外国人材がすぐ辞める会社に足りないもの――最大80万円の助成金で「働きやすい職場」を整える方法
杉山 晃浩
「せっかく外国人を採用したのに、短期間で辞めてしまった」
「仕事は真面目にしてくれるが、会社のルールを理解しているのか不安がある」
「困っている様子はあるものの、本人が何も言ってこないので、そのままになっている」
外国人労働者を雇用する中小企業から、このような話を聞くことがあります。
経営者からすれば、賃金も日本人と同じように支払い、仕事も丁寧に教えているつもりです。それでも外国人材が定着しないと、「本人の考え方に問題があるのではないか」と感じてしまうかもしれません。
しかし、外国人労働者の立場から見ると、別の景色が見えていることがあります。
就業規則が日本語だけで理解できない。
残業代や休日の仕組みが母国と違う。
上司に相談したいが、誰に、どのように伝えればよいか分からない。
危険を知らせる標識や作業マニュアルの意味を十分に理解できない。
一時帰国したいが、長い休みを申し出たら解雇されるのではないかと心配になる。
こうした小さな不安が積み重なると、「この会社では安心して働けない」という判断につながります。
外国人材の離職は、本人の問題だけではありません。
会社側の説明方法や相談体制、就業規則、安全管理の仕組みに改善の余地があるかもしれないのです。
そこで活用を検討したいのが、厚生労働省の「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」です。
外国人を採用した後の環境整備を支援する助成金
この助成金は、外国人労働者特有の事情に配慮した職場環境を整え、職場への定着に取り組む事業主を支援する制度です。
外国人労働者は、日本の労働法や雇用の慣行に関する知識の不足、言葉の違いなどから、労働条件や解雇をめぐるトラブルが起きやすい傾向にあります。
厚生労働省も、こうした事情を踏まえて本制度を設けています。
主な対象となるのは、雇用保険の被保険者となる外国人労働者を直接雇用している事業主です。ただし、特別永住者や在留資格が「外交」「公用」である人などは対象から除かれます。
在留資格だけで単純に判断するのではなく、外国人雇用状況届出の対象者であること、事業主と労働契約を結んで直接雇用されていること、雇用保険の被保険者であることなどを確認する必要があります。
制度の最新情報は、厚生労働省「外国人労働者就労環境整備助成コース」で確認できます。
何を整備すれば助成対象になるのか
この助成金では、会社が好きな取組を一つ行えばよいわけではありません。
まず、次の2つが必須です。
- 雇用労務責任者の選任
- 就業規則などの多言語化
そのうえで、次の3つから少なくとも一つを選んで、新たに導入・実施します。
- 苦情・相談体制の整備
- 一時帰国のための休暇制度の整備
- 社内マニュアルや標識類などの多言語化
つまり、最低でも「必須の2つ」と「選択メニューの1つ」を組み合わせる必要があります。
受給要件をすべて満たした場合、1制度の導入につき20万円、上限80万円が支給されます。
通訳費、一定の翻訳機器導入費、翻訳料、弁護士や社会保険労務士などへの委託料、多言語標識の設置・改修費などが、対象経費として考えられます。
ただし、「費用を使えば必ず助成金がもらえる」という制度ではありません。計画認定、適切な導入と実施、証拠書類、離職率など、複数の条件を満たす必要があります。
雇用労務責任者は、名前だけ決めても足りない
雇用労務責任者とは、外国人労働者の職場環境整備や相談対応などを担当する人です。
外国人労働者が働いている事業所ごとに選任し、その氏名を掲示や社内メールなどで周知します。
専任者を新たに雇う必要はなく、人事担当者や管理職が兼任することも可能です。適任者がいない場合には、事業主や役員が担当できる場合もあります。
ただし、名前だけ決めて終わりではありません。
計画期間中に外国人労働者と1回以上面談し、その結果を書面に残す必要があります。労働法令違反などがあった場合に相談できる行政機関についても案内します。
