その一方で、2030年までに85%という次の目標に向けて、取得期間も含め、男性が希望どおり育児休業を取れる環境整備を進める考えを示しました。厚生労働省「上野大臣会見概要」
「男性育休は、ずいぶん当たり前になってきた」
今回の数字を見て、そう感じる経営者も多いでしょう。
しかし、中小企業の人事労務を支援する立場から見ると、男性育休をめぐる政策は、ここから次の段階に入ると考えています。
これまでの中心は、男性に育児休業を取得してもらうことでした。
これからは、
- どれくらいの期間、取得できたのか
- 本人が希望した時期に取得できたのか
- 育休取得者の仕事を誰が担当したのか
- 代わりに働いた従業員へ手当を支給したのか
- 育休から復帰した後も働き続けられるのか
- 短時間勤務や柔軟な働き方を利用できるのか
といった、取得の「中身」が問われるようになります。
来期の雇用関係助成金を考えるうえでも、この流れを見落とすことはできません。
男性育休は「取ったかどうか」だけでは測れない
男性の育児休業取得率50.9%は、大きな前進です。
ただし、取得率が50%を超えたからといって、男性が十分な期間、安心して育児に参加できているとは限りません。
数日間の育児休業でも、制度上は「取得した一人」として数えられます。
一方で、実際に子育てをする家庭から見れば、出産直後の数日だけでなく、その後の生活を整える期間も重要です。
会社側にとっても、取得者が数日休む場合と、1か月、3か月、6か月と休む場合では、必要となる準備がまったく異なります。
長期間の育児休業になるほど、
「この仕事は誰が引き継ぐのか」
「代わりに働く従業員の負担をどうするのか」
「新しい人を雇う必要があるのか」
「復帰後は元の仕事へ戻せるのか」
といった問題が出てきます。
従業員数の少ない中小企業では、一人が休む影響を軽く考えることはできません。
だからといって、育児休業を申し出た従業員に、
「今、休まれたら困る」
「せめて繁忙期が終わるまで待ってほしい」
「男性なのに、そんなに長く取るのか」
などと言ってしまえば、育児休業の取得を妨げたと受け取られる可能性があります。
育児休業を取る本人だけでなく、残された従業員にも無理をさせない仕組みが必要です。
大臣発言から見える、今後の助成金の方向
上野大臣は会見の中で、中小企業等への支援として、育児休業中の従業員の業務を代替する周囲の従業員に対し、事業主が手当を支給する場合の助成措置を拡充していることに触れました。
この発言は、今後の政策の方向を考えるうえで重要です。
国が支援しようとしているのは、育児休業を取得した本人だけではありません。
育休取得者の仕事を引き受け、職場を支えた周囲の従業員にも目を向けています。
育休を取った本人は制度を利用できてよかった。しかし、その分の仕事を任された同僚は忙しくなっただけで、賃金も評価も変わらない――。
このような状態が続けば、職場には不満がたまります。
表向きは男性育休を推進していても、職場の中で、
「また誰かが育休を取ったら、自分の仕事が増える」
「休む人だけが得をする」
という空気が生まれれば、次に育休を取りたい従業員が申し出にくくなります。
そのため、国の支援は、単に取得率を上げる施策から、休業中の業務をどのように回すかという施策へと広がっています。
ここからは現時点での私の見立てですが、来期の雇用関係助成金でも、次のような取組が引き続き重視される可能性があります。
- 男性の育児休業取得率を上げる取組
- 一定期間以上の育児休業を取得させる取組
- 育休取得者の業務を代替する従業員への手当支給
- 育休取得者の代替要員を新たに雇用する取組
- 育児短時間勤務中の業務を支える従業員への手当支給
- 育休復帰後も働き続けられる職場づくり
- 柔軟な働き方を利用できる制度の整備
- 介護休業や介護離職防止に向けた環境整備
ただし、来期の助成金制度は、正式な予算成立や支給要領の公表まで確定しません。
「来期はこの助成金が必ずもらえる」と断定することはできません。
大切なのは、助成金の名前や金額を予想することではなく、国がどのような企業の取組を後押ししようとしているかを読み取ることです。
現行制度も「業務代替」と「職場復帰」を重視している
現在の両立支援等助成金には、男性の育児休業取得を支援する「出生時両立支援コース」や、育休取得者の仕事を代替する体制を整えた企業を支援する「育休中等業務代替支援コース」などがあります。
令和8年度には、男性育休取得率の上昇等に関する支援の対象が、業種を問わず常時雇用する労働者300人以下の事業主へ広げられました。
また、育休中や短時間勤務中の業務を代替する従業員に手当を支給する場合については、企業規模による対象要件の見直しも行われています。厚生労働省「令和8年度両立支援等助成金の変更点」
ここからわかるのは、助成金の評価対象が「規程を作った会社」だけではなく、「実際に休ませ、その間の業務体制を整えた会社」へ移っているということです。
育児休業規程を作って棚に入れておくだけでは足りません。
実際に申出があったときに、
- 誰が本人へ制度を説明するのか
- どのように取得意向を確認するのか
- 休業までに何を引き継ぐのか
- 業務を代替する従業員をどう決めるのか
- 代替者へ手当を支給するのか
- 復帰前にどのような面談をするのか
- 復帰後の勤務時間や仕事内容をどうするのか
という具体的な流れが必要です。
助成金は、このような実際の取組を行った企業に支給されるものです。
助成金は「申請前に規程を直せばよい」とは限らない
助成金の相談で多いのが、
「育休を取った社員がいるので、使える助成金はありませんか」
という質問です。
ところが、助成金は、従業員が育児休業を取得した後で探し始めても間に合わないことがあります。
