「65歳まで雇っているから安心」が危ない理由 ─ 高年齢者雇用状況等報告で見落としがちな実務リスクとは?
杉山 晃浩
「うちは65歳まで再雇用しているから問題ないですよ」
高年齢者雇用について経営者と話をしていると、このような言葉をよく聞きます。
もちろん、65歳まで働ける環境を整えていること自体は、とても大切なことです。
特に地方企業では、人手不足が深刻化しており、高齢社員の力を借りなければ会社が回らないというケースも増えています。
しかし実際には、
- 毎年の「高年齢者雇用状況等報告」を忘れている
- 就業規則が古いまま
- 再雇用制度が曖昧
- 労働条件通知書を作っていない
- 高齢社員だけ給与ルールが不透明
- 社会保険の扱いが整理されていない
という会社も少なくありません。
そして怖いのは、「悪気なくやっている」という点です。
今回は、中小企業が見落としやすい「高年齢者雇用状況等報告」と、その裏側に潜む実務リスクについて、わかりやすく整理していきます。
高年齢者雇用状況等報告とは?
これは、一定規模以上の会社に対して毎年提出が求められる報告です。
提出先はハローワークです。
対象となるのは、常時31人以上の労働者を雇用している会社です。
毎年6月1日時点の状況について、
- 何歳まで働ける制度になっているか
- 継続雇用制度はどうなっているか
- 高齢者が実際に働いているか
などを報告します。
「高年齢者雇用安定法」に基づく報告であり、単なるアンケートではありません。
「提出してくださいね」というお知らせが届くため、何となく事務的に処理している会社も多いですが、本来は会社の高齢者雇用の実態を確認される重要な報告です。
「再雇用しているだけ」で安心していませんか?
ここが非常に重要です。
多くの中小企業では、
「定年後も働いてもらっているから大丈夫」
という認識があります。
しかし実際には、
- 制度
- 書類
- 実態
が一致していないケースがかなり多いのです。
例えば、
就業規則が古い
昔作った就業規則のままで、
- 60歳定年のみ
- 継続雇用制度の記載なし
- 対象者基準が古い
ということがあります。
法改正前の規程が残っている会社も珍しくありません。
労働条件通知書がない
「今までと同じ感じで働いてね」
だけで再雇用している会社があります。
しかし、本来は、
- 契約期間
- 賃金
- 業務内容
- 労働時間
などを明確にする必要があります。
特に近年は、「言った・言わない」のトラブルが増えています。
給与の下げ方が雑
高齢社員の再雇用時に、
「とりあえず給与半分ね」
のような運用をしてしまう会社があります。
もちろん、仕事内容や責任が変われば賃金変更自体はあり得ます。
しかし、
- 説明不足
- 基準不明
- 評価制度なし
だと、不満やトラブルにつながりやすくなります。
本当に怖いのは「報告漏れ」ではなく「実態とのズレ」
実は、社労士として見ていて怖いのは、単なる提出漏れだけではありません。
怖いのは、
「会社が自分たちの状態を正しく把握していない」
ことです。
例えば、
- 規程では65歳までとなっている
- 実際は70歳近くまで働いている
- でも契約書がない
- 社会保険処理も曖昧
- 健康管理ルールもない
というケースがあります。
これ、実務的にはかなり危険です。
高齢社員が増える時代だからこそ「仕組み」が必要
昔は、
- 60歳で引退
- 年金生活へ
という流れが一般的でした。
しかし今は違います。
- 年金支給開始年齢
- 人手不足
- 生活費上昇
- 働く意欲
などの背景から、70歳近くまで働く方も増えています。
特に地方では、
「高齢社員がいないと現場が回らない」
会社も多いです。
介護、建設、運送、製造、医療、小売などでは特に顕著です。
だからこそ、経営者の感覚だけで運営するのではなく、
- ルール
- 契約
- 健康配慮
- 労務管理
を整理しておく必要があります。
高齢社員対応で見落としやすいポイント
社会保険の加入
「高齢だから社保に入らなくていい」
と思い込んでいるケースがあります。
しかし、労働時間や条件によっては加入対象です。
特に短時間労働者の適用拡大もあり、昔の感覚で運営していると危険です。
労災リスク
高齢になると、
- 転倒
- 腰痛
- 判断力低下
などのリスクも高まります。
「ベテランだから大丈夫」
ではなく、
- 作業設計
- 動線
- 安全教育
なども重要になります。
同一労働同一賃金
再雇用者だけ極端に待遇が悪い場合、
「なぜ差があるのか」
の説明が求められる時代です。
特に、
- 手当
- 賞与
- 福利厚生
などは注意が必要です。
「うちは小さい会社だから大丈夫」が危ない
中小企業ほど、
「そこまで厳しく見られないだろう」
と思いがちです。
しかし最近は、
- ハローワーク
- 労基署
- 年金事務所
なども、制度と実態のズレをかなり見ています。
特に、
- 高齢者
- 外国人
- 短時間労働者
は重点テーマになりやすいです。
しかも中小企業ほど、
「昔からこうやっている」
が積み重なっているケースが多いのです。
高齢者雇用は「コスト」ではなく「会社の財産」
私は社労士として、多くの中小企業を見てきました。
その中で感じるのは、高齢社員には大きな価値があるということです。
- 技術
- 経験
- 顧客との信頼
- 若手教育
これは簡単に作れるものではありません。
だからこそ、高齢者雇用を「何となく」で運営するのではなく、
「会社の未来を支える仕組み」
として整備することが重要だと思います。
「よくわからない」は普通です
ここまで読むと、
「うち大丈夫かな…」
と思った方もいるかもしれません。
でも安心してください。
実際、多くの中小企業では、
- 制度が古い
- 規程が追いついていない
- 実態整理ができていない
ことが普通にあります。
問題は、
「気づかないまま放置すること」
です。
迷ったら、社労士と一緒に確認してください
高年齢者雇用は、
- 就業規則
- 労働条件
- 社会保険
- 安全配慮
- 賃金設計
など、さまざまな実務が関係します。
しかも法改正も多く、ネット情報だけでは判断が難しいケースもあります。
特に、
- 高齢社員が増えてきた
- 再雇用制度が昔のまま
- 何となく運用している
- 誰も全体を把握していない
という会社は、一度整理した方が安全です。
オフィススギヤマグループでは、
- 高齢者雇用制度の確認
- 就業規則見直し
- 再雇用制度設計
- 労務リスク整理
など、中小企業の実態に合わせたサポートを行っています。
「何が問題かわからない」
という段階でも大丈夫です。
むしろ、その段階で相談いただいた方が、後々の大きなトラブル防止につながることが多いです。
高齢者が安心して働ける会社は、若い世代から見ても「安心できる会社」です。
人手不足時代だからこそ、“何となく雇用”から卒業し、会社を守る仕組みづくりを進めていきましょう。