ここで大切なのは、助成金のための面談にしないことです。
「何か困っていることはありませんか」
この一言だけでは、外国人労働者は本音を話せないかもしれません。
業務指示を理解できているか、賃金明細の見方が分かるか、残業や休日のルールに疑問がないか、職場で孤立していないかなど、具体的に確認する必要があります。
面談に通訳が必要であれば、その環境も整えなければなりません。
多言語化とは、単に外国語へ翻訳することではない
必須となるもう一つの取組が、就業規則などの多言語化です。
対象となるのは、就業規則、労働協約、労働条件通知書、雇用契約書のいずれかです。
ここで注意したいのが、インターネットの翻訳サービスへ文章を貼り付け、そのまま渡せばよいわけではないという点です。
労働時間、休日、割増賃金、休職、懲戒、退職などの重要な規定が誤って翻訳されれば、かえってトラブルの原因になります。
また、外国語への翻訳だけでなく、「やさしい日本語」を使う方法もあります。
たとえば、「所定労働時間」「懲戒処分」「無断欠勤」といった言葉は、日本人であっても難しく感じることがあります。
専門用語をそのままにせず、
「会社が決めた仕事の時間」
「会社のルールに違反したときの処分」
「会社に連絡せずに仕事を休むこと」
など、意味を変えない範囲で分かりやすく説明します。
重要なのは、翻訳物を作ることではありません。
外国人労働者が、自分に適用されるルールを理解できる状態をつくることです。
どの選択メニューが自社に合うのか
選択メニューは、会社の課題に応じて選びます。
外国人労働者が不満や悩みを言えず、問題が表面化しにくい会社であれば、「苦情・相談体制の整備」が考えられます。
社内に相談窓口を設けるほか、通訳が同席する個別面談、外部機関へ委託した専用電話やメール窓口なども検討できます。
ただし、特定技能外国人を雇用する事業所や技能実習の監理団体などでは、このメニューの取扱いに注意が必要です。外国人材の在留資格や受入れの仕組みによっては、ほかのメニューを選ぶ必要があります。
母国の家族に会うための帰国が課題になっている会社では、「一時帰国のための休暇制度」が考えられます。
この制度では、通常の年次有給休暇とは別に、1年間に1回以上、連続した5日以上の有給休暇を取得できる仕組みを新たに定めます。
就業規則や労働協約への明文化が必要です。
制度を作っても、実際には上司が休ませないのであれば意味がありません。繁忙期や代替要員の問題を含め、現場で使える制度として設計する必要があります。
製造業、建設業、介護、飲食業など、安全や作業手順の理解が重要な会社では、「社内マニュアル・標識類等の多言語化」が有効です。
安全衛生、ハラスメント、福利厚生、作業手順、避難方法、立入禁止区域などを、外国人労働者が理解できる言葉や動画で示します。
「注意」「危険」と日本語で大きく書いてあっても、その意味が伝わっていなければ安全対策として十分とはいえません。
これは助成金のためだけでなく、労災事故を防ぐうえでも重要な取組です。
最大の落とし穴は、申請前に動いてしまうこと
この助成金を検討するとき、最も注意してほしいのが着手の時期です。
「助成金があるなら、すぐ翻訳会社に発注しよう」
「先に就業規則を変更してから申請しよう」
「専門家へ依頼するため、手付金を支払っておこう」
このように先に動くと、助成対象にならない可能性があります。
原則として、就労環境整備計画を労働局などへ提出する前に、対象となる業務を外部機関へ委託したり、対象経費の一部または全部を支払ったりした場合は、支給対象になりません。預かり金など、名称を変えた支払いにも注意が必要です。
まず計画を作り、決められた期間内に提出し、認定された計画に沿って導入・実施することが基本です。
計画期間は3か月以上1年以内です。
計画書は、計画期間の初日から6か月前の日から1か月前の日までに提出する必要があります。
「来月から始めたいので、今月中に申請すれば間に合うだろう」という進め方では、間に合わない可能性があります。