育児休業の申出前、休業開始前、復帰前など、決められた時期までに実施しなければならない手続があるためです。
たとえば、就業規則や育児・介護休業規程の整備、本人への個別周知、取得意向の確認、育休復帰支援プランの作成、業務の引継ぎ、代替手当の制度化などが必要になる場合があります。
会社が実際に行ったことを証明する書類も求められます。
後から日付を合わせて書類を作ったり、実際には行っていない面談を行ったことにしたりしてはいけません。
助成金は、会社の取組に対する支援です。
書類だけを整えて受け取るものではありません。
そのため、来期の助成金を活用したい会社ほど、今期中に規程と運用を点検しておく必要があります。
2025年の法改正に対応していない規程は要注意
さらに注意していただきたいのが、2025年4月と10月に段階施行された改正育児・介護休業法です。
主な改正内容には、次のようなものがあります。
- 子の看護休暇の対象となる子の範囲拡大
- 子の看護休暇を取得できる理由の拡大
- 所定外労働の制限対象を小学校就学前まで拡大
- 3歳未満の子を養育する従業員に対するテレワーク導入の努力義務
- 介護離職防止のための雇用環境整備
- 介護に直面した従業員への個別周知と意向確認
- 介護に直面する前の早い段階での情報提供
- 3歳から小学校就学前までの子を養育する従業員への柔軟な働き方の措置
- 仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取と配慮
厚生労働省も、改正への対応として就業規則等の見直しが必要になることを案内しています。厚生労働省「育児・介護休業法改正ポイントのご案内」
もし、自社の育児・介護休業規程を2025年より前から変更していないのであれば、現在の法律に対応できていない可能性があります。
また、規程の文章だけを変更していても、個別周知の書面、意向確認書、面談記録、社内相談窓口、介護に関する情報提供資料などが準備されていなければ、実務上の対応はできません。
「顧問の社労士がいるから大丈夫」
「規程は以前作ってもらったから問題ない」
と思っていても、改正後の内容が反映されているかは、実際の規程を開いて確認しなければわかりません。
法律は改正されても、会社の規程が自動的に書き換わるわけではありません。
助成金の前に「法律を守れる会社」にする
雇用関係助成金の情報が出ると、どうしても金額に目が向きます。
しかし、助成金を受け取ること自体を目的にしてはいけません。
本来の目的は、従業員が育児や介護を理由に退職せず、働き続けられる会社をつくることです。
育児休業を取りやすくするだけでなく、周囲の従業員が納得できる仕組みを整える。
休業取得者の仕事を見える化し、誰か一人に負担を集中させない。
業務を代替した従業員には、手当や人事評価で報いる。
復帰後も、短時間勤務や柔軟な働き方を利用しながら力を発揮してもらう。
このような会社の取組を支えるために、助成金があります。
順番を逆にして、助成金を受け取るためだけに制度を作ると、助成期間が終わった後に運用できなくなります。
それどころか、一度就業規則に定めた手当や制度が会社の義務として残り、将来の負担になる可能性もあります。
制度を作る前に、
「この仕組みを助成金がなくなった後も続けられるか」
を考えることが大切です。
来期の申請を考えるなら、今から始めるべきこと
来期に育児・介護関係の助成金を活用したい企業は、少なくとも次の点を確認してください。
- 育児・介護休業規程は最新の法改正に対応しているか
- 就業規則本体と育児・介護休業規程の内容が矛盾していないか
- 労使協定の内容は現在の法律と合っているか
- 従業員への個別周知と意向確認の書式があるか
- 育休取得者の業務を引き継ぐ手順があるか
- 業務代替手当を支給する場合の基準が決まっているか
- 育休復帰前後の面談を記録しているか
- 柔軟な働き方を実現する制度を選択し、周知しているか
- 介護に直面した従業員へ説明する資料があるか
- 助成金の要件に合わせるだけでなく、実際に運用できる内容になっているか
一つでも不明な点があれば、申請直前ではなく、今の段階で確認することをおすすめします。
男性育休50.9%は、企業への新しい宿題でもある
男性の育児休業取得率が50%を超えたことは、働き方が大きく変わった証拠です。
同時に、企業にとっては新しい宿題でもあります。
これからは、男性従業員から育児休業の申出があることを前提に、人員配置や業務分担を考えなければなりません。
「男性が育休を申し出るとは思わなかった」
「代わりに仕事をする人がいない」
「規程はあるが、手続がわからない」
では済まされない時代になっています。
来期の雇用関係助成金についても、育休取得者本人だけでなく、業務を支える同僚や職場全体への支援が一段と重視されると考えられます。
ただし、どのような助成制度が設けられても、その土台となるのは、最新の法律に対応した育児・介護休業規程と、実際に動かせる社内手続です。
オフィススギヤマグループでは、育児・介護休業規程の改定だけでなく、個別周知・意向確認の書式、業務代替手当の設計、育休復帰支援、助成金の活用可能性まで、会社の実態に合わせて確認します。
「2025年の法改正後、規程を変更した覚えがない」
「規程は変更したが、実際の手続までできているかわからない」
「男性社員から育休の相談があり、何から始めればよいかわからない」
このような会社は、従業員から正式な申出が出る前にご相談ください。
助成金は、準備の早い会社ほど活用しやすくなります。
そして何より、準備の早い会社ほど、従業員から安心して働ける会社として選ばれます。
※本稿における来期の助成金に関する記述は、2026年8月時点の政策動向と現行制度を踏まえた見通しです。実際の制度内容、支給要件、助成額等は、今後公表される予算、支給要領、申請案内等をご確認ください。