不正受給の代償は“倒産”でした ― 宮崎の事例に学ぶ経営リスク

杉山 晃浩

「まさか自分の会社がここまで追い込まれるとは思わなかった」
今回のニュースを見て、そんな言葉が頭に浮かんだ経営者の方もいるのではないでしょうか。

宮崎市の映像制作会社が、雇用調整助成金の不正受給による返還問題をきっかけに、最終的に破産手続きに入ったという報道がありました。

この話を聞いて、「あの会社が悪かっただけ」「うちは関係ない」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、社労士として現場を見ている立場から言うと、これは決して特別な話ではありません。

むしろ、地方の中小企業であればあるほど、同じ構造のリスクを抱えているケースは少なくないのが実情です。


今回のケースでは、2020年分の雇用調整助成金について不正受給が発覚し、約3,200万円の返還を求められました。

しかし、その全額を返すことができず、一部返還にとどまります。
そこに本業の販売不振が重なり、資金繰りが急激に悪化。

結果として事業は停止し、最終的には破産という形に至りました。

ここで注目すべきは、売上規模です。
年間約3,600万円。

つまり、ごく一般的な中小企業です。
決して無理な拡大をしていたわけでもなく、特殊な業種でもありません。

だからこそ、この事例は他人事ではありません。


では、なぜこのようなことが起きてしまうのでしょうか。

「不正受給=悪いことをしたから」という見方は間違いではありません。
ただ、それだけでは現場の実態は説明できません。

助成金制度は非常に複雑で、正しく理解するのが難しいものです。
特にコロナ禍では制度変更が頻繁に行われ、情報も錯綜していました。

その中で、「このくらいなら大丈夫」「他の会社もやっている」という話が広がります。
さらに、専門家が関与していない、あるいは誤ったアドバイスを受けてしまうケースもあります。

そして、最も危険なのが資金繰りが苦しくなったときです。

「今だけ乗り切ればいい」
「とりあえず申請しておこう」

こうした判断が、後になって会社の首を締めることになります。

つまり、不正受給は“悪意”だけで起きるものではなく、“甘い判断の積み重ね”によって起きるケースも多いのです。


そして、多くの経営者が見誤るのが「返せば終わり」という認識です。

実際には、そこからが本当の問題の始まりです。

まず、返還に加えて加算金が発生します。
今回のように数千万円規模になると、それだけで資金繰りは一気に崩れます。

さらに、信用の問題があります。
金融機関からの評価は下がり、融資は厳しくなります。
取引先からの信頼も揺らぎ、取引条件の見直しや契約停止につながることもあります。

採用にも影響が出ます。
「この会社は大丈夫か?」という不安は、求職者にも確実に伝わります。

そして見落とされがちなのが、行政対応の負担です。
調査対応や資料提出に追われ、本業に集中できなくなります。

つまり、不正受給の本質的な怖さは「お金」ではなく、「経営を止める力」にあります。


これまで多くの企業を見てきた中で、リスクが高い会社にはいくつかの共通点があります。

助成金を“利益”と考えてしまっている。
書類や証拠の整備が曖昧。
就業規則と実態が合っていない。
そして、「なんとかなる」という感覚で進めている。

これらは一つひとつは小さな問題に見えるかもしれません。
しかし、積み重なると大きなリスクになります。

逆に言えば、この部分を見直すだけでも、リスクは大きく下げることができます。


助成金は本来、企業を支えるための制度です。
正しく使えば、資金繰りを助け、雇用を守る強力な武器になります。

しかし、使い方を間違えれば、今回のように会社を潰す“爆弾”にもなります。

重要なのは、「申請すること」ではなく「設計すること」です。

制度の理解だけでなく、就業規則・実際の運用・証拠書類がすべて一致しているか。
ここまで踏み込んで初めて、安全に活用することができます。


「自社は大丈夫だろうか」と感じた方のために、
不正受給リスクを簡単に確認できるチェックシートを用意しました。

現場で実際に見てきたポイントをもとに作成していますので、
形式的なチェックではなく、実態に即した判断ができます。

無料でダウンロードできますので、一度確認してみてください。


最後に、少しだけ率直なことをお伝えします。

もしすでに不正受給をしてしまっている場合、
それを「なかったことにする」「うまく逃れる」といったご相談には対応できません。

正直に言って、それは無理です。
そして、その方向で関わることは、専門家としてもできません。

ただし、これから会社を立て直したい、
きちんとした経営に戻したいということであれば、話は別です。

過去ではなく、未来に向けて会社を整えていく。
そのための制度設計や運用の見直しについては、いくらでもお手伝いできます。


助成金は、正しく使えば会社を守ります。
しかし、間違えれば会社を壊します。

今回の事例は、その現実をはっきりと示しています。

「知らなかった」では済まされない時代です。
だからこそ、今のうちに一度、自社の状態を見直してみてください。

小さな違和感の段階であれば、まだ間に合います。

 
 

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