助成金は、順番を間違えると、それまでの準備が無駄になりかねません。
契約、発注、支払い、規程変更を行う前に、必ず最新のガイドブックと管轄労働局の取扱いを確認してください。
助成金は後払い。しかも離職率の条件がある
助成金は、会社が環境整備を行う前に支給されるものではありません。
会社がいったん翻訳費や専門家への委託料などを負担し、計画どおりに制度を導入・実施した後に支給申請を行います。
そのため、助成金が入金されるまでの資金を会社で用意する必要があります。
さらに、外国人労働者の離職率に関する条件もあります。
原則として、就労環境整備措置の実施日の翌日から6か月間の外国人労働者離職率を15%以下にする必要があります。
算定期間の初日における外国人労働者数が2人以上10人以下の場合は、6か月間の外国人離職者数が1人以下であることが基準となります。
計画提出日から離職率算定期間の末日まで継続して雇用される外国人労働者が、1人以上いることも原則として必要です。
つまり、この助成金は「制度を作った会社」ではなく、「制度を使って外国人材の定着に取り組んだ会社」を支援する仕組みなのです。
助成金欲しさに書類だけ整えても、職場の実態が変わらず外国人材が次々に辞めてしまえば、支給要件を満たせない可能性があります。
無料の活用可能性診断シートをご用意しました
今回、外国人労働者を雇用している中小企業向けに、
「外国人労働者就労環境整備助成コース・活用可能性診断シート」
をご用意しました。
シートでは、次のような項目を確認できます。
- 対象となる外国人労働者を雇用しているか
- 外国人雇用状況届出を適正に行っているか
- 申請前に契約・発注・支払いをしていないか
- 雇用労務責任者を選任できるか
- 就業規則などを多言語化できるか
- どの選択メニューが自社に適しているか
- 離職率の条件を達成できそうか
- 記録や証拠資料を保存できるか
- 助成金が後払いでも費用を負担できるか
プルダウンに回答すると、活用可能性、不足している準備、次に取るべき行動が自動表示されます。
導入予定の措置を選ぶことで、助成額の概算も確認できます。
ただし、このシートは簡易診断です。助成金の受給を保証するものではありません。最終的な対象可否は、最新の支給要領と管轄労働局の判断をご確認ください。
下記フォームからお申し込みいただくと、登録したメールアドレスにダウンロード用URLが届きます。
▶ 「外国人労働者就労環境整備助成コース・活用可能性診断シート」を無料で受け取る
助成金より先に、どのような会社にしたいかを考える
外国人労働者を採用する会社は、今後さらに増えていくでしょう。
しかし、「日本に来たのだから、日本語と日本の働き方に合わせてもらえばよい」という考えだけでは、外国人材の定着は難しくなります。
必要なのは、外国人だけを特別扱いすることではありません。
会社のルールを理解できるように説明する。
困ったときに相談できる人を決める。
家族や母国とのつながりに配慮する。
危険な作業を、理解できる言葉や図で伝える。
こうした取組は、外国人だけでなく、日本人社員にとっても働きやすい職場づくりにつながります。
助成金は、そのための費用と行動を後押ししてくれる制度です。
ただし、計画書、外国人雇用状況届出、就業規則、多言語化、相談体制、実施記録、離職率、支給申請までを自社だけで管理するのは簡単ではありません。
「自社が対象になるのか分からない」
「どのメニューを選べばよいか判断できない」
「就業規則をどのように変更すればよいか分からない」
「翻訳や外国人雇用の手続きまでまとめて相談したい」
そのような場合は、契約や支払いをする前に、オフィススギヤマグループへご相談ください。
社会保険労務士、行政書士、採用・定着支援の専門家が連携し、助成金を受け取ることだけを目的にせず、外国人材が安心して働き続けられる環境づくりを一緒に整理します。
助成金をもらって終わる会社ではなく、その先も外国人材から選ばれ続ける会社を目指しましょう。